計画通りに彼に強姦の罪を犯させた翌日には、真弓子は電話帳から適当に選ん だ興信所に飛び込み隣の安アパートに暮らすオタク野郎の調査を依頼していた 。一方、彼を焦らす為に再びアパートに面した部屋の窓には分厚い遮光カーテ ンを降ろして、関係の謝絶を表明する。1週間に渡っての興信所の調査結果か ら、規男のおおまかな人柄を把握した真弓子は、己の存念を確かめる為に、今 日会社で恋人を誘い退社後にホテルでの逢瀬を終えていた。 最初に規男に犯されてから10日が過ぎているが、そろそろ彼女の方も限界に 達している。案の定、恋人気取りの優男とのセックスでは、もう真弓子は到底 満足出来ない。それどころか中途半端に刺激された女体は、あのオタク野郎と の肉交で味わった峻烈な快感を求めて、狂おしいくらいに疼いている。小洒落 たシティホテルで一度は情交の後に汗を流して来てはいた美女であるが、まだ 隣のアパートで暮らす強姦者の部屋の窓に明かりが灯っていた事を外から確認 した後に、急いで自室に戻りもう一度シャワーを浴びて完全に彼氏との逢瀬の 後を洗い消す。 (やっぱりアイツじゃなきゃ駄目ね… ) 湯上がりの裸身をバルローブで包んだ美女は、これからの事を思いつつ冷蔵庫 から缶ビールを取り出すと乾いた咽を潤す。それからドレッサーの前に陣取り 寝化粧にしては派手な装いを凝らした後に、彼女は思い出の一夜を過ごした奥 の部屋に赴いた。明かりを付けて中に足を踏み入れた美女は、迷う事もなく窓 際に歩み寄り外界と室内を不粋に隔てる遮光カーテンを左右に開いてしまう。 さらに窓の鍵を開けた真弓子は、明かりが付けられていて人とおぼしき物影が 動く隣家のアパートの部屋を見ると目を細めて淫媚な笑みを漏らす。 (さあ、いらっしゃい、獣クン… いいえ、ミツムラ・ノリオくん) 彼女はその場でくるりと身を翻して、スタスタと部屋を出て行ってしまう。真 弓子が向かったのは寝室だ。狭いカウチなどでは無く、セミダブルベッドの上 でオタク野郎の巨根を朝までたっぷりと楽しみたい彼女は、バスローブを脱ぎ 捨てると全裸でシーツに横たわり、申し訳程度に毛布を被る。 (絶対に来るわ… そして、あの大きなオチンチ◯で、また犯ってくれるはず よ) 陵辱者を待ち焦がれる美女の右手は無意識に潤み始めた股間へと延ばされてい た。
「マジかよ? 」 いきなり隣のマンションの部屋の窓のカーテンが開け放たれたから、規男は驚 いて息を呑む。あの強姦以来、彼は恐怖と興奮と絶望の日々を悶々と過ごして 来た。首尾良く美女を犯した彼はあれ以来、保身の為に残したポラロイド写真 をオカズにして猿の様にオナニーに興じている。あんなにも安易に躯を許した 女だから、まさか官憲に訴え出るとは思わなかったが、それでも一昨日、夜間 指定で頼んだ宅急便が届けられた時のチャイムの音には、心底から驚いて飛び 上がり、そのまま窓から逃げ出す事を考えている。 あの強姦に及んだ日からは隣家の窓は元の通りに施錠されていて、厚いカーテ ンで仕切られた内部の様子は窺い知れない。手元にある恥ずかしい写真をネタ にして、マンションの前で待ち構えてやろうかとも思ったが、根は小心モノの オタク野郎には、どうにも踏ん切りが付かなかった。その間に彼女が自分の事 を興信所まで使って調べ上げているとは思いも寄らぬ規男は、ズルズルと今日 まで無碍に過ごしている。 それが、いきなり目の前でカーテンが開かれたのだ。レースのカーテン越しに 美女の影を見た規男は彼女の考えを計りかねて当惑する。オタク野郎が呆然と 佇んでいる間に、真弓子はさっさと部屋を出て行ってしまった。 (ちくしょうめ、どう成っているんだよ? いったい、何を考えているんだ? あの女は… ) おそらくは公への事の露見はあるまいと思う反面で、官憲に踏み込まれて惨め に逮捕される自分の姿を想像して怯えていた小太りのオタク野郎は、隣家の美 女の思惑が読めずに当惑する。