「もっと自信を持ちなさいってば、あの子だって私の娘なんだから、セックス が嫌いなわけは無いもの。それに、トモくんの事だって、絶対に好きに決ま っているわよ」 面白半分に少年をけしかける陽子の目には、何故か妖しい光りが仄めいている。 「でも、本当に大丈夫なのかな? カナちゃんが、僕を相手にしてくれるかど うか? 」 「女って、押しの一手には弱いものよ。もう加奈子も子供じゃ無いんだから、 彼氏のひとりくらい出来ない方がヘンじゃない? あの子がトモくんと付き 合ってくれたら、私も安心だもの」 陽子の自信に溢れた態度を見て、智博の胸中に野心の火が灯された。 「都合の良い状況はいずれ私が整えてあげるから、チャンスを見計らって犯っ ちゃいなさいね」 彼女の母親公認と有れば、これほど心強い事は無いので智博は決意を固めて頷 いた。
チャンスは以外と早く訪れた。智博の父親が土建屋組合の旅行に出かけるのに 重なり、母親もサークル仲間との温泉旅行へ行く事と成り、どう話を持ちかけ たのか分からないが、智博は隣家で夕食を御馳走に成る段取りが陽子により整 えられていた。 「うちの主人も週末恒例の徹夜マージャンに出かけるし、私も何か用事をでっ ち上げて留守にするから、あとはトモくんの頑張り次第よ。一気呵成に押し 倒しちゃいなさいね。うふふ… 」 陽子から良からぬ企みを耳打ちされた少年は、ここが天王山と思い込み眦を吊 り上げて頷いて見せた。いよいよ決起当日に成ると、少年は頭の中で練り上げ たプランを実行に移すべく、手みやげに買い求めたケーキの箱を手にして隣家 を訪れる。呼び鈴に応えて顔を出してくれたのは、段取り通りに陽子では無く 加奈子だった事で、少年は作戦が順調に進んでいる事を確認した。 「あれ? おばさんは? 」 土産のケーキの箱を手渡すと、白々しいく智博は聞いてみる。 「なんか? 急用だって言って出かけちゃったの。でも心配いらないよ、御飯 の用意は出来ているからね。あっ… ケーキ、サンキュー」 いつも家ではラフなジーンズ姿が多い加奈子が、今日に限って妙に可愛いワン ピース姿を披露してくれている事から、少年の野心は大きく膨れ上がっている 。 「ほら、カレーだよ。トモはカレー、好きだものね」 かいがいしく皿の御飯にカレーのルーを盛り付けながら、少年の邪心を知らぬ 加奈子は朗らかに笑いかけてくる。彼女の母親の陽子が用意してくれたサラダ と共にカレーを頬張る少年は、いつも通りに快活に接してくる幼馴染みと、他 愛も無い話を交わして様子を窺う。やがて食事を終えた智博は、デザートに出 された手土産のケーキを頬張りながら、徐々に高まる気持ちを懸命に抑えて平 常心を保つ事に心を砕く。 なにしろ幼馴染みの母親である陽子の御墨付きをもらっているのだから、胸は 必要以上にドキドキ高まるのも無理からぬ状況だ。しかも、いつもは、もっと ラフな服装の加奈子が今日に限って、おそらく他所行きであろうワンピースを 身に付けている事も、彼の野望を増長させる。実はここにも陽子の深謀遠慮が 生きているのだ。元々、多少頼り無いが隣家の少年を憎からず思っている加奈 子だったから、母親からみれば複雑な乙女心を煽るなどは雑作も無い。 それとなく智博を持ち上げておいて、おそらく女の子にもてるだろうと事ある ごとに言い募り、娘の不安を掻き立てておいた陽子は今日のこの機会に、加奈 子の方にも入れ知恵をしておいたのだ。 「すこし、オシャレして、そうねぇ… キスでもさせてあげれば、もうイチコ ロよ。