「よし、こんな時には気分転換に限る! 工藤か佐伯でも誘ってマージャンだ」 部屋でグジグジと考えていてもしょうがないと開き直った良輝は、悪友とのマージ ャンで憂さを晴らそうと立ち上がる。その時… ピンポーン… ピンポン、ピンポーン… 「おっ、多分工藤だな、タイミングの良い奴だ」 下宿先が近いことから頻繁に麻雀の誘いに訪れる悪友の顔を思い浮かべながら、手 間が省けた事を喜び良輝はホイホイと玄関に向かう。 「おう、よく来たな、タイミングが… えっ… あれ… 」 勢い良く扉を開き悪友を迎え入れたつもりの良輝は、ドアノブを握ったまま固まっ た。
「あら、待っていてくれたの? 嬉しいなぁ」 両方の肩のそれぞれに大ぶりのスポーツバッグを担いだ純子の笑顔を見て、若者は 瞬時に反応出来ずに呆然と立ちすくむ。 「ねえ、これ、重いのよ。ちょっと手伝ってちょうだい」 「あっ、ああ、御免、気が付かないで… 」 悪友とのマージャンでの憂さ晴らしの計画は瞬時に吹っ飛び、手渡されたスポーツ バックの重さに当惑しながら、彼は美女を自室に招き入れた。
「ああ、草臥れた、こんな事ならば駅まで迎えに来てもらえば良かったわ」 リビングの絨緞の上にペタンと座り込んだ美女の唐突な登場に、良輝は戸惑うばか りだ。 「あっ、あの千草さん… 」 「純子でいいわよ、それより駅からここまで歩いて来て、もう咽かカラッカラなの 、ねえ、ビールを恵んでちょうだい」 回れ右した若者は小走りで冷蔵庫に辿り着くと、程よく冷えた缶ビールを手にリビ ングに舞い戻る。
「サンキュー 」 手渡されたビールのプルトップを無造作に開けると、純子は一気に半分近くまで咽 に放り込む。 「ぷは〜、生き返る〜 」 なんとも親父臭い台詞を吐いた美女はがにっこりと微笑むから、良輝も愛想笑いで 応じるより他に対応出来ない。 「えっと、なんか、随分と大荷物だよねぇ… 」 「うん、重かった〜 」 話の接ぎ穂を求めて荷物に触れた良輝に、缶ビールを手にした美女はくったくの無 い笑みで応じる。
「実はねぇ… ルームシェアしていた友人の女の子が、実家の都合で大学を辞めて 田舎に帰る事になっちゃったの。ルームシェアと言えば聞こえがいいのだけれど も、実は彼女のアパートに私が転がり込んで世話に成っていたのよね」 半分まで減ったビールを惜しむように、彼女はアルミ缶を小さく煽る。 「家賃だってロクに入れていなかったし、バイト代が入ると、ちょっとだけお金を 払っていた身分だから、とても彼女から部屋を引き継ぐなんて出来ないの。月末に は今の部屋を明け渡す事が決まってね、焦って他を当ったけれども、希望の家賃の 部屋が見つからなくて困っていたのよ」 話の方向性が見えて来たことで良輝の狼狽が深まる。
「それじゃ、この大荷物は… 」 「そう、私の生活用品の全部」 空になった缶ビールをロー・テーブルに置いて純子はニッコリ微笑んだ。 「まさか見捨てたりしないわよね、あんだけ子種汁を注ぎ込んだ女ですもの。あっ 、贅沢は言わないわよ、今日はとにかく、これからはビールじゃ無くて発泡酒で 十分、白い御飯におかずが一品、それにお味噌汁があれば満足だから」 薔薇の様な笑みを浮かべる美女の言葉に、良輝は目眩すら感じていた。
「まさか、最初からそのつもりで… 」 思えば彼女があのレンタルビデオ屋にバイトとして出現したのも唐突と言えば唐突 だった。 「あら、ひどい、私がそんなに打算的な女だって言うの? ちがうわよ、ただ愛し い男が他の女に手を出さないように見張りたいだけ」 澄ました顔で純子が嘯く。 「だってアナタはとっても素敵でゼミの女の子達の間でも評判も上々だから、恋人 としては目が離せない気持ち、わかって欲しいなぁ… 」 「あっ、そんな、別に俺… モテるなんて… 」 日頃めったに誉められた事の無い若者は、美女の言葉で舞い上がる。
「好きな人といっしょに暮らしたい女心をわかってよ」 「ああ、うん、そうだね… 」 多少釈然としない思いを無理に心の片隅に追いやって、良輝は引き攣った笑顔で頷 いた。 「今も言った通りで家賃なんて中々払えないけれど、その代わり性欲処理はまかせ てね。他の女に目が向かない様に、アナタの子種汁は全部私が吸い取ってあげる」 瞳に妖しい光を宿し妖艶に微笑む美女を前に、良輝は頷くより他に何も出来なかっ た。
まいった! END
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