その6

 

 

 

 

「俺が13人だから、数は合っているな… 」

雅則の目が厳しさを増す。

「いったい、何をやっているんだ、この愚図! 別格の家柄だからって、いつ

 までも偉そうに構えているんじゃ無い! のろまな馬鹿やろうめ! 」

いきなり雅則が、頭一つ大きな部下を拳で殴りつける。十分にウエイトの乗っ

た一撃を喰らい、卓也の躯がグラリと揺れる。

「いいか? お前みたいな愚図がいると、俺のグループが見下されるんだよ。

 別格の家柄の出身だからって、実戦では関係ないんだ! あんな連中を相手

 にして、たった2人しか殺れないなら、実戦部隊はやめて、さっさと里に帰

 って畑でも耕していろ」

相手が無抵抗なのを良い事に、雅則は部下の腹を蹴り上げる。

「ぐぅ… 」

流石に鳩尾に対する強烈な蹴りの衝撃で、卓也はその場に崩れ落ちる。

「うすのろなお前のせいで、俺達まで馬鹿にされる事に成るんだぞ! お前み

 たいな役立たずが、別格だなんて、笑わせてくれるぜ。しかも、一族とは思

 えない霊的な不感症と来ていやがる。この恥曝しめ」

倒れた大柄な若者を、雅則は悪意を込めて何度も蹴り上げる。

「ねえ、リーダー、もうそれぐらいにしておきなよ。いくら丈夫な卓也でも、

 壊れちゃうからさ。卓也がボンクラなのは生まれ付きじゃないの」

見兼ねた美奈子が諌めるが、もう一人の傍観者の洋二は残酷な薄笑いを浮かべ

て、雅則の暴虐を止める気配は見せない。

「こんなに無能で鈍い奴が別格でござれ! って、でかいツラをいているのは

 我慢出来ないぜ! これほど簡単な状況で、たった2人しか殺れないクセに

 、いったい何様のつもりなんだ? 」

激情に駆られた雅則が執拗に倒れた若者を蹴り上げていると、木陰から一人の

男が見兼ねて姿を現す。

「おい、もう、それぐらいにしておけ」

不意に現れた男に驚き、雅則を初めとして他の2人の身構えるが、すぐにメン

バーの緊張は解れる。

「徹さん… 口を挟まんで下さい。この馬鹿野郎には躾ってモノが必要なんで

 すよ」

リーダーである雅則はリンチに等しい制裁の後ろめたさもあり、実戦部隊の大

先輩に当る徹に対して逆切れ気味に食って掛かる。

「こいつがしくじれば、俺達全員が窮地に立つ場合だってありえるでしょう? 

 今のうちにリーダーとして、性根を叩き直しておかなきゃ、いけません。だ

 から、部外者である徹さんの口出しは無用です」

戦闘能力であれば、けして先輩である徹に劣る事は無いと自負する雅則は、挑

戦的な目を向けて嘯く。

「このグループのリーダーが、お前だと決めたわけじゃ無い。今回の演習では

 便宜上、指揮を取らせただけだ。そこの所は間違えるなよ、雅則。それに、

 私的な制裁は感心しないし、度が過ぎている」

若い気負いを見せる雅則に、徹は苦笑いを浮かべて答える。だが、演習と言っ

ても一人で最も多くの国防軍のレンジャーを倒した若者は、ただでさえ強い自

尊心が膨れ上がっていて年上の先輩の忠告が面白く無い。

「この、うすろのが徹さんと同じで別格の家柄だからって、そんなに露骨に差

 別する事は無いでしょう? 現場では実力が全てじゃ無いんですか? 妖魔

 あいてに、血筋も家柄も関係無いと思いますよ」

雅則は、ようやく身を起してノロノロと立ち上がる卓也の睨み当て擦りの台詞

を口にする。

「下らん事をほざいていないで、さっさとポイント07へ行け、10分程で迎

 えのヘリが来る」

若者の皮肉を相手にしないで、徹は命令を下す。ほんの数秒間は怒りを込めた

瞳で彼を睨んだ雅則は、忌々し気な態度を崩す事もなく振り返り、そのまま命

令に従いジャングルの中に消えて行く。リーダーと先輩の諍いの様子を眺めて

いた美奈子と洋二は、慌ててこの演習でのグループの指揮官の後に続く。

「ほら、お前も大丈夫か? 」

尻に付いた土を叩き落としてやりながら、徹は呆れたように卓也に問いかける。

「すみません… 」

大柄な徹よりも更に多少上背のある若者は、素直に先輩の好意に礼を言う。

「それにしても、何でお前は反撃しないんだ? あの程度の腕の餓鬼なら、怪

 我をさせずに制圧する事も可能だろうに? 」

徹の問い掛けに、卓也は俯き目を伏せる。

「この演習の間は雅則がリーダーですから。それに、あいつは自尊心が高い奴

 だから、ヘタに手を出すと見境を無くします。演習はまだ終わったわけでは

 ありませんからね、こんなところで仲間割れしている場合じゃ無いと思いま

 した」

同じ別格の家柄である外戚衆の気安さもあり、いつもに増して卓也の口は滑ら

かだ。あれだけ酷く暴行を受けながら、巧みに致命的なダメージを避けて冷静

な考えを崩さない大男に徹は多少感心する。

「ところで、お前。対レンジャーとの演習で2人を制圧する時に、なんであん

 なに躊躇したんだ? 確かに手際は完璧だが、俺にはどうにもお前が躊躇っ

 ている様に見えてならんのだ」

監督として現場で潜んで見守っていた徹の鋭い指摘に、卓也は困った様な顔を

見せる。

「実際に、躊躇いはありました。これは仮想対妖魔用の戦闘シュミレーション

 でしたよね? 如何に相手が妖魔だからって、出合い頭に抹殺して良いもの

 かどうか? たとえ命令であっても… それに、演習としても、俺には納得

 が出来ないのです。妖魔だって、生きているんですからね」

卓也はこれまで胸の中に納めて誰にも明かした事の無い本心を、つい先輩であ

る徹にぶっけてしまう。

「妖魔だって生き物だし、連中にも言い分はあるでしょう? そりゃぁ、俺達

 『紅』が政府お抱えの対妖魔の戦闘組織だって言うのは承知しています。俺

 達が殺さなければ、力の無い一般の連中が任務に狩り出されて、大きな損害

 を被るのも事実です。でも、それでも、こんなやり方で良いのでしょうか? 

 俺には分からんのですよ、徹さん」

若者の悲痛な声を聞き、何故か徹は無表情に成る。

「そんな甘い考え方だと、現場でお前が命を落とす事になるぞ。向こうが殺り

 に来たら、確実にお前の命は無い」

何度も死線をくぐり抜けて、苛烈な戦闘から躯の一部を機械化している徹の言

葉には説得力があるから、卓也は目を伏せて青ざめる。

 

 

 

 

 


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