その2

 

 

 

 

良隆が東京の赤門で知られた国立大学への進学の可能性を振り捨てて地元の大

学に進んだのも、雅哉が数多くの名門大学へのテニス入学を断り、やはり地元

の大学を選んだもの、ひとえに修子が家庭の事情から、上京を諦めて近在の短

期大学に進学を決めたからであり、二人は大学入学を機に、相談の上でいよい

よ曖昧な関係に決着を付ける事にする。

大学生活にも慣れたある日、意を決した良隆と雅哉は青年らしい直情さを持っ

て、休日に修子を呼び出している。二人揃っての告白とは、相手の迷惑も考え

ない愚かな行為であるが、恋に逆上せた良隆と雅哉は真剣そのものであり、恋

に破れた方はきっぱりと諦めて、彼女が選んだ方を祝福しようと、これまた熱

血青春ドラマばりの約束まで取り交わしていたものだ。冷えたビールを咽に流

し込みながら、良隆は余りにも青臭い過去の行動を恥じて、ひとり赤面する。

(若かったよな… それにしても、まさか、あんな答えが返ってくるなんて、

 思ってもいなかったよ)

台所で酒のつまみを用意してくれている修子の後ろ姿を眺めて、良隆は再び邂

逅に浸って行く。昼下がりの市営図書館の脇の公園におもむき、彼と雅哉は互

いに祈る様な心持ちで、幼馴染みの美女の返答を待ったものだ。どちらが修子

に選ばれるのか? 心臓が早鐘を鳴らすなかで、良隆は余りにも意外な彼女の

次の台詞に思わず耳を疑った。

「ごめんなさい、二人とも、おつき合い出来ないわ。私、もう好きな人がいる

 の。彼と付き合っているのよ」

困った様にはにかみ微笑む修子の言葉は、まったく想定外の代物であったから

、彼も、そして傍らに佇む雅哉も、暫し呆気に取られて二の句が告げない。足

下が崩れて奈落の底に落ちてゆく感覚を味わいながらも、いち早く立ち直った

良隆は、両手を無意識に握りしめて上擦った声で問いただす。

「だっ… だれと、付き合っているのさ? ノブちゃん? 」

言葉尻が震えたのが今でも情けない思い出だが、その時には混乱していてみっ

ともないとも思えなかった。気が付けば雅哉も彼と同様に拳を握って、幼馴染

みの美女の返答を待っている。

「えっと… あのね、テルくんよ。彼とは1年くらい前から付き合っているの」

余りにも意外な台詞を聞いて、二人はその場に立ち竦む。

「輝夫! 」

「テルだって!」

たぶん彼等は数十秒は固まっていた事であろう。しかし、言葉の羅列の意味が

脳細胞に染み渡り、ようやく内容を理解した瞬間に、二人はほぼ同時に、この

場にいないもうひとりの幼馴染みの名前を各々が叫んでいた。

「うん、テルくん。三年生になってすぐだったかな? テルくんからコクられ

 て、それで… 」

嬉しそうに微笑む修子の言葉が、どうにも理解し辛くて良隆は目を伏せ黙り込

む。しかし、隣の雅哉は諦めない。

「なんで? どうして、テルなんだよ? なあ、ノブちゃん、なんで… 」

切羽詰まった幼馴染みの問いかけに、修子は困った様な顔をする。

「何でって、言われてもさぁ… ほら、テルくん、なんだか放っておけないじ

 ゃない」

どうにも意外な言葉が続くから、良隆も顔を上げて彼女に話の先を促す。

「あのね、マーくんはテニスで凄く有名に成ったし、運動神経も良くて、女の

 子のファンもいっぱいいるでしょう? 」

最初は雅哉を見て理由を語った彼女は、つぎに良隆に目を移す。

「ヨシくんは抜群の頭が良いし生徒会長にも成って、やっぱり女の子には結構

 人気があったもんね… でも、テルくんは、ほら、イマイチぱっとしたとこ

 ろも無いし、頭もあんまり良くは無いから、どうしても放っておけなかった

 のよ」

