捜査官 4 その15

 

 

 

 

「そう… ありがとう。あれ、でも、これって? 」

新しい材料を得た女警務課員は、手渡されたファイルを開くが、そこには白紙

が数枚あるだけだ。訝し気に顔を上げた彼女に向って、金城は手にしたスプレ

ーを吹き掛ける。

「きゃぁ! なにをするの? えっ… あぁ… 」

これが戸外であれば、桜子はもう少し用心した事であろう。しかし、場所は桜

田門に居を構える警視庁の本庁舎内部なのだ。いきなり催眠スプレーを吹き掛

けられた彼女は、体勢を整える間もなくその場に昏倒してしまう。

首尾よく役割を果たした金城は、机に突っ伏した美しい女警務課員が意識を完

全に失った事を確かめてから、書類のせいで脇においやられていた電話器を取

り上げる。

「こちらは、中尉だ、準備は整った。すぐに回収してくれ」

『了解しました』

歯切れのより返事を聞いた数分後に、けたたましいサイレンを鳴らした偽物の

救急車が警視庁の地下駐車場に滑り込む。意識を失いストレッチャーに乗せら

れて、見せ掛けに酸素吸入器を口に装着された桜子は、こうしてまんまと警察

組織の牙城から連れ去られてしまった。

 

「よろしいですね? 中尉。しばらくは俺達の自由にしても? 」

都内某所の地下室に桜子を連れ込んだ金城は、救急職員の扮装を脱ぎ捨てた部

下達の問いかけに冷酷な笑みを浮かべて頷く。

「かまわんよ、少尉。後は出歩いているこいつの片割れを捕まえて来れば、そ

 れで任務は終わりだ。詳しい事情を聞く前に屈服させておくのも有効な尋問

 手段だからな。ただし薬は多めに使え、この女は空手の心得があるそうだ」

腐敗した警察幹部から得た情報を持つ金城は、部下が油断をする事が無い様に

釘を刺す。

催眠スプレーのせいで、まだ意識が朦朧としている美貌の女警務課員に、組織

の3人の男達が群がって行くのを横目に、彼は別の任務遂行の為に部屋を後に

した。

 

 

「クッ… ゴホッ… 」

気付け薬の刺激的な臭いに咽せて、桜子は瞼を震わせながら苦し気に咳き込む

。朦朧とした中でゆっくりと目を開けると、そこにはこれまでに見た事の無い

男が、嫌な笑い顔で彼女を見つめているのだ。慌てて身構えようとする女警務

課員であったが、何故か空手で鍛え上げているはずの両手は鉛の様に重く、持

ち上げる事さえひと苦労な有り様だ。それでも、彼女を見つめていた男の顔か

ら笑顔が消えて、目つきは鋭く成る。

「おい、この女。まだ動けるぞ! 大丈夫なのか? 軍曹? 」

男の言葉から、彼等が一般人で無い事が窺い知れる。

(軍曹って… 軍人なの? )

まだ薬の影響で思考力が衰えている桜子は、男の台詞の意味を計りかねている

。そんな彼女の耳に、別の男の言葉が飛び込んで来た。

「大丈夫ですよ、少尉殿。まあ、通常よりも2割り増しで危ないヤクを使って

 いるのに、まだ身動きが出来るのは驚きますが。たぶん、それが精一杯です

 からね。間違っても少尉殿をぶん殴る様な真似には及びません」

声の主の正体を見定める為に顔を横に振るのすら億劫な桜子は、まだ自分は全

裸で絨毯の上に転がされている事に気付かない。ようやく2人目の男を見つけ

たが、こいつも彼女は見知らぬ顔である。

(あれ? まだ、誰か他にもいるわ… ここは何処なの? 警部補は? 確か

 私は警視庁で… えっ! )

徐々に麻酔から醒めて来た桜子は記憶を遡り、あろうことか警視庁の中で暴漢

に襲われた事をようやく思い出した。

「おっ… お前等! 何物だ? 」

身近で彼女を見ていた男を突き飛ばそうと手を伸ばしたつもりだが、やはり空

手を身に付けているはずの美女の手は、軽く男を押し返す事も出来ない。

「どうやら本格的に気が付いた様だな、腐った国家の牝番犬め! どうだ、腕

 自慢の馬鹿女のくせに、力が入らないだろう? 」

少尉と呼ばれた男の言う通りで、彼女は渾身の力を込めてみても、無遠慮に近

づく男を押し返す事も出来ないのだ。

「こんなに綺麗な女なのに、国家に尾を振る牝犬とはな! 身の程知らずも良

 い所だ。女は女らしく家に隠っていろ! この愚か者め」

呆れ返る様に馬鹿げた時代錯誤の理屈を振りかざす阿呆な軍人の頬のひとつも

張り倒してやりたい桜子だが、やはり腕に力が入らない。キッと厳しい顔で睨

む美貌の女警務課員を、男は勝ち誇り嘲笑う。

「ふっ… 如何に空手自慢であろうが、我が祖国の偉大なる科学班が造り上げ

 た痺誘剤の前には、借りて来た猫だな。手足は満足に動くまい! 女は本来

 、どうやって男に仕えるべきなのか、たっぷりと教育してやるからな! わ

 ははははははは… 」

痺れ薬のせいで身動きがままならぬ全裸の美女を前に、少尉は高笑いする。部

屋の隅では曹長と伍長が顔を見合わせて呆れていた。

「少尉殿は任務の最中に女房に逃げられた事を、まだねに持っているらしいで

 すね。また、この女も散々に辱める気ですよ」

「しっ… だまれ、伍長。少尉殿に聞こえたら、ふたりとも思想教育をされち

 まうぞ! あのお方は執念深いからな。まあ、黙って見ていれば、おこぼれ

 るを頂戴出来るんだ」

幸いな事に、目の前の美しい獲物に興奮して少尉は部下の2人の陰口には気付

かない。部屋に4人の男の姿を確認した桜子は、ここでようやく自分が全裸に

剥かれてしまっている事に気付いた。

「きゃぁぁぁ! 」

男達の視線から身を隠そうにも両手は薬の影響で痺れきり、脚にも力が入らな

い。

「へっ… 可愛い声で叫んでくれるじゃないか? この牝犬め。男の力を見せ

 てやる」

女性に対して屈折した憤りを隠さない少尉は、腕まくりすると棚から大きな張

形を取り出す。

「どうだ? お前が股を開いて来た連中よりも、ずっと立派な玩具だろう?

 そのうちに、いつもこれをマ◯コにいれていなくては我慢が出来ない淫売に

 堕としてやる! 」

疑似男根にたっぷりとローションを垂らしてから、少尉はサディステックな笑

みを浮かべて桜子の元に歩み寄る。

「やめて! 汚らわしい! この変態、側に来ないで」

にじり寄る男を睨む桜子だが、逃げようにも手足は痺れて言う事を利いてくれ

ない。これから己の身に降り掛かる理不尽な暴虐を思い、美しい女警務課員は

唇を噛み締めて顔をそむける。

 

 

 

 


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