捜査官 4 その23

 

 

 

 

 

おそらく無事に生還の見込みはかなり低いだろう。彼の愛しい部下は国際的な

陰謀に巻き込まれてしまっているのだ。しかし、断固として見捨てるわけには

行かない哲三は、これまで修得して来た戸隠忍術をフルに使って、たとえ我が

身に代えてでも、なんとか桜子だけは助け出す決意を固めている。

「さすがはニンジャ! そうで無ければ話は嘘よ。ほら、御覧なさい、徹。私

 が言った通りに成ったでしょう? 」

この厄介な問題に哲三を巻き込む事を決めた美女は、勝ち誇った様な笑みを浮

かべて下僕扱いの若者に胸を張る。

「はいはい、おっしゃる通りに、とうとう亀谷警部補まで巻き込んでしまいま

 したね」

失礼な従卒の言葉に、一瞬柳眉を逆立てた夕子だが、それどころでは無いと気

を取り直して振り返り、部屋の片隅のクロゼットへと走り寄る。

「さあ、ニンジャ! ちゃんと準備は整えてあるからね。好きな道具を使いな

 さい! 」

クロゼットから取り出した両手に抱えた大荷物を、勇んで夕子はテーブルの上

にぶちまけた。大小二本の刀や、守り刀と思われる小袋入りの短刀。それに鎖

鎌、鎖帷子、臑当てに小手、地下足袋、忍者装束、各種の手裏剣などが派手な

音を立てて転がり落ちる。これは初見だったのか? 傍らの徹も呆れた様な顔

で驚いていた。

「いったい、何処でこんな時代物の道具を仕入れて来たのですか? 夕子さん

 ? 」

徹の問いかけに、美人捜査官は不敵な笑みを漏らす。

「ふふふ… 全部、インターネットのオークションで手に入れたわ! 今の世

 の中、資金さえ適切に投じれば、集められないモノなど無くってよ! 徹」

改めて胸を張る美女の前で哲三は慌てる事も無く、それらの小道具に手を伸ば

す。

「近代都市迷彩としては役に立たないから、忍者装束も無いだろう? それに

 、この刀は武士が使う種類のもので忍者刀じゃ無いから俺には使えない。う

 ちの流派には鎖鎌は無いし、忍者は俊敏さを要求されるから、こんなに重た

 い鎖帷子を着込んだりもしない。それから八方手裏剣や十字手裏剣は、伊賀

 や甲賀の道具だよ。戸隠は棒手裏剣なんだ」

苦労して掻き集めた道具を尽く否定されて、夕子は落胆を隠さない。失望を露

にした美人捜査官の脇を抜けて、改めて徹がクロゼットに歩み寄る。

「それならば、はい亀谷さん、これを使って下さい」

いきなりFBI御用達のメーカー製の防弾チョッキを差し出されて、哲三は面

喰らう。

「それから、チーフスペシャルですから、38ACPですよね。あとは、ダブ

 ルOバックの弾に… 」

クロゼットから、イサカのポンプ式のショットガンまで取り出す徹に、今度は

哲三の方が呆れ返る。

「なあ、岸田、お前、銃刀法って知っているか? 」

哲三の問いかけに、徹は困った様に曖昧な笑みを浮かべながら、手際よく自分

の防弾ベストを着込んで行く。

「警察手帳を返す覚悟でいるのですから、多少の事は見逃して下さいよ、警部

 補」

9ミリベレッタを腰のホルスターに入れ替えた徹は、バックアップ様に、もう

一丁のベレッタを胸の前に密着したケースに納めると、今度はクロゼットの中

から愛用のAK47を取り出して、まだ弾倉が装填されていない突撃銃の遊底

を開き機関部を点検する。

一方、男が3人もいるのに、夕子はかまうこともなく、いきなりスカートを脱

ぎ捨てて、FBI時代から愛用している都市迷彩服へと着替え始めるではない

か! 露にされた艶かしいくも長い脚を前に、目のやり場に困った哲三は慌て

て二人を制止に掛かる。

「まっ… まってくれ、相手は外国の大使館なんだ。あんたらの気持ちは嬉し

 いが、桜子は俺が助け出す! だから… 」

落ち着きを失った警部補に、今度はブラウスを脱ぎ捨てた夕子が口を挟む。

「何を寝言を言っているの? アンタ一人じゃ返り討ちに決まっているでしょ

 う? あの可愛い巡査を見殺しにするわけには行かないわ。それに、これは

 使用済み核燃料の強奪計画阻止が目的の攻撃的性格の防御作戦なんだからね

 。別にニンジャの格好をしないなら、アンタは付いて来なくても良いのよ。

 ふん! つまらない」

徹と同様に都市迷彩効果が期待できる濃紺のシャツを着込みながら、大いなる

期待を裏切られて憤る夕子の辛辣な言葉がつづく。

「つまり、アンタの可愛い巡査のお陰で間抜けな連中は、わざわざ一ケ所に集

 まってくれたわけなの。だったら、このチャンスを生かさない手は無いわ。

 どうせ、治外法権のせいで、ニッポン警察じゃ、まともな捜査なんて期待で

 きないんだから、索敵即破断! 徹底的に叩き潰さなきゃ駄目よ! 」

防弾ベストを着込み、愛用のコルト・コンバット・コマンダーを手に取る夕子

に向って、ノートパソコンを抱えたヘンリーが歩み寄る。

「夕子さん、事前にお願いした通りに、『大佐』だけは、我々に生きたままで

 引き渡して下さいね。彼の持つ情報は貴重です、特に中東関係諸国の何処に

 どれだけ長距離弾道ミサイルの技術を輸出したのか? 本部も尋問を切望し

 ています」

母国の権益を優先させるCIAの実戦部隊の責任者の要望に夕子は軽く頷く。

「それは分かったから、ほら、さっさとバンビリア大使館の見取り図を見せて

 ちょうだい。特に地下室の情報を念入りにお願いよ」

心得たとばかりにヘンリーはコンピューターを立ち上げて、既に入手していた

大使館の見取り図を開示した。

 

 

 

「しかし大佐、本当に我々に害の及ぶ事は無いのですね? 」

場所が自国の大使館である事から、ウンガアリは寛いでソファに腰掛けている。

「もちろんだよ大使、君に迷惑を掛ける様なまねはしないさ。これまで通りに

 お互いに上手くやって行こうではないか」

作戦が狂い、障害に成る可能性の高い警務課員2人の内のひとりを取り逃がし

ていたことから、内心では苛立っている大佐だが、そんな事はおくびにも出さ

ずに笑顔で黒人の問い掛けに答えている。

既に警視庁に対しては数名の部下を張り付けており、あのやっかいな警務課員

を補足しだい拉致、手に余るようならば射殺の許可も与えていた。スパイと化

した警察高官からは、1週間以内に再処理核燃料の輸送ルートが分かるとの知

らせを受けているので、今は時間との戦いとは言へ、ここ一日二日では事態が

急転する心配は無い。

あとは情報さえ手に入れば、部下を全員率いて東北に飛び、隠れ蓑として訓練

を重ねた地元のヤクザと共に再処理核燃料を奪取して、バンビリア船籍の貨物

船で母国に運び込む算段は整っているのだ。その英雄的行為を邪魔する馬鹿者

に正義の鉄槌を下す為に、好色な大佐はわざわざ大使館にまで押し掛けていた。

 

 

 

 


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