捜査官 4 その13

 

 

 

 

「あの… なんで、それぞれの管轄の課は、こんな暴挙を黙って見過ごしてい

 るのでしょうか? どれを取って見ても甚だしい越権行為は明らかではあり

 ませんか? 」

余りにも当たり前な疑念だったから、哲三は怒りを抑えて頷き、美貌の部下の

問いに答える。

「連中は、こられ全てを現行犯で逮捕しているのさ。あいつ等の言い分では、

 たまたま殺人の現場に居合わせたり、たまたま窃盗犯の侵入したマンション

 の前を通りかかったり、たまたま抗争に突入する寸前の暴力団事務所に立ち

 寄ってみたり、たまたま麻薬取り引きの現場に出会したり、たまたま医療事

 故の証拠隠滅を図る場面や、汚職警官が犯行に及ぶ場面に直面したり、政治

 家が賄賂を受け取る料亭でメシをたまたま… 食っていたそうだ。こんな馬

 鹿な話があるものか! 」

ひどく見え透いた言い訳を聞かされて、桜子は呆れ返る。二の句もつげない彼

女に向って哲三は話を続けて行く。

「犯罪行為が目の前で行われた場合には、可能な限り犯人を取り押さえて司直

 の手に引き渡すのは国民の義務だ、ましてそれが警官であればなおさらさだ

 ぜ。阿呆がヤクでラリって町中で包丁を振り回したりしていたならば、たと

 え窃盗専従であろうが、交通取り締まりが専門であろうが、その場に居合わ

 せた警官が制圧するのは当たり前の事だからな」

しかし、確率論を持ち出す間でも無く、僅か3年足らずの期間でこれだけ多く

の重大事件にたまたま出会すなどと言う馬鹿げた話もあるまい。あからさまに

疑念を抱く桜子を見て、同じ気持ちの哲三はひょいと肩を竦める。

「だが、どんなに馬鹿馬鹿しい話でも、現行犯だと言い張られたらしようがな

 いからな。おまけに連中がちょっかいを掛ける相手と来たら、迂闊にも各課

 がまったくノーマークだったり、マークはしていても決め手に欠けて手出し

 が出来なかったワルがほとんどなものだから、越権行為が明白でも、面子に

 こだわって強く抗議すれば藪蛇に成る事の方が多いらしい」

なんだかんだ言ってみても、最後は実績がモノを言う警察であるから、何はと

もあれ賞賛に値する戦果を残している夕子と徹の外事3課別室の首に鈴を付け

る事は、限り無く困難な作業に思える。

「だがな、問題なのは下らない縄張り争いから来る越権騒動でも無ければ、毎

 度お馴染みと成っている派手な市街戦なんぞでも無い。たった二人の、しか

 もひとりはアメリカから借りている捜査官である外事3課別室の連中が、何

 故こうも種々雑多な犯罪の現場に都合良く現れているのか? そうだろう、

 桜子? 」

哲三の呼び掛けの内容は、目の前の資料を読み解く内に桜子の中でも広がって

いた疑念だったから、彼女も我が意を得たりとばかりに頷き、面持ちを引き締

めて上司を見つめる。

「警視庁と言えば、まあ全国の警察組織の頂点だし、本庁と言ったらその本丸

 さ。当然腕っこきがわんさか配属されているだろうよ。それこそ手練を揃え

 た一課や二課、それに特に四課が、こんなに簡単に出し抜かれるって言うの

 は尋常じゃ無い話だぞ」

情報の収集方法に疑念を持った桜子は、その点を上司に問い質す。

「あの、外事3課別室に対する内部調査は行われていないのですか? その点

 についての報告書が非常に少なく思えるのですが… 」

部下の着眼点の良さは気に入った哲三であるが、返答の内容は気が重い。

「当然、警視庁の警務課も動いたさ。連中の暴走を止める為に、何人かの警務

 課員が張り付いた事もある。だが… 」

再び苦虫を噛み潰した様な顔を見せて哲三は話を続ける。

「連中と一緒に何度も、いわゆる『偶発的な市街戦』と言う奴に巻き込まれた

 挙げ句に、張り付いていた警務課員は、片っ端から病院送りにされちまって

 、しまいには通常の業務に差し障りが出る程に人的被害を増大させられたん

 だとさ。酷い奴に成ると、ロケット弾で吹っ飛ばされて、危うく殉職しかけ

 たらしい。だから、現在は本庁の警務課は連中を遠くから観察するにとどま

 っている」

彼の説明に桜子は驚きながら頷く。

「それで、2人の素行に関しての最近の調査報告書の内容が貧弱なんですね?

 それにしても、ヘンなのは、これだけコケにされたら、当然警視庁の各管轄

 も踏ん張って巻き返しを図るでしょうに。それなのに、相変わらず出し抜か

 れ続けていて、外事3課別室の暴走は、とまる気配は見当たりません」

まさか二人の警務課員達は、徹や夕子がCIAの極東支局から情報を好きに引

き出せる立場にあるとは夢にも思わないから、その道の捜査のプロを出し抜い

て暴れ回る外事3課別室の存在が、なんとも無気味に思えてならない。

「この際、アメリカから借りているFBIのお嬢さんは、あまり深く考えなく

 ても良いだろうぜ。所詮は異国の話だからな、せいぜい隠れ蓑に成るくらい

 で大した事が出来るとも思えない。やはり岸田と言う巡査が曲者だろうな。

 あの身のこなしと言い、お前の隠れ身を見抜いた眼力と言い、ただの鼠であ

 るはずが無い」

夕子の無謀な捜査に狩り出された挙げ句に、アメリカの海兵隊の特殊部隊の訓

練キャンプにまで放り込まれた徹だったから、豊富な実戦経験の中で自然と身

に付いてしまった獣じみた危険に対する嗅覚や油断の無い身のこなしを、手練

の警務課員たちにすっかりと誤解されてしまう。

その結果、彼は哲三達に厳しくマークされる羽目に陥って行く。しかしながら

、外事3課別室の落ち度の調査の為に呼び寄せられた哲三と桜子であったが、

彼等が想像もしなかった事が、実はこの警視庁の本庁舎の中で深く静かに進行

していたのだ。

 

 

「大阪から手練の警務課員が、極秘で呼び寄せられているんだ。私の身辺を探

 る為に決まっている。ああ、どうすれば良いんだ? このままでは、取り返

 しの付かない事に成るんだぞ」

都内某所のホテルの一室で、蔵田は青ざめた顔をして髪の毛を掻き毟る。備え

付けのソファにどっかりと腰を降ろしている男が、落ち着き払った風情のまま

でクーリに微笑み、錯乱する蔵田を見つめていた。

「心配はいりませんよ、クラタさん。あなたの身の安全は将軍様が保証します

 。我々にとって、クラタさんは国家規模で賞賛に値する英雄なのですから、

 当然、全力をもってして、あなたに害を成す敵は排除します」

引き裂いた様に切れ長な目を、更に細めて金山は怯える警察官僚を優しく諌め

る。

「少し考え過ぎですね、クラタさん。今日もウチのクラブで博打でも楽しんで

 行けば良いのです。もちろん、クラタさん好みの娘も用意してありますから

 、ゆっくりと憂さを晴らして下さい」

 

 

 

 


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