「だっ… だからって、テルは無いだろう? テルなんて… 」

逆上した雅哉は、自分よりも劣ると見下していた幼馴染みに、恋い焦がれた修

子を掠め取られたと言う思いから、不用意な一言を口走った。

「それ、どう言う意味なの? テルくんの何処がいけないのよ? 彼はとって

 も優しいし、それに誠実だわ」

愛しく思う男をあからさまに貶されて、修子の目に怒りが浮かぶ。

「いや、その… どう言う意味って… えっと… 」

明らかに機嫌を損ねた美女を前に、雅哉は冷水をぶっ掛けられた気持ちに成っ

たに違い無い。彼は助けを求める様に良隆の方を見た。しかし、彼もまた輝夫

を庇う修子の怒りに驚いて、何をどう言って良いか分からずに途方に暮れるば

かりだ。

「私とテルくんは、先週も二人だけで泊まり掛けの旅行に出かけたの。これっ

 て、どう言う意味だかわかるでしょう? 私はもうテルくんの彼女なんだか

 ら、二人の気持ちは嬉しいけれど、おつき合いは出来ません」

雅哉の失言に腹を立てたままで幼馴染みの美女は踵を返すと、二人の返事を待

つ事も無く、そのまま歩み去ってしまった。こうして良隆にとって最初にして

最大の失恋劇は幕を閉じている。

(あれは、キツかった… あの時には俺も雅哉も、本当にガッカリとしたもの

 だよ)

こうして思い出しても、彼の比較的に恵まれた人生において、あの失恋以上の

痛恨の衝撃は無かっただろう。あっさり袖にされた二人は、そのまま夜の繁華

街に雪崩れ込んで、朝まで痛飲したものだ。翌日の早朝にヘドまみれと成り、

駅前のローターリーの花壇で目を覚ました時の惨めさは、今でもはっきりと憶

えている。もっとも、隣で彼と同様に自分の吐いたゲロでシャツを汚した雅哉

が転がっていてくれた事は、ほんの僅かな救いではあった。

 

普通であれば、これで4人の仲良し関係は終止符が打たれるハズであるが、そ

うは成らなかったのは輝夫の性格に寄る所が大きい。二人をまんまと出し抜い

た彼は、そんな素振りを少しも見せずに、これまでと同様に良隆や雅哉を遊び

に誘っている。修子をさらわれた事を悔しがっていると思われるのも癪に触る

二人は、表面上は平静を装いながら、それまでと同様に輝夫に付き合い、やが

て彼等は当時憶えたばかりのマージャンに興じる様に成って行った。

平素の輝夫は修子との付き合いを口にする事も無く、良隆や雅哉もプライドに

かけて敢えて問いただす事は憚られた。仲良し4人組は、ただ修子が抜けただ

けで3人組へと移行したと言えたのだ。失恋の特効薬は時薬と言う格言の通り

に、大学生活を続ける内に最初に雅哉が、そして3年生の終わりには良隆にも

新しい恋が芽生えて、古傷は癒されて行く。

もっとも、良隆の学生時代の恋は結局不毛な終わりを遂げたが、雅哉は大学時

代からの付き合いを成就させて、先年そのままゴールインしていた。その後、

良夫は父親の経営する不動産会社に就職して今日に至るが、雅哉の方は波瀾に

満ちている。大学時代の先輩に誘われた彼は、インターネット関連の小さな会

社に入り、そこでノウハウを学び取ると同時にビジネスチャンスを嗅ぎ付けて

、僅か2年で会社を離れて独立を果たしていた。

幼馴染みの英断に応援するつもりで幾許かの出資を行った良隆であったが、彼

のビジネスに関する才能は本物で、後に逆に多額の配当を得て懐が大いに潤っ

ていた。今では雅哉の経営するインターネットの関連会社の方が、規模におい

ては良隆の不動産会社を上回っている。

 

 

 

 


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