その8

 

 

 

「ええ、ほんとうに… でも、ほら、あの頃の私は奥手で真面目だったから、まさ

 か塾の先生が変態だなんて思ってもいないわけ。それに子供心ながらに、なにか

 いけない事をしているのは分かるし、センセイからも何度も他の誰にも言ったら

 駄目だって念押しされていたものだから、小学校を卒業するまでは内緒にしてい

 たの。もしも誰かに喋ったら、あの気持ちの良くて、多分とってもいけない事は

 、もうお終いだって分かっていたのよね」

少し冷めた紅茶を口に運び咽の乾きを潤した美女は、昔を思い出しながら告白を続

ける。

 

「1年もそうしたイケナイ関係が続けば、女の子もそれなりに鍛えられちゃうもの

 ね。おまけにセンセイと来たら図に乗って、私のパンツを引き降ろすと、直接に

 マ◯コをベロベロと舐める様に成ったのよ。初めて舐められた時には恥ずかしく

 て死んでしまいたかったけれど、そのうちに… うふふ、分かるでしょう? ま

 だ未成熟な女の子にいきなり舌での愛撫をするなんて酷い奴だったわ」

口では非難しているが、何故か麻美はとても懐かしそうな顔をしている。

 

「オナニーの味を教えてくれたのも、そのセンセイなの。あの野郎の目の前で裸に

 成って股を開いて自分で弄るのよ。もちろん命令されての事だけれど、ほら、問

 題が分からなかったバツだから逆らえなかったわ。と、言うよりも、多分逆らい

 たく無かったのね。初めてのオナニーが人に見られながらな女の子なんて、日本

 中探しても私くらいなものでしょう? 」

赤裸々な麻美の過去の話に、もう良治は夢中に成っている。

 

「それで、それから、どう成ったのさ? 」

「あはははは… やっぱりヨシハルは筋金入りのスケベね。良いわ、教えてあげる

 。あの変態野郎の特別授業は2年間も続けられたの。毎週3回、必ず私は塾に居

 残りに成ってあの糞っ垂れ野郎の前で股を開いてオナニーしてやったわ。私が軽

 くイッちゃうと、あいつは飽きもせずにベロベロをマ◯コを舐め回したものよ。

 だから、私は塾に行く時には必ず替えのパンティを持って行かなければ成らなか

 ったくらいね。でも、あいつは根っからのロリコンで、そのうちに産毛程度に生

 えて来た私の恥毛を忌々しそうに何度も剃り落としていたわ」

皮肉な笑みを浮かべる美女の衝撃的な過去を知らされて、良治は間の手すら入れら

れない。

 

「塾の変態講師のせいで小◯校を卒業する時には、毎晩布団の中で何度もオナニー

 しないと寝付けない淫乱少女の出来上がりよ。それから… 」

そこで麻美は話を一旦とめると、探るような目で若者を見つめる。

「それから、どうしたんだい? 焦らさないで教えてくれよマミさん」

「うふふ… それから、あの変態野郎はあたしのマ◯コに毛が生えるまで、散々嬲っ

 てくれた挙げ句に、いきなり目の前から消えちゃったの」

頬杖を付き物憂げに窓の外を眺めながら、彼女は溜息を漏らす。

 

「アイツは私以外の女の子にもちょっかい出していて、ついに他の女の子が我慢でき

 なく成って両親に相談しちゃったの。まったく、適性ってものを考えて手を出せば

 いいのに… それで、あとは警察が乗り込んで来て、あの馬鹿は塀の向こうに放り

 込まれちゃった」

どうやら変態ロリコン塾講師は、落ち着くべき所に落ち着いたようだ。

 

「考えてもみてよ、小学4年生から3年間も毎週火木土とロリコン変態野郎にマン◯

 を舐められて、かわりに臭くて汚いチン◯ンをしゃぶらされて来た女が、いったい

 どんな風に育つか? だからアタシが処女じゃ無くなったのは、あの変態講師が逮

 捕された3ヶ月後の事。近所の大学生のお兄さんを、こっちから誘惑して抱いても

 らったの」

年上の美女の驚くべき身の上話しを聞かされて、良治は言葉も無い。極めて平凡な生

活を過ごして来て、ようやく今春社会に出ようとする若者にとって、麻美の経験は驚

愕に値した。

 

