その4

 

 

 

 

「メシを喰いに行こうぜ」

アポも無しに昼間にやってくるのは珍しい事だから、奇妙に思いながらも良隆

は友人と連れ立って近所のソバ屋に落ち着いた。注文を済ませると、なぜか雅

哉は落ち着かない風情で悪癖の貧乏揺すりを繰り返しテーブルをカタカタと鳴

らす。

「なにか話があって来たんじゃないのか? 雅哉? 」

しばらくは他愛もない世間話に花を咲かせてみたのだが、友人の心ここにあら

ずと言った雰囲気を察して、良隆は自分の方から切り出してみた。その彼の顔

を雅哉はしばらくジッと睨んで来る。

「その様子じゃ、まだみたいだな? 」

「えっ… 唐突になんの話だ? 」

強張った声での友の問いかけに、合点が行かぬ良隆は小首を傾げた。

「そうか、まだなんだ… いや、いいんだよ。なんでもない… 」

「なんでも無いって、何がだ? お前、何を隠しているんだ? 」

長い付き合いだから雅哉が何ごとか意中に秘めている事くらい、容易に想像は

付く。改めて問い質そうと身構えた時に、間が悪く雅哉の注文した天ざるソバ

が年輩の女店員の手で運ばれて来てしまう。

「話はあとだ、メシにしよう」

良隆の気負いをはぐらかして、雅哉は割り箸を手にすると天ざるソバに取りか

かる。釈然としない何かを感じたままで、良隆も少し遅れて来た冷やし狐うど

んをズルズルと音を立てて啜り上げる。先に食べ終えた雅哉は、まだ少し麺を

残している友人に向かって、またも意味深な台詞を一方的に投げかけて来た。

「そのうち、テルの借金についてノブちゃんから連絡… いや、呼び出しが有

 ると思うから、そうしたら黙ってお前一人で訪ねて行ってやれよな。絶対に

 一人で行くんだぞ」

食べかけの麺を咽に流し込みながら、良隆は訪ねて来た友人の言葉に疑念を抱

く。

「おまえ… まさかテルが俺にも借金がある事を、ノブちゃんにバラしてしま

 ったのか? 」

「ああ、彼女から聞かれたからな。彼奴が俺だけに金を借りていると思う方が

 おかしいだろう? ノブちゃんはそんなに間抜けな女じゃ無いさ」

たしかに雅哉の説明は筋が通っている。しかし、その時の良隆は修子の悲しむ

顔を見たく無かったから、友人が余計な事を口にしてくれたと迷惑に感じたも

のだ。

「近々、ぜったいにノブちゃんから、お前にも連絡が入る。そして、確実に彼

 女等の家まで来てくれって言われるハズだから、そうしたら、黙って行って

 来い」

ぬるく成ったお茶を呑んだ後で、雅哉は何故か強引に言い募って来る。

「気が進まないな、俺はこんな事でノブちゃんと話をしたくは無いよ」

実際、輝夫の金銭感覚のだらしなさには閉口しているが、昔の憧れの彼女を責

める様なまねは、やかり良家のボンボン育ちの良隆には憂鬱である。

「いいから、テルの話は抜きにして、とにかくノブちゃんに誘われたら、彼女

 の所に行くんだぞ。行かないと、たぶん一生後悔する事に成るぜ」

やはり含みのある言葉を残して雅哉は立ち上がると、伝票を持ってレジに向か

って歩き出す。

「おい! 後悔って、なんだいそれは? 何の事なんだ? 」

慌てて箸を置いて立ち上がろうとする良隆を不意の来訪者は片手で制する。

「行けばわかる。実際に行かなきゃ… わからん」

最後まで意味不明な台詞を並べ立てた雅哉は皮肉な笑みを浮かべると、邪魔し

たなと言い残してさっさと帰ってしまった。友人の謎掛け問答が記憶に新しい

翌日には、雅哉の予言通りに修子から連絡が入る。友人の台詞から好奇心を膨

らませていた良隆は、多少の逡巡はあったものの、結局、その次の日の昼過ぎ

に会社を抜け出して、彼女が暮らす市営住宅に足を運んでいた。

 

「いらっしゃい」

笑顔で出迎えてくれた修子であるが、その出で立ちは尋常では無い。胸の膨ら

みの頂点のボッチから明らかにノーブラである事が窺い知れるタンクトップに

、形の良い脚がすらりと眩しいマイクロ・ミニスカートを身に付けた修子であ

るから、良隆は目のやり場に困ったものだ。

真っ昼間だから油断して、気軽に彼女の家を訪れていたのは、以前にもマージ

ャンが目的で何度と無く、うらぶれた市営住宅を訪ねていたからだ。平日の事

もあり、夫の輝夫が役所に出勤している事も想像は付いたけれども、おそらく

だらしない夫の行状を詫びるつもりで、呼ばれたと思い込んでいた良隆は、あ

まりにも扇情的な美貌の人妻の招きに驚き、無理に作る笑顔も強張りがちだっ

た。

「御免ねヨシくん、ウチの亭主が迷惑をかけてさ」

「あっ… いや、その… 大丈夫だよ、俺の方は」

正座して深々と頭を下げた修子の胸元に目を引き付けられて良隆はしどろもど

ろだ。前屈みの彼女の胸は、ひろく開いたタンクトップの前のお陰で、かなり

の部分が露出されている。想像通りにくっきりと浮かび上がる胸の谷間を見せ

つけられて、良隆は思春期の餓鬼の様に胸が高まり情けない思いを噛み締める

(なんて格好なんだ? ひょっとして、誘っているのか? )

数日前に訪ねて来た雅哉が、必ずひとりで行けと念を押した意味を、朧げなが

らに良隆は理解する。

「ほら、ウチって貧乏だから、すぐにお金を返すわけのも行かないのよ。でも

 、その代わりに、感謝と言うか… 謝罪の気持ちだけは受け取ってほしいの」

まさかの展開に驚き固まる良隆に美しい人妻はにじり寄り、彼女の方からキス

を仕掛けてくるではないか! 数日前の雅哉の意味深な行動の意味が分かった

良隆は、これは夢ではないかと訝しむ。しかし、重ねた唇のやわらかな感触が

、修子の積極的な行為が幻ではない事を如実に物語っていた。数十年来の思い

が脳裏に次々とフラッシュ・バックする中で、良隆の理性は呆気無く崩壊する

「ノブちゃん、俺! 」

「いいのよ、抱いて」

実は、ここを訪れた時から多少の予感はありはしたが、まさか、そんな都合の

良い成り行きはあるまいと言う気持ちの方が強い良隆であったので、修子の赤

裸々な誘いの言葉に、すっかりと頭に血が昇っている。そのまま居間の畳の床

に彼女を押し倒した良隆は、タンクトップを乱暴にまくりあげると、そのまま

ボリューム感溢れる人妻の胸にしゃぶりつく。

(これが、修子のオッパイか… これが… これが… )

思春期の頃には、夜の自慰のオカズとして、それこそ何百回と想像で汚して来

た幼馴染みの胸の豊かな膨らみを舐め回して弄くりながら、良隆は不思議な感

動で心を震わせている。

「ねえ、パンツを脱がせてよ、ヨシくん」

こんな台詞を憧れの美女から囁かれて、首を横に振れる者はいないだろう。も

ちろん、良隆も勇躍して彼女から白のシューツを毟り取る。修子の言葉に逆上

した彼は、こんどは立ち上がると、慌ててズボンやトランクスも脱ぎ捨てる。

 

 

 

 


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