捜査官 4 その22

 

 

 

 

「まあ、情報部としては、いまさら1発や2発の原子爆弾を増やしたところで、

 なにほどのモノでは無いと分かっていますが、一部の急進派の軍人にとっては

 最終的な究極破壊兵器の製造制限は受け入れ難い圧力だと考えられています。

 極めて短絡的な発想であり恥ずかしい事なのですが、彼等軍人は核武装こそが

 北の生き残る切り札に成ると信じてうたがいません」

余りにもスケールが大きく突拍子の無い話題に付いて行け無いから、思わず哲三

は口を挟む。

「その核武装と、ウチの桜子の拉致に、どんな関係があるって言うんだ? 」

警部補の疑問はもっともだから、謎の男は話を急ぐ。

「核武装強化に必需品はプルトニウムです。旧式な原子炉の稼動を制限された軍

 部は、あらたなプルトニウムの入手を模索して、この日本に辿り着きました」

ようやく話が日本に及んだ事で、哲三は頷き膝を叩く。

「再処理された原発の使用済みの核燃料か? 青森の貯蔵施設に運ばれるあれだ

 な! 」

察しの良い哲造の言葉に、男は微笑み頷く。

「おそらく軍の情報機関は、あなたがた日本の警察幹部の誰かを買収していて、

 再処理核燃料の輸送ルートを聞き出した上で、強奪するつもりと思われます。

 我々情報局が軍に潜入させている要員から、この事実は発覚しました。まった

 く、何処の国にもタカ派の跳ねっ返りはいるのもですよ。デタントが進む今、

 戦うのに必要なのは核ミサイルでは無く情報である事を、教条的な軍部の急進

 派はまったく理解していません」

ここまで聞いて。ようやく警務課員は合点が行く。

「そうか… そんなタイミングで、俺と桜子が東京に呼び寄せられたものだから

 、核燃料の強奪計画に関わっている警察内部の鼠が事の露見を恐れて俺達を襲

 ったんだな! 畜生め! 」

怒りに拳を震わせる警務課員の前で、謎の紳士はいきなりソファから立ち上がる。

「我々北は世界との協調を模索しながら、現行の国家体制の維持を心掛けていま

 す。この情報の提供も、あくまで西側との共同歩調を乱さぬ為の措置ですから

 、そこの所はラングレーでもお察し下さると幸いです」

彼の言葉に応えてヘンリーも立ち上がり、しっかりと謎の紳士と握手を交わす。

「もちろん、今回のそちらからの情報の提供には感謝していますよ。なにしろ我

 が国は中東と南米、それにロシア西部で手一杯ですから、これ以上の火種は望

 んでいません。従って、今回の件は、穏便に済ませて公式には何も無かった事

 に成るでしょう」

金髪の男の言葉に、謎の紳士も微笑み頷く。

「後の事は、お互いの領分で上手く処理しましょう。むろん、こちら側の事は一

 切外部に漏らしませんよ」

サラリーマン風の紳士の提案に、ヘンリーも笑顔で同意する。

「そうですね、こちらも大丈夫です。夕子や徹に任せて下さい。この2人ならば

 、やっかいな状況を上手く切り抜けるでしょう」

CIAから太鼓判を押された徹は、うんざりとした様な顔を見せるが、夕子の方

はやる気満々といった風情で印象的な瞳を光らせる。

「それでは皆さん、後は私が居ない方が話し易いとおもいますから、これで失礼

 いたします。とても有益な会議でしたよ、皆さんの御活躍と御成功をお祈りし

 ます」

最後まで正体を明かさなかった北の紳士は、一礼すると部屋を出て行ってしまっ

た。

 

 

「サクラコさんが拉致されているのは品川にあるバンビリア公国の大使館です。

 このバンビリアは◯◯からの独立闘争の際に半島の北からの軍事援助を受けて

 いた関係で、今ではかの国の数少ない友好国なんですよ。しかも、現在日本大

 使を務めるウンガアリ氏は、独立前には反体制のゲリラ組織の情報部門の担当

 者で、今でも北の国軍関係者と密接な関係を保っています」

今度はヘンリーが彼等の前に立ち、主に哲三に対して状況の説明を進めている。

「ウンガアリ氏のスイスの個人口座には、かなりの額の資金がプールされていま

 すが、どうも外交官特権を悪用して、北の覚醒剤の運び屋を務めているふしも

 あります。この事実からしても、バンビリアは明確に我々に敵対行為を働いて

 いますね。おそらく使用済核燃料を強奪した後も、このバンビリア船籍の船で

 外交官特権を行使して、北へと運び込む計画なのでしょう」

話が桜子拉致事件から逸れて行くので、哲三はたまらず声を上げる。

「たしかに、使用済み核燃料の強奪計画は極めて悪質だし重要な問題だ! でも

 、今は桜子… いや、緑山巡査の拉致事件の方が緊急を要するだろう? 」

焦る警部補に向って、青い目をしたアメリカ人は柔和な笑みを浮かべて頷く。

「その通りですよ、カメタニ警部補。しかし、この2つの問題は密接にリンクし

 ています。核燃料強奪チームの幹部はバンビリア大使館を根城にしていますし

 、ミドリヤマ巡査は、そのバンビリア大使館の敷地内部に拉致されているので

 すからね」

適確なCIA要員の言葉に、哲三は頷くより他に手立てが無い。

「ミドリヤマ巡査を拉致した連中がカメタニ警部補の捕捉に失敗して、その前後

 策を協議する為に、今、主要メンバーのほぼ全員が大使館に入っている事が確

 認されました」

多くの要員を擁するCIAの監視網の中では、半島の北の連中は隠密行動を取る

事は出来ない。

「しかし、いくら場所が特定出来ても相手が独立国の大使館と成れば、検察も令

 状を出してはくれませんからね。それに、あの大使館には機密保持の目的で、

 かなり大きな焼却炉も設置されていますから、人をひとり焼失させる事など雑

 作もありません。迂闊にちょっかいを掛けると、緑山巡査の命に関わります」

徹の台詞に警務課員は暗澹たる思いに駆られる。確かに馬鹿正直に正面から当っ

て、もしも相手がまずいと考えたならば、桜子はあっさりと殺されて、証拠隠滅

の目的で大型の焼却炉へ放り込まれてしまうだろう。

「どうする? ニンジャ? 迂闊に踏み込めば国際問題、そして愚図愚図してい

 るとサクラコの命は風前の灯火よ」

夕子に言われる間でも無く絶体絶命のピンチに陥った桜子を救う為に、哲三は既

に覚悟を決めている。彼は背広の懐に無造作に手を突っ込むと、警察手帳を取り

出して目の前のテーブルの上にそっと置く。

「そう言う事情なら、警察はすぐには… いや、多分まったく動けまい。何しろ

 事は国際問題だからな、迅速な処理など望めんよ」

内部にいるからこそ、哲三は警察の官僚的な事無かれ主義を嫌に成る程に知り尽

している。

「すまないが、これを返しておいてくれ。俺はこれから警察官としてでは無く、

 亀谷哲三個人として、惚れた女を助け出して来る。あんた等には礼を言うよ、

 東京は不馴れな俺だから、ひとりでは桜子の居場所なんて分かるはずもなかっ

 たからな」

 

  

 


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