その3

 

 

 

 

「そうか… そうなんだ。ふ〜ん」

祐子は腕組みをして首を傾げる。

「でね、私は彼奴しか知らないから、彼奴から不感症じゃないか? って、言

 われても、ピンと来ないのよ。だから、ここはひとつ、他の人で試してみた

 いの。でも、こんな事って誰にでも頼めることじゃ無いでしょう? だから

 、健兄ちゃん、お願い、セックスしてちょうだい」

とんでもない事を真顔で頼み込んで来る美女の前で、健太は逃げ腰に成る。

「だからって、何で俺なんだよ? 」

彼の狼狽を祐子は笑っていなす。

「何故って? むかしお医者さんゴッコをした仲だからよ、忘れちゃったの?

 健兄ちゃん? 」

忘れるはずは無い。むしろ、祐子が憶えていた事の方が驚きだ。あれはまだ彼

女が小学校に上がる間際の事である。両親が留守の家に遊びに来た祐子を裸に

剥いて、あれこれとドキドキする様なお医者さんゴッコを仕掛けた思い出は、

いまでも健太の頭の中にしっかりと残っている。

「悪者に捕まえられたお姫様って設定で、縄跳びの紐で両手を縛られて、パン

 ツを脱がされたんだよね… うふふ、健兄ちゃんのエッチ! 」

切れ長の潤んだ目で見つめられた健太は、答える台詞が思い付かずに、ただ口

をぱくぱくさせるばかりだ。思えば、あの頃から彼は良からぬ性癖があったの

だろう。

「いや、あれは… その… 」

真っ赤に成って俯く健太を、祐子は嬉しそうに見つめている。

「もう、お互いに恥ずかしいところを見せっこした間柄じゃない。なにも照れ

 る事も無いでしょう? 私、自分は不感症かどうか不安なの。だから、お願

 いよ、健兄ちゃん、協力してちょうだい」

酔った勢いで両手を合わせて拝み込む祐子を前に、健太は困り果てる。

「やっぱり、無理だよ。お前が相手じゃ、勃たないって。いや、その、色気が

 無いとかじゃ無くて、幼馴染みだろう? しかも彼氏もいるわけだし… 」

本当は興奮の余りに己の性癖を抑え切れなく成る事を恐れて、健太は美味しい

申し出を断腸の思いで固辞している。

「そんな事いうの? ああ、そう! それならば、いいわよ! 昔、健兄ちゃ

 んに、お医者さんゴッコされた事を、健兄ちゃんのお母さんに言い付けてや

 るからね! いいの? いやらしい秘密がバレちゃうんだから! 」

健太の実家は別に引っ越していないから、たしかに祐子がその気に成れば、十

数年前の禁断の遊戯が彼の母親の耳に入ることは不可能では無い。

「まだ小学校に上がる前の私に、あんなことやこんなことをしました、いやら

 しいお兄ちゃんですぅぅ… って、言い付けて良いの? 健兄ちゃん? 」

とんでも無い事を言い出す幼馴染みを前に、健太はがっくりと首を折り俯く。

「お前… それは無いだろう? もう十何年も前の話じゃないか… 堪忍して

 くれよ、頼む祐子」

我に利ありと踏んだ美女は、にっこりと微笑むと立ち上がる。

「それじゃ、ワタシがシャワーを浴びて出てくるまでは、ここで大人しく待っ

 ているのよ。大丈夫、イタくしないわ。優しく抱いてあげるから、心配しな

 いで待っていなさいね、健兄ちゃん」

自分で持ち込んだ大荷物からバスタオルとボーチを取り出した祐子は、呆気に

取られる幼馴染みを残して、そのままバスルームへと消えて行く。

(ああ… 風呂場も掃除してカビ取りも済ませておいて良かった… じゃ、無

 いぞ!!シャワーを浴びたら頭が冷えて、このとんでもない行動を思いとど

 まってくれるんじゃないかな? あっ… でもシャワーの支度を整えてから

 来たってコトは… やっぱり計画的な行動なのか? )

小さく響く水音を聞きながら、健太は途方に暮れていた。

彼女に続いて健太も風呂から上がってみれば、祐子は缶ビールを片手に待ち構

えている。彼のLサイズのTシャツに、下はショーツと言う扇情的な姿なのを

見れば、彼女の意志はどうやら固い様に見える。なにしろブラを付けていない

ことは、2つの悩ましい胸元のポッチを見れば一目瞭然なのだ。

「おそい! なにを愚図愚図していたのよ? 」

シャワーを浴びている最中に、彼女の気が変わって帰ってくれないものか?

と、考えた健太の希望は叶えられない。

「もう、待ち草臥れたわ。さあ、犯ろう! 健兄ちゃん」

いきなりTシャツを脱ぎ捨てて、祐子がよく育った胸元を露にするから、よう

やく健太も覚悟を決める。

「いいんだな? 後悔するなよ、祐子」

無防備に近づいて来た幼馴染みの美女を、健太は捕まえると強引に抱き寄せて

キスを仕掛ける。最初は驚いた様だが、彼の舌が唇を押し退けて入ってくれば

、負けじと祐子も舌をうねらせて応えてくる。

(ああ… お兄ちゃんとキスしている… )

幼い頃に経験したお医者さんゴッコの朧げな記憶が蘇り、祐子は陶然と成りな

がら彼の舌に自分のそれを絡めて行く。大昔の引っ越しの時には、まるでこの

世の終わりのごとくに悲しんだ甘酸っぱい思い出が彼女の胸を熱くさせている

そんな気持ちの昂りからか? 何故か恋人とのキスよりも、健太との方が何倍

も興奮が大きく、気持ちがどんどんと先走っていた。そのまま祐子は彼に抱き

つくと、しっこい位に濃密なキスを堪能する。

思えば今付き合っている彼氏とは、こんなにも濃厚なキスを楽しめた事は無い

。性急な彼はすぐに祐子を押し倒してくるのだ。やがて、健太の手が彼女の胸

元の膨らみへと伸ばされる。手の平で下からすくいあげる様な愛撫を受けて、

祐子はブルっと身を震わせる。

(あれ? どうして? こんなに感じるんだろう? 相手がお兄ちゃんだから

 かな? )

彼氏に比べて落ち着いて責めてくる健太の愛撫の前で、祐子はいつもよりも情

感が高まっている事に当惑する。そんな彼女の存念など気にする事も無く、力

を少し込めた健太の指先が柔らかな膨らみに浅く食い込む。

「あっ… はぁぁぁぁ… 」

背筋に走った快美に驚き、思わず祐子はキスをふり解いて艶っぽい声をあげる

。これが彼氏ならば今頃は焦り狂って、もう祐子の中に押し入って腰をふって

いる頃であろう。

しかし健太は、呼吸を荒くする祐子の胸元を玩弄しながら、なんと彼女の耳に

しゃぶり付いてくるのだ。祐子は自分の耳たぶがこんなにも性感が強い場所だ

とは思ってもいなかった。舌を絡め合う濃密なキスの後で、今度は耳たぶを甘

く噛まれてしまえば、祐子は夢見る様な陶然とした顔で、幼馴染みの愛撫に身

を任せてしまう。

 

 

 

 


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