怒りを露にした級友に向かって、良文は順序立てて状況の説明を行った。 「畜生! あのバカ、弱いもの苛めなんて、下らない事をしやがって! それであの 野郎は正直に全部を話せないのか! 」 面白い事に何の疑念も無く100パーセント良文の説明を信じた不良少年の怒りの鉾 先は、全てを離し終えたのちには彼の苛めっ子の弟に向かって方向を変えている。 「すまねえ、くだらねえ事で時間を取らせたな。アホの弟が妙に落ち込んでいたから 理由を問い質したら、お前に脅かされたって言うじゃないか! でも、どう見たっ て真面目な串本が、小学生を虐めて喜ぶようには見えないんで、こうやってわざわ ざ顔を貸してもらったんだ」 誤解の解けた不良少年は大柄な身体を折って詫びの言葉を口にした。
「あの馬鹿弟は、なんでお前に脅かされたか口を割らないから、お前の方に理由を聞 いたんだよ。弱い奴をよってたかって虐めるなんて、最低だ! 家に帰ったらぶん 殴って説教してやる! 」 「暴力は困るけれども、僕も隣の人に頼まれているので、出来れば駄目押しで、もう 一度注意してくれると助かるよ」 ぶん殴られる可能性のかなり高い弟に同情して、良文は手加減を加えるように申し出た。 「おう分かった! 任せてくれ。それにしても迷惑をかけたな、スマン、この通り」 もう一度腰を折り深く頭を下げる級友の態度に、逆に良文は恐縮してしまった。
学校の規則に逆らうワリには、きちんと筋を通そうとする不良生徒の考え方が好ましか ったので、これを切っ掛けに良文と卓也は親しく話をする様に成った。恰好こそ不良を 気取ってはいるが、他の悪餓鬼連中と群れる事を潔いとは考えず、何よりも男気を大切 にする朴訥な大男と良文は、個性が明らかに異なる事から奇妙に気が合い、親友と呼べ る様に成るまでに時間は掛からなかった。ひょんな事から頼もしい友を得た良文の胸中 にひとつの魅力的なプランが浮かんで行く。
「その後、一樹くんの様子がどうですか? 」 招きを受けても、もう戸惑う事が無くなった良文は、今では何度も肌を合わせている美 貌の若妻に問いかけた。 「おかげさまで、苛めの徴候はまったく見られないわ。学校に行くのも楽しいって、こ の間、初めて言っていたわ」 トレーに紅茶のカップを乗せてリビングに戻って来た真弓子は、感謝を込めて微笑んで いる。 「実は、一樹くんを虐めていたグループのリーダーが、僕のクラスメイトの弟だって事 がこの前わかったもので、彼を通じて弟に二度と一樹くんを虐めたら承知しないぞっ て、きつく脅かしてもらったんです。だから、もう一樹くんが意地悪される心配はあ りません」 胸に悪巧みを隠しながら、良文は自慢げに微笑んだ。
「あら、そんな事までしてくれたのね? それを聞いたら、もっといっぱい、御褒美を あげないといけないわ」 もう愛人と言っても良い関係になった年下の若い牡に向かって、露骨な媚びを見せなが ら真弓子は妖然と微笑んだ。 「その御褒美について、ちょっとお願いがあるのですが… 」 ひとり息子への苛めの問題が片付いたことから上機嫌の美しい若妻に向かって、良文は 注意深く御強請りを口にした。 「あら? なに? 他ならぬヨシフミのお願いなんだもの、なんでも言ってちょうだい」 にこやかに微笑む美人妻の反応に気を良くした良文は、ついに胸中で育んできた計画を 口にする。
「実は、一樹くんに対する苛め防止に為に、苛めっ子の兄である和田卓也くんに、とっ ても世話になったんです。それで、その… 」 流石に澱み無く切り出すには問題がデリケートだったから、良文は怪訝な顔で彼を見つ める美貌の若妻の前で言い淀む。しかし、ここまで話した以上は最後まで突貫あるのみ だ。 「僕のクラスメイトの和田くんにも、その… えっと、御褒美をいただくわけには行き ませんか? 」 ようやく全部を話し終えた少年は、ドキドキしながら美人妻を見つめる。最初は目を丸 くして驚き言葉を失った真弓子だが、ひと呼吸あとには弾かれた様に仰け反り朗らかな 笑い声を張り上げた。
「あはははははは… ああ、おかしい。ねえ、御褒美って、キミに上げている、アレの 事だよね」 「ええ、そうなんです、ちなみに和田くんも、まだ童貞だそうです」 それが申し出に対する補強材量になるかどうか分からないが、良文は推薦した親友がチ ェリーボーイである事も明かした。 「あはははははははは… ヨシフミくん、君って、本当に面白い、でも… 」 いきなり笑いを引っ込めて真顔になった美貌の若妻を見て良文はビビった。 「いいわねぇ、そのお話、乗ったわ。さっそく明日、その、何んて言ったっけ、そうそ う和田クンって子を、ここに連れて来てちょうだい」 若妻が余りにもあっさりと彼の申し出を承諾したので、良文は拍子抜けした感がつよい。
(もう少し説得するのが難しくなると思ったけれども、真弓子さんは以外と淫乱なんだ なぁ… ) 自分の非常識な申し出を棚に上げて、それを快諾した美貌の若妻の態度に呆れた少年に むかって、真弓子は嬉しそうに話し掛けてくる。 「ここに連れてくる前に、ちゃんとその子にはお話を付けておいてちょうだいね。面倒 な説明は抜きにして楽しみたいもの」 「はい、任せてください。それから卓也は口の固い男ですし、約束もちゃんと守る奴で すから、秘密は絶対に漏らしません。それは僕が保障します」 内心で、この話しを持ちかけたら親友がどんな顔をするかワクワクしながら、良文は少 し冷めた紅茶のカップを口元に運び咽を潤した。
苛めっ子撲滅委員会 前編 END
前編までですが、なにか一言カキコ下さると嬉しいです
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