「あの大学生のお兄ちゃんを皮切りにして、そうね… かるく両手両足の指の数を超

 える男達と寝てきたけれども、ヨシハルのセックスは上位3番手以内には入ってい

 るから、今後のナンパには自信を持っていいと思うよ」

真っ昼間のファミレスと言うロケーションなのに、麻美は妖艶な笑みを浮かべて身の

上話しを締めくくった。また会いたいからせめて携帯の番号かメアドだけでも教えて

くれと懇願する良治に向かって、年上の美女は寂しげな笑みを浮かべつつ首を横に振

る。

 

「ヨシハルに私の昔話をしたのは、もう二度と会う事も無い他人だからよ。一夜限り

 の関係って素敵でしょ? それに、もしも二人の間に縁があるなら、またきっと何

 処かで会えるわよ」

最後まで良治の事をはぐらかしたまま、美しく聡明で、誰よりも淫乱な美女は振り返

る事も無く街の雑踏の中へと消えて行った。

 

 

 

 

 

「住めば都と言うけれども、いつかここに馴染む日が来るのかな? 」

新幹線が停まる駅から在来線に乗り換えて2時間ほどの距離にある地方都市にやって

来た良治は、やけに空が広い事に感動しながら、今日はいよいよ勤め先となる中学校

に足を踏み入れていた。無造作に延ばしていた髪の毛をきちんと切り整え、量販店で

買い求めた紺のスーツ姿を鏡で見た時には正直に言えば息苦しさも覚えたが、この御

時世に地方と言っても教職につけるように尽力してくれた叔父の手前もあり、しばら

くは猫を被って大人しく先生稼業に集中しようと決意した良治は、殊勝な面持ちで上

司の校長先生様の愚にも付かぬ訓話を拝聴した。

 

「まあ、東京に比べれば、そりゃあ田舎には違い無いが、大都会では味わえぬ人情と

 言うか、思いやりの心に満ちた土地の学校だから小島クンも、きっと気に入る事だ

 ろう。さて、着任早々だが、さっそく君の指導教官に引き合わせておくよ。さあ、

 付いて来たまえ」

ようやく無限ループの感があった田舎賛歌から開放される運びと成り、笑顔を絶やさ

ぬ様に気を付けながら内心で溜息を吐いた良治は、校長の案内の元で応接間を出ると

職員室に向かった。

 

「お〜い、中川先生は在籍かね? あっ、いたいた、中川先生、こちらが先日話した

 小林くんだ。今日から君に指導教官を務めてもらうよ、新任教員指導マニュアルに

 従って、ビシビシと鍛えてやってくれたまえ。彼は東京の大学の大学院を優秀な成

 績で… 」

訓話の時もそうだったが、話が無駄に長い上に聞き手の様子など気にもとめぬ校長だ

から、今日、初めて出会ったはずの良治と、その指導担当の女教師がお互いを凝視し

て唖然としている事にも気付かない。

 

「と、言うわけで、彼の専門は、えっと、何だったっけ? 小林くん? おい、小林

 くん、どうかしたのかね?」

「えっ、はっ、はい、あの、大学院での専攻は中世日本における階級社会の変遷でし

 た」

校長に名前を連呼された事でようやく我に帰った良文は、動転しながらも何とか無難

に問い掛けに応じる事が出来た。

 

「ふむふむ、なるほど、社会科の教師としては申し分の無い研究だったようだね。そ

 れで、彼の恩師の紹介文によるとだね、この小林くんは… 」

「校長センセイ、よろしいですか? 」

放っておけば良文の幼稚園時代まで経歴が遡りそうな雰囲気を制して、中川と呼ばれ

た女教師が口を挟む。

「ちょうど次は空き時間ですので、新任の小林先生に学校の間取りや施設を紹介する

 為に案内したいと思います」

机の上の書きかけの書類を手早く片付けた女教師は、上司の校長の返答を待つ事も無

く立ち上がる。

 

