捜査官 4 その29

 

 

 

 

「ん? なにか物音がしなかったか? 」

壁際に下がっていた軍曹の呼び掛けで曹長が扉を振り返った時に、彼等にとっ

ての災難がドアを蹴破り乱入してくる。慌てた曹長は振り返り、脱ぎ捨てた着

衣のベルトのホルスターから拳銃を取り出そうと試みるが、いきなり後ろから

両膝を打ち抜かれて目的を果たせぬままに倒れ込む。

入り口付近で哲三がショットガンを抱えたままで立ちすくむ中で、夕子と徹は

、まるで事務的に思えるくらいに正確に半島の北の軍人達を撃ち倒して行く。

部屋の中には消音装置付拳銃のくぐもった発射音と、下半身を露出した男達の

不様な悲鳴が鳴り響く。

これだけの混乱の最中でありながら、一方的な射撃とは言え、間違える事も無

く狼藉もの達の膝を打ち抜く徹や夕子の腕前は賞賛すべきであろう。相手は油

断はあったと言っても職業軍人であり敢闘精神は旺盛なのだが、如何せん桜子

の陵辱に熱心だった余りに迎撃体制は疎かにされている。

もっとも、建物の外にはバンビリアの武装衛視が、そして中には彼等の組織の

警護の者が詰めている状況では、まさか今夜何者かの襲撃があるとは誰も予想

をしていない。

降伏の意志を見せぬ連中に対して、徹も夕子も容赦する事は無く次々と撃ちま

くり戦闘能力を奪い去る。援護を命じられた哲三が一度もショットガンの引き

金を絞る間も無く、大多数の者達は床に転がりうめき声をあげる始末だ。敵が

完全に戦闘能力を失った事を確かめてから、夕子は亀谷に声を掛ける。

「ほら、ニンジャ! ぼんやりしていないで、お前のお姫様を助ける! それ

 が仕事でしょう? 」

事態の急展開について行けず、入り口付近で佇んでいた警務課員は夕子の叱咤

で我に帰ると、慌てて桜子の元に駆け寄る。無惨にも天井から荒縄で吊り下げ

られた恋人を抱き降ろし、輪姦の末に悶絶した彼女の裸身をその場にあった毛

布で包んだ亀谷は、彼女が呼吸をしている事を確認すると、安堵で膝が砕けそ

うに成る。

だが、彼の見せた一瞬の油断を見逃さない男がいた。手練の警務課員の気の緩

みを見とって、金城が負傷をおして彼に飛びかかる。左の膝を9ミリ弾で撃ち

抜かれているとは思えない俊敏さで亀谷を後ろから捉えた少尉は、隠し持って

いたナイフを警務課員の首筋に突き付けた。

「銃を捨てろ! さもないと、この男の命はない! 」

追い詰められた獣の様に目をギラつかせた金城の切羽詰まった反撃だったが、

徹も夕子も些かも動じる気配が見当たらない。

「アンタ、阿呆ね? 人質に取るなら、そんな中年で野暮ったく使えない顔

 のデカい男じゃ無くて、女の子の方でしょう? べつに、間抜けな男が殺

 されても、まったくかまわないもの」

本心から語った夕子の言葉をハッタリと判断した金城は、そのままナイフを

亀谷の首筋に突き付けて眦を釣り上げる。すると、今度は徹が静かに拳銃を

持ち上げた。しかし、その銃口は人質を抱えた金城では無く、この部屋で襲

撃者以外の東洋人としては唯一無傷の大佐に向けられたのだ。

「人質の数ならば、こちらの方が優位ですね。おとなしくナイフを捨てない

 と、この偉い方が嬲り殺しに成ります。それに、これは彼方の為を思って

 の忠告ですがね、彼方が人質に取っている人は、それなりに物騒なんです

 よ」

徹の言葉に拳銃を向けられた大佐は震え上がる。上官の命の危険を知らされ

て、金城の方にも僅かに動揺が見られた。その、ほんの僅かな隙を見逃す戸

隠忍者では無い。

首筋に突き付けられたナイフを撥ね除けた亀谷は、そのまま強かに肘を金城