智博くんが好きならば、積極的に迫ってみれば? まあ、どうでも良 いなら、関係は無いけれど… でも、放っておくと、あの子、結構母性本能 をくすぐるところがあるから、年上の可愛い子が狙っているんじゃ無いかし ら? 」 母親の陽子の囁きに、娘は思い当たる節もあり多少慌てている。中等部と同じ 敷地に校舎を構える高等部で学ぶ加奈子だが、彼女の友人等にも実は智博はウ ケが良いのだ。これまでは余り意識をする事も無かった加奈子であるが、確か に頼り無い弟分の智博は、顔のつくりは端正と評しても過言では無く、しかも 大人しく控えめな事から加奈子の友人らのうわさ話にも、しばしば智博の名前 が持ち出されていた。 おしめが取れる前から隣どうしで暮らして来た幼馴染みであることがかえって 邪魔に成り、まだ恋心を抱くと言う程では無いにしろ、他の誰かに取られるの も何となく癪に触る事から、まあ、キスくらいは許してやっても良いと考えた 加奈子は、こうして彼女なにり華やかに装って見せて、幼馴染みを挑発してい る。まさか、目の前の少年が自分の母親と、この数週間に渡って愛欲に塗れた 生活を繰り広げて、セックスの経験値を飛躍的に延ばしているなどとは、夢に も思わぬ加奈子だった。 だからこそ、こうして二人きりの夕食であっても、まったく緊張も警戒心もい だく事は無い。また、智博の方も、陽子との濃密な付き合いを重ねた事により 、幼馴染みに対して、無用な気構えを持つ事も無くなっている。なにしろ加奈 子の母親である陽子からけしかけられた上に、こうしてお膳立てまで整えても らっているのだ。 いったい、少年に何の憂いがあると言うのだろうか? 加奈子の父親は、この 週末も勤め先の役所の仲間のマンションで徹夜のマージャンに興じて家のは戻 らない事も、ちゃんと陽子から伝えられている少年は、焦る事も無く余裕を持 って、これからの事を考えている。智博の方に変な緊張感が無いので、加奈子 も自然体で幼馴染みの少年との会話を楽しみながら、母親が用意してくれた夕 食のカレーに舌鼓を打っている。 「ねえ、まだ帰らないでしょう? それなら私の部屋に行かない? 」 それまではお互いの共通の知り合いの事や、それぞれの学年の面白いエピソー ド等を、夕食を終えたダイニングで談笑していた二人だが、加奈子には加奈子 の目論見があるから、それとなく少年を自室へと誘う。彼女にしてみれば、気 分が盛り上がったところで母親が帰宅される事を恐れての行為であるが、実際 には事を成した後に智博から携帯で連絡を受けない限りは陽子が家に戻って来 る事は無いのだ。母親と少年が、そんなけしからん策略を巡らしている事など 知る由も無い加奈子は、ようやくここに至って初めて隣家の少年を男として考 える様に成り、自分が誘っておきながら胸のドキドキを強く感じている。 だが、そんな少女の複雑な思いを他所に、智博は気軽に頷くと、促されるまま に二階の加奈子の部屋に続く階段を昇って行く。余りにも自然体の彼の態度に 多少拍子抜けした加奈子だが、改めて母親の煽りを思い出すと、初めてのキス を覚悟して少年に続いて自室に向かった。もっとも、これからの展開は彼女の 予想を大きく裏切り、事前の目論見は全て覆される事に成るのだが… まだ、この時には哀れな小羊は自分の運命を知らずに階段を昇っている。彼の 後から自室に入れば、部屋の唯一の勉強机の椅子は、もう少年に取られてしま っているので、自然と加奈子はベッドに腰を降ろす事に成る。これも、実は陽 子が入れ知恵した段取りだ。もちろん、ベッドに加奈子が腰掛けた方が押し倒 すのに便利な事は明白であろう。
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