捜査官 4 その14

 

 

 

 

金山は入り口付近に立っている見張り役の男を手招きする。

「クラタさんを下落合の地下カジノへ… 博打を満喫された後には、礼子の所に

 お送りしろ。くれぐれも粗そうの無い様にな」

蔵田警視は不安げに用心棒のひとりと金山を見比べた後で、まだ納得はしていな

い様子ながらも、のろのろと立ち上がる。

「心配は何も有りません。我々はこの道のプロである事は警察の幹部である彼方

 ならば御存知でしょう? 全ての不安材料は前もって排除します。予定通り、

 あなたは半年もすれば、大金を手に入れた上で別人に生まれ変わりニースの別

 荘で豪華な暮らしを楽しむ事に成りますよ。私から見れば羨ましい限りです」

成功の暁に提示されていた巨額の報酬の事を仄めかされて、ようやく蔵田の表情

に精気が蘇る。用心棒に促された警察幹部は、そのままホテルの部屋を後にした

 

「大丈夫でしょうか? 大佐。あの男は、かなり消耗して見えますが? 」

部下の金城の言葉に大佐と呼ばれた金山は苦虫を噛み潰した様な顔を浮かべる。

「我々の手駒は、あの小心者の警察官僚だけだからな。たとえ、どんな意気地な

 しでも最後まで有効に使わなければ成らん。まあ、必要な情報さえ引き出せば

 、あとは用済として処理できる。それまでの辛抱だよ、中尉」

金山は持参したポケット瓶を懐から取り出して、ウイスキーをストレートのまま

で胃袋に流し込む。

「ふぅ… 作戦は最終段階に入っているんだ。もしも、何らかの齟齬を来した場

 合には、我々軍属は二度と政治の中枢にくい込む事が出来なく成る。6カ国協

 議での劣勢、米帝からの圧力、こられを一気にひっくり返す為の作戦は、我々

 軍部にしか不可能な事を、腰抜けな政治局員どもに知らしめてやらねばならん」

アルコールの助けを借りて金山の舌は滑らかに成る。

「通常型の原子炉の使用を制限された事から、我が国の核武装戦略は未曾有の危

 機に直面している。国家の安全保障が、あの傲岸なヤンキーに脅かされる局面

 においても、政治局員どもは無能を曝すばかりで、なにひとつ有効な手立ては

 取れていない。この国難を排除するのは、我々軍人以外にはありえんのだ、そ

 うだろう? 中尉」

上官の言葉に中尉と呼ばれた金城は、ふかく頷く。

「おっしゃる通りであります。その為に我々は、この平和ボケした阿呆が屯する

 国に止まり、作戦を遂行しているのであります」

素直な部下の言葉に、金山は満足して微笑み、さらにウイスキーを口にする。

「なにも面倒な原子炉を稼動させてプルトニウムを抽出する必要などないのだ。

 目と鼻の先に再処理された核燃料が転がっているのだから、それを奪取すれば

 事は足りる。こんな簡単な理屈さえ、政治局員どもには分かっていない。原子

 爆弾を作る材料は、全てがこの日本に用意されているではないか。我々はそれ

 を奪い取れば良いだけだ」

現地の作戦司令官の演説に、金城は力強く頷く。

「その為に我々は3年間をかけて準備を整えて来ました。東北の暴力団を乗っ取

 り、強奪要員の訓練を行い、なんどもシミュレーションを繰り返しています。

 なにしろ作戦のほとんどは配下に納めた日本人の手で遂行されますし、念の為

 に中東系のゲリラ組織の犯行に見せ掛けるダミーの証拠の用意しました」

3年間の苦労を語る部下の言葉に金山の胸も熱く成る。

「そうだ。再処理された核燃料さえ手に入れば、祖国の科学技術者達は、諸外国

 からの圧力を跳ね返す強力な兵器を量産可能にするだろう。そうなれば、もう

 屈辱的な交渉などは一切無視して、我が国は再び栄光に包まれた時を迎える事

 に成る。我々の功績は子々孫々まで伝えられて、栄達も思いのままだ」

金山は己の栄光に輝く将来を夢想して、だらしなく頬を緩める。

「だからこそ、この奪取作戦が絶対に成功させなければ成らない。あの警察官僚

 からは、搾り取れるだけの情報を搾り取れ。一切の事が済んだら消えてもらう

 のだから、場合によっては、どんなに強力な自白剤を使ってもかまわんぞ。時

 期が来たら最終的な再処理核燃料の輸送ルートに、その総量、さらに警備体勢

 を何としても聞きだせ」

ありきたりである美人局的な罠にはめた上で、金銭を掴ませて篭絡した蔵田警視

の処遇を指示された金城は、面持ちを引きしめて上官を見つめる。

「それでは、警視庁な内部で不穏な動きを見せた警務部の要員は、どうしましょ

 うか? 」

部下の問い掛けにより現実の問題に直面して、金山は再び不機嫌な顔付きに戻る。

「処理しろ、例のバンビリア大使館を使ってかまわん。その為に用意したのだか

 らな。なに、核燃料は2〜3週間で日本に到着する。たとえ警務課員が数人行

 方不明に成っても、奪取作戦が遂行されれば、すぐにそれどころでは無い騒動

 に成るだろう。だから作戦の前には、どんな些細な障害でも排除しておけ。良

 いな中尉、任せたぞ」

金山の厳命に反応して、金城は直立不動の姿勢を取り敬礼で応える。

「了解しました。ただちに作戦に取り掛かります。どうか御安心下さい」

乾坤一擲の再処理核燃料奪取作戦が最終段階に達した事により、金城も大いに興

奮している。

「邪魔な警務部要員を調べ上げて秘密裏に処理します」

これまでも手足のごとくに仕えて来た部下のきびきびとした対応に、金山は満足

を示す様に笑顔で頷いた。

 

 

いつもであれば、亀谷のバックアップの任務に付く桜子であるが、今日は警視庁

内に与えられた一室で、熱心に資料の分析に取り組んでいる。名指しの指名を受

けて東京に乗り込んで来たものの、この1週間余りの間に、彼等が集めた情報は

余りに少なく、夕子や徹の化けの皮を剥ぐ目的の突破口の糸口すら掴めてはいな

い。

さすがに手練の警務部要員達にも焦りの色が見え始める。だから、この日は単身

で亀谷が徹の尾行を引き受けて、桜子は警視庁の一室で朝から資料の見直しを行

っていた。

(なにか、おかしな点があるはずだけれど… でも、最初から滅茶苦茶な事件ば

 っかりで、どうにも取っ掛かりが見えてこないわねぇ… )

膨大な報告書に囲まれた桜子は懸命に考え込んでいるが、彼女の集中を邪魔する

様にドアがノックされた。

コンコン… 

「はい? どなた? 」

扉が開き、見なれぬ男が部屋にファイルを持って入って来る。

「外事3課、別室に関する他の資料を持って来ました」

偽造した身分証を首から下げた金城は、相手に警戒心を抱かせぬ様に微笑みなが

ら、白紙の書類を束ねたファイルを桜子に手渡す。

 

 

 

 


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