の胸板に叩き込み、さらに無情にも振り返りざまに撃ち抜かれた左膝を蹴り

つける。

前もって膝を徹に撃たれていなければ、こうも容易に制圧される事は無かっ

たであろう北の職業軍人であるが、肋骨をへし折られた上に、傷付いた膝に

更にダメージを喰らった金城は、成す術もなくその場に崩れ落ちる。用心の

為に亀谷は北の軍人が手にしていたナイフを壁際まで蹴り飛ばす。地下室で

の最後の戦闘行為は、こうして幕を閉じた。

 

「さて、ウンガアリ大使。彼方は拉致した彼女が日本の警察官であると知ら

 されていましたか? 」

呆然と立ちすくみ状況を正しく認識できない黒人は、徹からの呼び掛けによ

うやく我に帰る。

「おっ… お前等、ここは大使館なんだぞ。こんな事をすれば、国際問題に

 … ひっ! 」

血相を変えて喚き立てる黒人に向って、夕子が消音器を付けたコンバット・

コマンダーを突き付ける。

「煩いわね、そんなに国際問題がいやなら、ここでアンタをぶち殺して、御

 自慢の焼却炉に放り込んでから帰ろうかしら? 」

彼女の脅しに竦み上がった大使は、突き付けられたサイレンサーの銃口から

目が離せぬままに黙り込む。

「もちろん、それも選択肢のひとつではありますが、ここはバンビリアと我

 が国の友好関係を維持する為に、落ち着いて話し合いませんか? 大使閣

 下」

助け舟を出した徹の台詞に、黒人は何度も頷き同意を示す。

「それは良かった。では今日ここであった活劇については、大使閣下は何も

 見なかった事にして下さい。別に御心配には及びません、怪我をした東洋

 人の連中は、30分もしないうちに、母国の情報部の皆さんが回収しに来

 ますからね。彼等はおそらく本国に送還されて、しかるべき処置を受ける

 事になりますよ。それに彼等の情報部の仕事に抜かりはありませんから、

 ちゃんと血糊なんかは綺麗にクリーニングしてくれます」

自分らの行動が日本政府ばかりではなく、母国の情報部にすら筒抜けだった

事に衝撃を受けて、大佐はがっくりと項垂れた。このままおめおめと母国に

戻れば、強制収容所送りは免れまい。落胆した軍人に、徹は冷たい視線を向

ける。

「でも大佐、あなただけはそうも行かないんですよ。我らの親しい友人が、

 彼方のお話をとても聞きたがっていますからね。でも、その方が都合は良

 いでしょう? 少なくとも身内から粛正される事には成りませんからね」

計画が破綻した事から、とても母国に戻って無事でいられるとは思えない大

佐は、ほんの数秒間は逡巡したが、顔を上げるとあからさまに安堵の溜息を

漏らす。

「よかろう、こう成ってしまっては、もうどうにも成らん。私は投降する」

最高指揮官のあっさりとした台詞を聞いて、彼に従う部下等は顔色を失うが

、それぞれが手負いの為に、配下を見捨てる薄情な上官に詰め寄る者はいな

かった。

「さて、大使閣下、あなたの大切な衛視達は外で縛り上げて転がしてありま

 すから、彼等を上手く誤魔化す算段を整えておいて下さいね。例えば、緊

 急の襲撃訓練だったとか、まあ、その辺はお任せしますよ」

両手を上げた大佐に拳銃を突き付けたままで徹は振り返り黒人に念を押す。

厄介者には一刻も早く出て行って欲しい大使は、懸命に頷いて承諾の意を示

す。やがて、人質とした大佐を先頭に徹、そして桜子を担いだ哲三、さらに

殿を夕子が務めて襲撃者達は部屋を後にする。

 

 

 

 


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