その13

 

 

 

 

(俺は、絶対に生き延びる… こんな山の中で殺られてたまるか! )

これまでも彼の身を守って来てくれたサバイバル・ナイフの柄を握りしめて、

男は優位な立場から強襲を掛ける決意を固めた。

「うっ… 上だ! 躱せ! 」

いち早くに剣呑な気配を察した雅則は、本能的に身を翻しながらも仲間に危険

を知らせる。見習いとは言っても、里で厳しい訓練を重ねて来た三人であるか

ら、リーダーの指示に反応して、三人はかろうじて上からの襲撃から逃れてい

た。

「なっ… なんだ? お前? いきなり、何をするんだよ? 」

襲撃者が索敵目標である九尾の狐では無く、あの仮の作戦本部に当てられた廃

校で出会った、無気味な不正規部隊の最後のひとりであった事から、何とか奇

襲攻撃を凌いだ洋二が驚きの声で詰問する。

「うるさい、だまれ! ひとの言葉を使って、この俺様を誑かせるとは思うな

 よ、この化け物が! 皆殺しにしてやる」

瞳に狂気の光りを仄めかす傭兵を前にして、見習いの三人の困惑は深まるばか

りだった。

 

 

 

対妖魔戦闘集団『紅』の新入り3人が、峰南技研の手で強化改造されたサイボ

ーグの襲撃に手を焼いている時に、もうひとつ、別の邪な企みが静かに進行し

ていた。

「なんだ? これは? ここは、何を目的としている設備なんだ? 」

国防軍、特殊空挺部隊所属の横瀬一佐は、大型のコンテナトラックの荷台を改

造した怪し気なスペースに招き入れられて怪訝な顔をしている。国防軍が現場

の指揮所して使うトラックよりもひと回り以上も大きいコンテナであるが、わ

けのわからない機材がところ狭しと並べられているから、かえって内部は手狭

な印象を受けている。峰南技研が箱根町の廃校の校庭に持ち込んだトラックの

コンテナの中で、横瀬はいら立ちを隠さない。

「いったい、何を企んでいるんだ? 俺をこんな場所に連れ込んで、どうする

 つもりだ?」

何に使うのか分からない雑多な機械類に囲まれて、国防軍のエリート一佐は百

合子を睨み付けた。

「ウチの研究所に、むかし西崎と言う研究員がいたのです。彼はバイオ工学の

 天才でした」

真新しい迷彩服を着込む軍人に向かって、白衣の美女ははぐらかすように笑い

かける。

「彼が生み出したクローン技術は、どれも革命的だったんのですのよ。でも、

 残念ながら諸般の理由により、西崎の研究は闇に葬られてしまいました」

過去に山奥で秘密裏に建設された特殊な研究所に瓦解と混乱を齎したクローン

兵士の暴走は、峰南技研の幹部を狼狽させるには十分の失態ではあったが、そ

れでも訓練の行き届いた施設の保安要員ばかりか、多くの国防軍兵士や警察官

等をたった2人で翻弄したクローン兵士の存在は、当時の死の商人等に大きな

感銘を与えている。

以来、表向きにはクローン兵士の研究を断念したと表明しているが、この新興

の防衛産業会社は、裏では極秘で最強の兵士を造り出す研究を継続して来たの

だ。かつて、彼女に偏狭的な熱愛を押し付けて来た西崎の造り出した怪物兵士

により、人格を破壊する様な無惨な陵辱の限りを尽くされた百合子であったが

、今では姿を消した天才化学者の残した研究を引き継ぎ、なぜかこうして狂気

の兵士の生誕に情熱を傾けている。彼女は不安げな軍人の宥める為の説明を続

ける。

「人の脳みそがポテンシャルの3割程度しか使用されていないのは有名な話で

 すが、潜在能力を無駄にしているのは、なにも脳だけではありませんのよ。

 筋肉も、反射神経も、持久力も、全ての面において、人は能力の無駄使いを

 くり返しています」

「それが、何だと言うんだ? いまさら、人の潜在能力についての講議を受け

 ても、何の役にも立たないだろう? 」

緊張の余りに瞼をピクピクと震わせる神経質な高級将校を相手にして、百合子

は菩薩を思わせる笑顔を見せる。

「でも、もしも人工的な措置によって、一時的であれば、持って生まれた潜在

 能力の100パーセントを使えると成れば、どうかしら? あなたが忌々し

 く思う、あの新宮の一族の連中と、同等? いえ、軍での厳しい訓練を重ね

 てきた一佐さんならば、あの連中を凌駕する力を発揮するとは思いませんか

 ? 」

「つまり、お前は俺を一時的にスーパーマンにする事が出来ると言っているの

 だな? 」

高すぎる自意識の結果、独善的で視界狭窄の傾向は強いが、けして馬鹿では無

い横瀬は目の前の白衣の研究者の説明を瞬時に理解する。

「やってもらおうか、その措置とやらをな。俺には国防軍の沽券を守る責務が

 ある。いつまでも古めかしい胡乱な奴等に国防に一端を担わせて放置する事

 など、我慢は成らん! 」

統合幕僚本部から屈辱的な形で任を解かれた一佐は、瞳を血走らせて白衣の美

女を睨み付ける。もしも、独力で物怪を退治する力を与えられるのであれば、

今の彼は峰南技研どころか、悪魔とだって手を組む事を躊躇すまい。こうして

、横瀬はまんまと百合子の仕掛けた罠に自ら飛び込んでしまった。

 

「おいおい、なぜ手足を拘束する必要があるんだ? 」

トレーラーの荷台に設置された簡易的な実験設備には似合わぬ、鉄製の頑丈な

ベッドに大の字に成って手足をナイロン繊維の強固なベルトで縛り付けられた

横瀬は、不安を隠す為に無理に微笑みを浮かべて問いただす。

「必要な措置だから拘束するの。それとも、超人に成るのが恐くなったのかし

 ら? 止めるならば今のうちだけれど、どうする? 一佐さん? 」

この期に及んで逃げる事は有るまいと思い、挑発的な台詞を口にしながらも百

合子は準備の手を休まない。形も大きさもまちまちの数本の注射器のシリンダ

ーには、何やら毒々しい色合いの薬剤が各々に装填されている。

「本当に、平気なんだろうな? まさか、命に関わる様な副作用があるなんて

 事は? おい、聞いているのか? 」

「心配性なのね、軍人さん。大丈夫、少し辛い思いはするけれど、それで超人

 に成れるならば、我慢のし甲斐もあるってモノでしょう? 」

既に7人の実験体の成功で自信を深めている女化学者は、最初の一本の注射器

の針を、容赦なく横瀬の袖を捲り上げた右腕に突き立てた。

「いてっ! もっと、丁寧にやれ」

まだ多少の余裕を持つ特殊空挺のエリート仕官は、雑な百合子の措置に文句を

つける。2本、3本と注射が続くと、横瀬の顔に脂汗が滲み始める。

 

 

 

 


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