その7

 

 

 

 

 

エアコンの柔らかな風が頬に心地よい。

(えっ… あれ? ここは… 何処? )

清潔なシーツの上で目を覚ました須磨子は物憂気に身を起す。

(あっ… 痛い… )

刺激を感じて視線を下げれば、手首に荒縄の擦れた後が刻まれていて、赤く腫

れて痛々しい。すでに後ろ手の拘束も達磨転がしの為の荒縄も綺麗に解かれて

自由を取り戻した彼女はひとり残されたベッドに改めて身を横たえて、ついさ

っきまで巻き込まれていたアブノーマルな快美の渦を心の中で反芻する。

(ああ… ついに、今度はあの人の弟にまで犯られてしまったわ。しかも、い

 くら弱味を握られていたと言っても、あんな風に嬲られてしまうなんて… )

ヒリヒリと痛む手首を摩りながら、須磨子は3週間ぶりの緊縛された末の性行

為を思い出して、何度となく溜息を繰り返す。この屋敷に呼び出された理由が

進一の魔の手からの解放だった事が、実は彼女を不安に陥れていた。輪姦に次

ぐ輪姦の果てに、ふつうのセックスでは心の奥底に澱むドス黒い被虐癖を満足

させることだ出来なく成っていた須磨子にとって、いきなり悪魔の手から放り

出される事は、別の意味の地獄を見る結果に成るだろう。

進一の性交奴隷に堕ちて以来、それまで付き合っていた恋人とのセックスでは

イケなく成っていた才女にとって、本当に魔の手から逃れてしまった先で、い

ったい自分がどう成ってしまうのか? 不安に押しつぶされそうな気持ちを持

ったままで、今日、指定された屋敷へと赴いている。

(断れなかった… でも、本当に断りたかったの? どうなの? )

脅迫のネタが弟に譲られた事はショックだった。だが、今日初めてあった美少

年との最初のノーマルなセックスでさえ、精神的に支配された上での行為であ

ったから、付き合っている彼氏との肉交に比べて、大きな快美を味わっている

。それに加えて、本性をむき出しにした良太に縄をうたれた末にのバイブ責め

、さらに、絶対に人には知られたく無いアヌスでの性交から得られた凄まじい

快感は、すっかりと須磨子を幻惑している。

(どうしよう? 今がチャンスなのに… ようやく進一は私を手放してくれる

 って言うのに… また、あの子と同じ事をしたら… もっと駄目に成ってし

 まう)

何人もの男達の慰み者にされるのは悲しい、それにセックスだけでは無くて、

バイブで散々に嬲られてイカされるのも情けない。しかし、それも、肛門性交

により悪魔の快楽を刻み込まれて泣き狂う失態に比べれば、なにほどのもので

も無かろう。

排泄の為の器官に肉棒を迎え入れて、あんなにも狂ってしまう自分の躯を須磨

子は疎ましく思って絶望を深めている。最初は苦痛以外に何も無かったアヌス

での交わりが、やがて鮮烈な快美で己を打ちのめす事に成ろうとは、彼女は考

えてもいなかった。進一の手により引き摺り込まれた性の暗黒面に、その弟の

良太の手で一層深くにまで沈められてしまう予感が須磨子を混乱させている。

(どうしよう… どうしたらいいの… いえ、どうしたいのよ、須磨子? )

ひとり取り残されたベッドルームで、才女の誉れの高い美人ピアニストは、演

奏の邪魔に成らぬ様に切り揃えた爪を更に噛みながら物思いに耽ってしまう。

 

 

「あっ… お目覚めですか、須磨子さん」

散々悩んだ挙げ句に、ついに答えを見い出す事を諦めた須磨子は身支度を整え

てから、最初に導かれた応接間に顔を出す。そこでは、まるで何事も無かった

かの様に読書を楽しむ美少年がソファに腰掛けていた。

「どうそ、御掛け下さい。紅茶を入れ直しますね」

もう何もかもが、どうでも良く成った才媛は、新たに陵辱者の列に加わった良

太の勧めに従い、ソファに腰を降ろす。

「お待たせしました」

湯気の立ち上るティーカップを受け取っても、すぐには口を付ける気に成れな

い須磨子は、一旦カップをテーブルに降ろすと、小さく息を吸い込んでから良

太を睨む。

「返してちょうだい… 」

この屋敷に来た表向きの理由を思い出した才女は、なるべく困惑を表面に出さ

ないように注意しながら、良太に向って右の掌を突き出す。

「何をですか? 須磨子さん」

自分が座っていた席に戻って、読みかけの本を片付けた良太は、心底なんの事

だか分からないと言った雰囲気で微笑みながら問い質す。

「白々しい事を言わないでちょうだい! 写真よ。私が… 私が進一や彼の仲

 間に辱められている写真を返して! 」

はたしてこの求めが本心から出た言葉なのか訝りながらも、須磨子を厳しい顔

のままで少年を詰問する。

「ああ、写真ですか… 駄目ですよ」

あっさりと要求を退けた良太を、彼女は睨み続ける。

「須磨子さんは、とっても素直で良い子ですからね。御褒美にあの写真は返し

 てあげません。そうすれば、須磨子さんはいつでもこの家にくる理由に成る

 でしよう? 写真をネタにして脅かされて来るのですから、須磨子さんは全

 然悪く無い、と、言う事に成るんです」

美少年の台詞を聞きながら、須磨子は何故か心の中で安堵の溜息を漏らしてし

まう。彼女の微妙は表情の変化を、新しい主人はけして見逃す事は無い。

「そうです、いつ来ても良いのですよ。兄さんはしばらく演奏旅行に出てしま

 っていますが、ボクは基本的には学校から帰ってくれば家にいますからね。

 須磨子さん」

にっこりと微笑む良太をの笑顔が、被虐慣れした美女には神々しく思えたから

、須磨子は目を閉じて、やがて小さく頷いてしまった。

 

 

鬼畜な旋律 須磨子編 END

 

 

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