その5

 

 

 

 

辺りにやかましい程に響いていた虫の音がピタリと止み、風に揺れる夏草のさ

んざめきだけが聞こえる広場に、何処からとも無く集まった影が5つ… 用心

深く姿を現した追跡者等は、広場の中程に倒れた二人の標的を取り巻いて、し

ばらくはじっと様子を窺っていた。その中から1人の男が意を決した様に、倒

れ込み身動きしない二人の元へと歩み寄る。

「まだ息は有るな? しかし、どうした事だ? 」

西の組織の中でも手練で知られた三沢と、その相棒の若者が意識を失い倒れて

いたから、いったい何ごとかと慌てた追撃者等であったが、最初の1人言葉を

聞いて、ようやく他の4人の連中も近づいて来た。

「どう成っているんだ? こいつ等、いったい誰にやられたんだろう? 」

よもや此処に逃げ込む事はあるまいと、タカを括っていただけに、標的が倒れ

ていた事に追跡者達は当惑を隠せない。しかも、気絶している2人は目の下に

くっきりと隈が浮かび、皮膚は茶色に干涸びていて、いっきに10も歳を取っ

てしまった様に見受けられるのだ。若いはずの智徳にも、一切精気と言うもの

が認められず、カサついた肌が痛々しい。

「おっ… おい、見ろ! 社が! 」

「不味い! 封印が、まさか、解かれているのか? 」

5人の追跡者の間に動揺が走る。大禍所として知られる霊山に祀られた社の破

壊は、封印の崩壊に他ならぬ。裏切り者の暗殺者を追い掛けてきた5人は、緊

張を隠す事も無く辺りを見回して気配を探る。

「おい、見ろよ、良い女だぜ」

禍神の使いとも呼べる古代の妖狐が解き放たれたにも関わらず、呑気な台詞を

吐いた僚友を、ほかの4人は信じられないと言った顔で見つめる。そして、最

初に取り込まれた一人が指差した先で妖艶に微笑む美女を見つけた途端に、他

の4人も任務を忘れて股間を固くしてしまっていた。

「うふふ… いい男が五人… たっぷりと楽しませてちょうだいよ」

瞬時に魂を言霊に縛られて、5人の追撃者等は先を争い着衣を脱ぎ捨てて行っ

た。

 

 

 

 

大平洋に浮かぶ無人島の一つである真壁島だが、今日は招かれざる客達で賑わ

いを見せている。ジャングル迷彩の戦闘服に身を固めた長倉一曹は、まだ自分

の直前の経験が信じられないで悩んでいた。国防軍の中でも選りすぐりである

自分ら空挺レンジャーが、まさか民間人の連中にこれほどまでに叩きのめされ

るとは? しかも、自分等は銃器の使用が認められているのに、相手等はナイ

フだけで、精鋭一個小隊を壊滅させている。

無論、演習だから実弾こそ使わぬが、彼の愛用する89式小銃の先に取り付け

られた演習用の小型のレーザー発射器は、一度も標的に照射される事は無かっ

た。それどころか、ナイフを首筋に突き付けられるまで、彼は敵の存在を感知

出来ないでいる。

極限的な訓練を繰り返して、人間離れした勘を養って来た空挺レンジャー隊員

にとって、これは信じ難い出来事である。富士の樹海や、伊豆半島沖の離れ小

島の亜熱帯のジャングルで訓練を重ねて、こと密林での戦闘であれば国内きっ

ての腕前を自負して来た若い空挺隊員は、死者を示す白い札を胸に貼らた末に

、トボトボと海岸の集結地点に戻って来る。

「よう、随分と粘ったな。お前が小隊の最後の『犠牲者』だ」

苦笑いの浮かべて特殊部隊の小隊を預かる西原三尉が話し掛けてきた。彼の言

葉通りに集結地点には、すでに30人を超える空挺レンジャーが屯している。

皆がボディアーマーの上から戦死を示す白い札をぶら下げていた。

「小隊長? あれは、何なんですか? あの連中はいったい… 」

およそ4〜5人と思われる集団に、完全武装の一個小隊、しかも手練の空挺レ

ンジャーが1時間も持たずに全滅した事実を、若い一曹はまだ受け入れられな

い。

「自分は瞬殺でした。あっ、と思った次の瞬間には、首筋にナイフが… 周囲

 には直前まで人の気配は無かったし、殺られた後も、やっぱり敵が退避する

 気配は感じられませんでしたよ」

これまで訓練で築いてきた自信を木っ端微塵に粉砕されて、一曹は肩を落して

項垂れた。

「まあ、あまり気を落とすな。お前よりもベテランの連中の方が先に殺られて

 いるくらいだからな。初めての乙2種特殊演習にしては、よくやったさ。そ

 んなにがっかりする事は無いぞ、何しろ相手は、あの一族なんだ。聞いた事

 あるだろう? 新宮の一族さ」

小隊長の言葉に若い軍人は驚き顔を上げる。

「あれが、対妖怪部隊なんですか? あれが… 」

静まり返った暗い密林を振り返り、一曹は思わず溜息を漏らした。

 

 

 

若い国防軍の特殊部隊の兵士を慨嘆させた一団は、レンジャーの連中とは島の

反対側の海岸に集まっている。既に砂浜に集まっていた3人の元に、最後にこ

のグループのリーダーを任された雅則が姿を現す。ジャングルでの戦闘用に、

迷彩服を着込み突撃銃を始めとするフル装備だった国防軍の兵士に比べて、彼

等はグレーの単なる作業着姿なのだが、それでもレンジャーの連中は、だれ一

人として襲撃者の服装を目撃してはいない。

全員が背後から襲われて、首筋にナイフを突き付けられながら、次に胸の死者

を示す白い札を張られている。もしも、この襲撃者達が、実はまだ実戦経験の

無い訓練部隊である事を、あの若いレンジャー隊員が知ったならば、その落ち

込みはより深いものに成ったであろう。

「意外に手こずったな… 洋二、お前、何人殺った? 」

如何にも俊敏そうな小柄な若者は、遅れて現れたリーダーの問い掛けに笑い顔

を見せる。

「8人さ、チョロいモノだぜ。あれで軍の特殊部隊だって威張っているんだか

 ら笑わせてくれるさ」

すると、その脇にいた、まだ幼顔の面影が残る女性が洋二を押し退ける。

「私は7人よ! でも、洋二に負けたわけじゃ無いからね! ただ、奴等が私

 の方に来なかっただけだもの! こんなの不公平よ! 」

洋二と共に2人で小隊の過半数を倒した事に成る美奈子は、憎からず思う雅則

に認めてもらおうと、発展途上の胸を張る。

「お前は? 卓也? 」

明らかに前の2人に対する時よりも、言葉に棘を含ませてリーダーが一番大柄

な若者に問いかけた。

「2人… 」

卓也の答えに、洋二と美奈子はあからさまに侮蔑の表情を浮かべる。

 

 

 

 

 


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