捜査官 4 その28

 

 

 

 

「悪趣味ですね、夕子さん。いくら火薬は抜いてあるからって言っても、あれ

 じゃ気の毒でしょうに」

手にした手榴弾が不発弾である事も知らずに、懸命に握力の続く限り、プルリ

ングが抜かれた爆発物のセーフティカバーを握り続ける工作員に対して、敵な

がら哀憐の情を持った徹が車から少し離れた場所で呟く。

「すこしくらい、怖い思いをした方がいいの! 緊張感を持って仕事に望むの

 は良いことでしょう? 」

夕子はサディスティックな笑みを浮かべながら、大使館の裏門に向って歩いて

行く。そこには背の高いワンボックスカーが停めてあり、傍らには都市迷彩服

姿の亀谷とヘンリーが待ち構えていた。

「すでにAチームがバックアップの為に大使館の周囲に展開しています。また

 、Bチームは2ブロック離れた路地の保冷車で待機中ですから、40秒で実

 戦に参加可能な状態ですよ、夕子さん」

ヘンリーは配下のCIAの極東実戦部隊が、既に準備を整えて万全の体勢であ

る事を報告する。

「OK、結構よ。まあ、徹と私とニンジャでカタは付くとは思うけれど、一応

 の備えも整えておいて損は無いからね」

ヘンリーの報告を受けて夕子は満足げに頷く。

「それじゃ徹、露払いをよろしくね。でも5分を過ぎて戻らなければ、問答無

 用でここからグリネイドを撃ち込むから、そのつもりでチャッチャカと片付

 けてくるのよ」

相変わらず自分勝手な美貌の女上司の命令だが、もうすっかりと慣れた巡査は

溜息を漏らしながら頷くと、無言で大使館に向って走り出す。やがて、道路標

識の支柱を利用して壁をスルスルとよじ登った巡査の姿は、日本国内でありな

がら法律の及ばぬ地域へと消えて行く。

「おい、いくらなんでも、あの若造ひとりじゃ厳しいだろう? 俺がバックア

 ップに回った方が良く無いか? 」

慣れないショットガンを持て余しながら哲三が残った2人に問いかける。

「足手纏いに成るだけよ、アンタはグズグズ言わないで5分間、ここで大人し

 く待っていなさい」

けんもほろろな夕子の台詞に、哲三は憤慨する。

「忍者の格好はしていないが、俺だって忍術の心得はあるんだ。あの若造より

 は使えるぜ」

腕に覚えのある警務課員が抗議するが、夕子はまったく取り合わずに、ワゴン

車の中でノートパソコンの画面を見つめている。

「カメタニさん、彼方の腕を疑うわけではありませんが、トオルはこの道のプ

 ロです。訓練も十分ですし実戦の経験も豊富ですから、失敗する確率は極め

 て低いのですよ。何しろ、相手は小国と言っても大使館ですからね。出来う

 る限りは秘密裏に作戦を実行する事が望まれます。こうした任務であれば、

 トオルは最適な兵士です」

苛つく彼の気持ちを思ったCIAの工作員に諭されて、哲三は渋々と頷く。

(しかし、なんて若造なんだ! このアメリカのスパイは、野郎の事を兵士っ

 て言ったぞ! だいたい、そんな訓練を何処で受けたって言うんだ? )

警務課の仕事がら、徹の履歴はしっかりと頭の中に入っている。いったい彼が

何処で、どんな訓練を積んだのか悩む哲三の前で、大使館の裏門が中からゆっ

くりと開かれた。

「3分と30秒ね… まあ、合格かしら? 」

静かに姿を見せた徹に向って夕子は言い放つ。

「バンビリアの衛視4人は、無傷で無力化しました。2人は庭先で、あとの2

 人は建物の裏口付近に転がしてあります。CIAの情報が正しければ、残り

 の戦闘用員は皆、半島の北の連中と言う事に成りますね」

事も無く短い時間で訓練された衛視4人を制圧したと語る若者を、あらためて

警務課員は見つめてしまう。呆気に取られた哲三を他所に、徹の報告を受けて

夕子は満足げに頷いた。

「オッケー、あとは建物の中の制圧と、ミドリカワ巡査の奪還、それに『大佐

 』の捕獲だわ。いよいよ夕子様の出番よ」

彼女は愛用のコルト・コンバットコマンダーを抜くと、ずんぐりと不格好なサ

イレンサーを装着する。その傍らでは徹もM9に同じ様な消音機をはめ込んで

いた。

「いいこと、ニンジャ? アンタはバックアップだから、無闇にショットガン

 を発砲しない! ヤバイと思った時だけ撃ちなさい。まあ、地下室は使用目

 的上、完全防音されているけれど、銃声が外に漏れて誰かに警察を呼ばれる

 と事が面倒に成るわ」

サイレンサ−付きのオートマチックを手にした美貌の女捜査官の言葉に唖然と

成った哲三を残して、夕子と徹は静まり返ってた深夜の大使館へと乗り込んで

行く。

(警察を呼ばれるとヤバイって… 俺達はお巡りさんだろうが! まったくな

 んて事だよ、質の悪い冗談だぜ)

後詰を引き受けるヘンリーに軽く手を上げて挨拶してから、哲三も少し遅れて

彼等の後に続いた。最初に目に入ったのは、庭に転がされた二人の黒人兵士で

ある。

手足を縛られた上に猿轡を噛まされた黒人達は、恐怖に余りに目を見開き震え

ながら哲三を見あげている。彼等の側には徹が自分の為に用意したのと同じ形

の自動小銃が、弾倉を外された状態で放置されているのだ。徹の報告通りに建

物の裏口付近では、更に2人のバンビリア人衛視が、同じ様な状態で地面に転

がされていた。

あらかじめセンサーを潰しておいた裏口から、彼等は難無く侵入を果たす。

「ここから先は時間との勝負ですからね、少し荒っぽく成りますよ、亀谷警部

 補」

これまでも十分に荒っぽいとだろうと言う思いを胸中に呑み込んで、哲三は徹

の言葉に頷く。足音に気を付けながら静かに通路と進むと、明らかに人の気配

のある部屋の前に差し掛かる。

どうするのかと見守る警務課員の目の前で、なんと徹はいきなり駆け寄り扉を

蹴り開けて中に飛び込むではないか! 慌ててショットガンを構えた哲三の耳

にくぐもった数発の銃声と、男達の悲鳴が飛び込んで来る。おそるおそる部屋

を外から覗けば、3人の男達が肘と膝を打ち抜かれていて、床には早くも血溜

まりが出来ている。

「すみませんが警部補、彼等から拳銃を取り上げて下さい」

落ち着き払った徹の指示に従い、彼は生唾を飲み込みつつ床に転がっているマ

カロフ拳銃を拾い集めて行く。その間にも徹は無表情のままで次々と男達の首

筋にM9の銃握を叩き込み意識を刈り取ってしまう。

「ほら、グズグズしないで、次よ! 」

ここは下僕達に奉仕を任せて高みの見物を決め込んでいた夕子の命令に従い、

彼等はCIAの情報を頼りに建物の地下室へと通じる階段を掛け降りた。

 

「だれだ! お前等! 」

地下室のドアの前で警備に当っていた工作員は、誰何しながら懐に手を入れて

パイプ椅子から立ち上がるが、拳銃の抜く間も無く、徹のベレッタの9ミリで

両膝と右の肩をあっさりと撃ち抜かれて、その場に昏倒する。倒れた警護の頭

を、とどめとばかりに夕子が無慈悲に蹴り上げた。

 

 

 

 


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