だが、レースのカーテン越しの不明瞭な影の動 きを見ただけで、この一週間ほど胸の中で蠢いていた邪悪な興奮が大きく膨れ 上がって来て、彼をついには突き動かす。 (おれには、あの時の写真があるんだ! だから、大丈夫、訴えられて刑務所 行きにはならないさ。それに、ああやってカーテンを開いているくらいだか らな… 誘っているんだ! そうさ、絶対にそうに違いない! ) 身勝手な理屈を捏ねつつ規男は立ち上がり、夢の国に通じる窓へと近付く。案 の定、隣家の窓は手を掛けると抵抗も無くすっと開く事が出来た。 (あんな目にあわされていて、それで、また窓のカギを開けっ放しにするなん て… 絶対に誘っているんだよな? そうさ、間違い無いぞ! ) 如何に鈍いオタク野郎でも、こうもあからさまに隙を見せられては、さすがに 彼女の存念に気付くと言うものだ。しかし、もう真弓子の方が、そんな些末な 事など、どうでも良く成っている。遠い昔に母親が叔父に犯された場面を自分 に重ね合わせた美女は、邪悪な快楽を齎す規男との肉の交わりにすっかりと魅 入られていた。 隣家の美女の思惑を、今度こそは正確に思い計ったオタク野郎は勇躍して彼女 の暮らすマンションの部屋に飛び移る。それでも根は小心モノの規男であるか ら、いきなり廊下に飛び出す様な剛胆なまねは控えて、そっとドアに耳を寄せ て部屋の外の気配を窺う。しかしながら唯一の住人である真弓子はとっくにベ ッドルームの方に引き隠っているので、オタク野郎の耳には物音ひとつ聞こえ ない。 (まさか… いい気になって入って行ったら、そこには誰か他の奴が隠れてい て、そのまま捕まって事は無いだろうな? ) 腕力の方にはまったく自信の無い規男は、これが隣家の美女の仕掛けた罠では 無いかと勘繰って、しばしドアに耳を当てたままで考え込んだ。だが、どんな に不安があっても、やはり膨れ上がった欲望に勝てないオタク野郎は、ひとつ 小さく溜め息を漏らした後に覚悟を決めて、そっと廊下に通じるドアを開く。 幸いな事にリビングへと居場所を移しても、彼を誰何したり襲い掛かって来る ナイトの姿は無い。おっかなびっくりな小太りの男は目玉をギョロギョロさせ て辺りの気配を探っている。 (大丈夫だな… よし、こうなったら覚悟を決めろよ。あの女は、たぶん奥の 部屋だ) 隣室のリビングまでは誰にも邪魔される事なく侵入した規男は、ここでようや く今夜の極悪な企ての成功を確信する。彼は太々しい笑みを浮かべたままで奥 の部屋に通じるドアを開いた。寝室の壁際に寄せられて置かれたセミダブル・ サイズのベッドには毛布に包まった美女の姿を見つける事が出来る。他に家具 と言えばドレッサーくらいしか無い寝室へ、規男は静かに足を踏み入れた。す ると、やはり眠ってはいなかったのであろう。毛布が落ちない様に胸元に抱え 込みながら、獲物である彼女がゆっくりと身を起こす。 「なによ… また来たの? このケダモノ。帰ってちょうだい、あなたの顔な んて見たくもないのに」 前回に続いて今夜も彼が来る事を信じて疑う事の無かった真弓子は、このオタ ク野郎が多少の罵詈雑言で萎える様なタマでは無い事を確信している。だから こそ、こうして平気で睨みつけて罵るのだが、もしも彼女の非難を真に受けて 帰ってしまえば、おそらく真弓子の方が慌てる事だろう。 だが、胸元を毛布で隠す美女の色っぽい姿を見て規男の目は早くも興奮で充血 している。鼻息を荒げて引き攣った様な笑い顔を曝す若者の常軌を逸した風情 は、マゾの血脈に目覚めつつある美女を大いに悦ばせている。彼女は獣と化し た男を挑発するように、更に辛らつなセリフを叩き付ける。
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