「うんうん、わかった。それでは、後は中川先生にお任せしましょう。いいかね、小

 林くん、中川先生は独身で美しいが、この中学では一番真面目で身持ちの固い先生

 だ。つまらない野心は無駄だと知りたまえよ、あはははははは… 」

「校長先生、それって立派なセクハラですよ」

失礼きわまりない校長の軽口を笑顔で躱した美人教師は、次いで今後自分が指導を受

け持つ事に成る良治の方に目を向けた。

「さあ、とりあえず校舎を御案内しましょう。こちらへ… 」

先立って歩き始めた女教師の後を、良治は複雑な心境を抱えつつ俯きながら付いて行

く。

 

「あの… 」

「黙って付いて来るの! 」

一言で良治の質問を封じた女教師は職員室を出ると、彼を振り返る事も無く階段を早

足で昇って行く。四階建ての校舎の屋上に出た時には、やっかいな状況に陥ったにも

関わらず良文は改めて空の広さに感動した。

「ほら、ぼんやりしない、こっちよ! 」

薄く白い雲を見上げて口を半開きにした新任の社会科教諭の袖を、彼女は忌々しげに

引っ張り屋上の階段室の影に回り込む。

「ここならば、他から見られる心配は無いわ」

なるほど、田舎町だけのことはあり、校舎の北側は鬱蒼とした森が大半を占めていて

、覗くとすれば猿くらいなものだろう。

 

「それにしても、縁があったみたいですね、マミさん」

「アサミよ… 」

階段室の壁に寄り掛かり腕組みした麻美は、細いフレームの銀縁メガネを光らせて良

治を睨んだ。

「麻美と書いてアサミ… マミは偽名よ」

「偽名に成って無いような気もしますが、それにしても驚きました」

まさか都落ちした新しい職場に渋谷でナンパして一夜限りの逢瀬を楽しんだ相手が居

るとは思ってもいなかった良治は、苦笑いを浮かべて小さく左右に首を振る。

 

「それはこっちの台詞よ。大学時代の友人の結婚式に呼ばれて6年ぶりに東京に出て

 、勢い余ってちょっと羽目を外した相手が、まさかノコノコと新任の先生として赴

 任して来るなんて、世の中狭すぎるわよ」

身持ちの固いハズの女教師は憮然とした顔で良治を睨んだ。そして彼女は不意に手を

延ばすと若者のネクタイを掴み、ぐっと手前に引き寄せた。

「東京の夜の事をバラしたら、ぜったいにブッ殺すわよ」

彼女の暴挙に逆らう事なく前屈みになった良治は、ニヤっと不敵な笑いを見せると、

そのまま更に前のめりになって驚きの表情を見せる麻美の唇を奪った。

 

「もしも、東京の夜の事をバラされたく無かったら、俺の彼女に成ることだね」

思いも寄らぬ反撃を受けた美人女教師は、しばらく呆然と成ったのちに弾かれた様に

笑い声を張り上げる。

「あはははははは… アンタ、本気なの? アタシみたいな女を彼女にするつもり? 」

「ああ、あの日、無理にでも連絡先を聞いておけば良かったって、随分と後悔したも

のさ。でも、こうやってまた出会えたのだから、麻美さんも運命に逆らったらいけな

いよ。なにしろ麻美さんは、俺にとってはド真ん中のストライクなんだぜ」

旅の恥はかき捨てとばかりに乱れた姿を曝した相手から意外な告白を受けて、麻美は

目を丸くする。

 

「よ〜し、いい根性だ! いいだろう、アンタの女に成ってやる。とりあえず、今夜

 、空けとけよな! 再会を祝してお前の精液を最後のひと雫まで搾り取ってやる! 」

「はい、わかりました指導教官殿、喜んで御命令に従います」

不遜な言葉を口にした後に良治は彼女を抱き寄せると、こんどはゆっくりとキスを楽

しんだ。

 

 

 

一夜限り   END

 

 

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