その3

 

 

 

 

「地道な不動産屋が嫌に成ったら、いつでも声を掛けてくれよな。お前ならウ

 チの会社でも幹部として歓迎するぜ」

己の才覚だけで、この地方きってのベンチャー企業の若手経営者として知られ

る様になった雅哉の言葉に、先祖伝来の資産を運用して裕福に暮らす良隆は、

苦笑を浮かべて頷いていた。それぞれに形は異なるが、派手に実業家としての

道を歩む二人に比べると、輝夫は相変わらずの人生を過ごしていた。大学に進

む事なく専門学校を出た輝夫は、彼等よりも二年早く社会に出て、市役所に職

を得ている。

ちょうど雅哉がベンチャー企業の旗手ともてはやされ始めた頃に、輝夫は修子

と華飾の宴に漕ぎ着けていた。もちろん、結婚式には良隆や雅哉も招待されて

、眩いばかりに美しい修子のウエディング・ドレス姿に絶句した二人は改めて

逃した魚が大きかった事を嘆き合ったものだ。高校生の頃には歯牙にも掛けな

かった輝夫にマドンナをさらわれて、良隆も雅哉も内心では忸怩とした思いは

強かった。

「おまちどうさま、たいしたおもてなしは出来ないけれど… 」

御盆に幾つか小鉢を乗せて修子が戻って来た事から、良隆は物思いから現実へ

と引き戻される。

「いや、あっ… その、お構いなく」

学生時代の照れくさい思い出が蘇り、良隆はしどろもどろに成る。

「あら、グラスがカラね」

小鉢を卓袱台に並べ終えると、修子は当たり前の様に彼の隣に陣取り、躯を必

要以上に密着させてビールをお酌する。

「あっ… ありがとう」

照れ隠しにビールを半分ほど飲んだ良隆を、彼女は黒めがちの瞳でじっと見つ

めた。

「もう三度目なのに、まだ緊張しているね、ヨシくんは… でも、それがあな

 たの良いところかな? ほら、マーくんなんて図々しいものよ」

人妻に成り美しさに増々磨きが掛かった感のある修子に見つめられて、彼は思

わず息を呑む。また、二人きりのこの場で雅哉の名前が出された事に、少しだ

け嫉妬で心が軋む。

(おいおい、相手はテルの女房に成った女なんだぜ、なのに雅哉なんかに妬い

 て、どうするんだ? )

自分でも理不尽だと思う感情を持て余して、彼はそのまま目を伏せた。

「うふふ… 変わらないね、ヨシくんは」

彼の逡巡を他所に、しなだれかかってきた人妻の手が間男の股間に伸びて来る

。ふしだらな行為だとは思うのだが、それでも良隆は、この家に来るのを拒め

ない。そもそも事の起こりは、彼等が学生時代に熱中したマージャンにある。

良隆にしても雅哉にしても、たしかに一時は麻雀にのめり込み、徹夜で卓を囲

む日々が続いたが、気楽な学生生活を終えると同時に熱も冷めている。

ところが輝夫だけは違っていた。節度をもって卓を囲む様に成った二人に比べ

て、輝夫は市役所務めを始めても、この手軽なギャンブルに増々熱を上げてい

る。小役人の給与などたかが知れているから、役人仲間内でのレートは低いの

だが、それでも毎晩ともなれば、塵も積もって山に成る。元々所属している土

木課だけで無く、今日は保険課、昨日は戸籍課、さらに明日は上下水道課、明

後日は港湾課と、どんな連中とでも見境なく卓を囲む上で、休日とも成れば気

心の知れた良隆や雅哉を熱心に誘う幼馴染みを、二人は何度も諌めたものだが

、輝夫はまるで聞く耳を持たない。

これで肝心の麻雀が上手ければ問題は無い、しかし下手の横好きとは輝夫の為

に用意された諺であるがごとくに、彼は至る所で負け続ける。如何にレートが

低くても連戦連敗を続ければ当然、毎月の懐具合は厳しい限りだ。だが、ほか

の事であれば素直だし、ある程度は常識を弁えて見える輝夫なのに、事が麻雀

と成ると理性が凍り付き、相変わらず方々で負け戦にどっぷりと首まで漬かっ

てしまっていた。

幼馴染みと言う事もあり、また懐の具合も輝夫よりも遥かに裕福な事から、良

隆も雅哉もいつしか彼から負けの取り立ては諦めている。しかし、ほかの連中

が相手とあれば、そうは行かない。最近では逆に彼等から借金して、他所での

負けの穴埋めをする始末である。そんな関係に一大転機が訪れたのは、今から

半年ほど前の事だった。ある夜、雅哉と二人でいきつけのクラブで呑んでいる

時の事だ。

「このままではテルは本当にダメに成るよ。お前も肩代わりしているだろうけ

 れど、アイツの麻雀の俺に対する借金は俺達との卓の負け分を除いても、も

 う100万を超えちまったぞ」

水割りのグラスを傾けた雅哉は、憤懣やる方無いと言った面持ちで首を横に振

る。とっくに輝夫から博打の負け分を取り立てる気持ちは失っているが、だら

しない幼馴染みは他の連中に負けた分が払い切れなく成ると、良隆か雅哉に泣

きついて来るのだ。

「あの馬鹿野郎が、どん底に落ちるのは勝手だけれど、ノブちゃんまで不幸に

 成るのは許せんからな。俺はキッパリとカタを付けてやるつもりだよ」

大学時代の彼女を首尾良く妻に迎えた雅哉であるが、まだ修子に対する未練は

捨て難いのであろう。彼と同じく輝夫に対して多額の貸しを持つ良隆は、曖昧

な笑みを浮かべて頷いた。

「でも、カタを付けると言っても、具体的にどうするつもりなんだ? 」

「ノブちゃんに、奴の借金のことを全部ぶちまけて、それで彼女にテルの馬鹿

 野郎を説教してもらうんだよ。もうそれしかほかに手は無いさ」

これまで彼等は幼馴染みの顔を潰さぬ様にと、輝夫が作った借金について修子

には一言も漏らしてはいない。しかし、金の無心も長年に渡り金額も大きく膨

れ上がった事から、ついに雅哉は輝夫の行状を、彼の妻の修子に告げる決意を

下したのだ。

「俺等に借りているウチは、まだ良いが、なんかの拍子でサラ金なんかに手を

 出した日には、ノブちゃんも不幸に成るからな。ここは一発、ガツンと言っ

 て、彼女と二人で輝夫の馬鹿を説教してやるさ。そうだ、お前も来るか? 」

雅哉の誘いに良隆は首を横に振る。

「いや、3人掛りで責められたらテルも立場が無いだろう? 俺は遠慮してお

 くよ」

雅哉ほどには、昔の恋敵に戦闘的に成れない良隆は、面倒事を煩わしく思い同

席を断った。今に成って振り返ってみれば、この時の雅哉は確かに修子の未来

を案じての出しゃばりであり、そこには下心は無かった様に思えた。

「よし分かった、俺様にまかせておけ。あのま麻雀狂いの馬鹿野郎の目を、パ

 ッチリと覚まさせてやるぜ! 」

アルコールの勢いを借りて雅哉が自信たっぷりに嘯くが、彼等二人が思う以上

に輝夫の性根は腐っていたのだ。そんな話が交わされた数日後、不意にふらり

と雅哉が良隆の会社に顔を見せたのは、ちょうど昼時の事である。

 

 

 

 


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