その2

 

 

 

 

過去にそれなりに評価された古びたポルノ作品をチラっと目にした彼女の唇

の端が、少しだけ持ち上がり笑みを浮かべた様に見えたのは友康の被害妄想

なのかも知れない。しかし、何時もと違って中々貸し出しの段取りに移らぬ

美女の不可解な態度に、若者は困惑を深めて行く。

「ねえ、これでヌケるの? 」

古典ポルノのパッケージを手にした美女からの不意打ちに、彼は驚き目を見

張る。

「へっ? ぬ、ぬける… 」

なんとも間抜けな答えだが、それ以上の台詞は友康には浮かばない。頭の中

が真っ白に成った若者を前に、美女は柔らかな微笑みを絶やさない。

「だって、最近の… えっと、滝丘クン… そうそう、滝丘クンたら、なん

 だか古くてカビが生えていそうなポルノ映画ばっかり借りているでしょう

 ? 以前はけっこうハードなヤツばかり見ていたのにね。だから宗旨変え

 したのかと思ったのよ」

受付のカウンターの向こう側にあるコンピューターの端末を操作して、彼の

過去の貸し出し履歴をモニターに写し出した美女は、どう? と、ばかりに

友康を見る。考えて見れば、今を取り繕ったところで彼がこの半年余りに借

りまくったアダルトビデオの記録は、この店のコンピューターにしっかりと

残っているのだ。そんな簡単な事実を失念していた自分の馬鹿さ加減に友康

は打ちのめされる。

「あっ… いや、あの、その… もう、いいです」

耳たぶまで真っ赤に染めた奥手の若者は、カウンターに無責任にビデオテー

プを置き去りにしたまま、くるりと振り返り店から逃げ出してしまう。背後

に聞こえる美女の引き止める声を無理に無視して、彼は一目散に店を後にし

た。

(あ〜あ、恥ずかしいったら、ありゃしない)

脇目も振らずに家に逃げ帰った若者はアパートの階段を駆け上がり部屋に逃

げ込むと、ようやく人心地ついて、蛇口を捻りコップの水を何度も飲み干し

た。なにも逃げ出す事は無いだろう? 自分はお客であり、あそこはアダル

トビデオも置いているレンタルショップなのだ。

(う〜〜ん、でも、この近所のビデオレンタル屋はあそこだけだしなぁ…

 しばらくほとぼりを冷ましたら、様子を見に行こう)

生温い水道水でかろうじて咽の乾きを癒した友康はすっかりとめげてしまい

、携帯でバイト先に今日は休む事を伝えている。幸いな事にシフトに余裕が

ある日だったことから、風邪と言う見え透いた言い訳がバイト先から糾弾さ

れる事は無かった。

なんとも慌ただしく情けない一日と成ってしまった若者は、しばらくボロア

パートの居間で不貞寝を決め込んでから、ノロノロと起き上がり夕食の支度

を整えた。見るとは無しにテレビのニュースを眺めながら食事を済ませると

、後はもう手持ち無沙汰だ。既に大学の方からの課題のレポートもあらかた

済ませてあるし、読みかけの冒険小説の続きを捲る気にも成れない。ガイド

本を見ても今日のテレビ番組で彼の興味を掻き立てる代物の放映は無かった

。本来であればバイトに出かけている時間だから、友康は夕食の洗い物を済

ませると退屈を持て余す。

(あ〜あ、こんな事ならば落ち込んでいないでバイトに行けば良かったな)

下戸の彼は酩酊を楽しむ事も出来ないから、インスタントコーヒーのカップ

に口を付けて誰とは無しに呟いた。実家で暮らしている頃には家が小さかっ

たこともあって、親兄弟との会話は盛んだったが、こうしてひとり暮らしを

始めると、家に隠っている限りは対話はありえない。だから彼の独り言癖は

、いきおい増加傾向にある。

ピンポーン… ピンポーン… 

聞き慣れぬチャイムの音が部屋に響いたから友康は驚いた。どちらかと言え

ば内向的な若者は、まだ互いの部屋を行き来する様な友人はいない。新聞を

取っているわけでも無いから集金が来る事も無いし、宅急便なここに移り住

んでから一度も受け取ったためしが無い。

「えっと、8時か… 中途半端な時間だよな、誰だろう? 」

来客予定も無い事から訝りながら立ち上がり、彼は玄関に向かう。

「はい、どなたですか? あっ! 」

男の一人暮らしな事もあり不用心に扉を開け放ってしまった若者は、余りに

も意外な訪問者を見て驚き、思わず2〜3歩後ずさる。そこには、あのビデ

オショップの美人パート従業員が立っているでは無いか。

「こんばんわ、滝丘くん。さっきは御免なさいね」

「あっ… いや、あの、その… えっと… 」

今日2度目の奇襲を喰らって完全に思考停止に陥った若者は、しどももどろ

に成りながら困惑を深めている。何故彼女がいきなり自分を訪ねて来たのか

? だいたい、何で自分のアパートの部屋が分かったのか? 謎は深まるば

かりだ。

「ねえ、立ち話もナンだから、部屋に入ってもいいかしら? 」

「はっ… ウチにですか、あっ… あの… 」

彼の返答を待つ事も無く、美女はさっさと友康の脇をすり抜けて部屋の中に

入ってしまう。

(どっ… どうなっているんだ? う〜〜ん)

幸いな事に比較的に綺麗好きな友康だから、部屋の中はある程度は片付けら

れている。四畳半程度の小さなダイニングのテーブルの上に、スーパーマー

ケットの買い物袋を置いた美女はぐるりと部屋の中を見回した。

「きれいに暮らしているじゃない。大学生のひとり暮らしだから、もっと殺

 伐とした部屋を予想していたわよ」

いきなりやって来て部屋の寸評を終えた美女は、あらためて友康を振り返り

にっこりと微笑んだ。

「あっ… あの、それで、その… どういった御用件でしょうか? 」

何を話して良いものやら途方にくれた若者は、ようやく彼女の登場の理由を

訪ねている。

「はい、これ。忘れ物よ」

彼女は微笑んだままでビデオ屋の会員カードを差し出した。今日のカウンタ

ーでの不意打ちを喰らって慌てふためいて逃げ出した友康は、借りようと思

っていたビデオのパッケージの上に、いつものように会員カードを乗せて置

いていたのだ。

「あっ、どうも、スミマセン… わざわざ、届けていただいて… 」

昼間の恥ずかしい行いが鮮明に思い出された若者は、あの時と同様に耳たぶ

まで真っ赤にして俯いた。そんな友康の様子を彼女は面白そうに見つめてい

る。

「やっぱり、一人暮らしなのね? それとも、この後に誰かいい人が帰って

 くるのかしら? 」

「いっ… いえ、あの、僕はひとり暮らしですし、誰も戻ってなんて来ませ

 ん」

相手の問いかけの意味も分からず、羞かしさで頭に血が昇った若者は素直に

答えている。

「ふ〜ん、それは結構。まあ、あんなに頻繁にアダルトビデオを借りていた

 くらいだから、たぶんひとり暮らしだとは思ったのよね」

 

 

 

 


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