気が付くと真弓はひとりで布団に寝かされていた。寝ぼけ眼で見なれない光景 を眺めている内に、己の身に降り掛かった異常な行為をぼんやりと思い出す。 (ああ… また、この香り… ) 夫の実家と同じく、大きな蚊帳の中で横たわっている真弓は女を狂わせると説 明された桃源香が、今朝も部屋に立ち篭めている中で目覚めたのだ。これまで 彼女は男と女の行為に対して、どちらかと言えば自分は淡白な方だと思ってい た。勿論、独身の時代には夫をつなぎとめる為に積極的に振る舞ってみせた事 もある。 だが、こうして妻の座におさまってからは、求められれば夫の隆弘との閨の睦 事を拒むような真似はしないが、自分の方から欲する気持ちは希薄に成ってい ると思っていた。夫婦の関係において重要なのは精神的な繋がりであり、セッ クスは肉体を使ったコミニケーションの手段のひとつ程度に思って来た美人妻 にとって、夫の実家での一夜の体験は、その価値観を根底から覆す大事件に他 成らない。 ようやく肌を合わせる事に慣れて来た夫との閨ではけして体験する事の無かっ た、他に比べ様も無い絶対的な高みへと何度も押し上げられた挙げ句に悶絶に 至った事は、真弓の倫理観を一夜にして粉砕する衝撃的な出来事と成った。お そらくこの事態を予測しながら、敢えて実家に彼女を置き去りにした夫に対す る憤りは影を顰めて、代わりに自分が女としての悦びに目覚めた戸惑いが、美 貌の若妻を大いに混乱させている。 セックスにより意識を失うなどと言う事は、彼女はこれまで絵空事と信じて生 きて来た。扇情的な女性誌などのセックス体験の記事を銀行の待ち時間などの 暇つぶしに読んで見たところで、己の体験と照らし合わせたならば、それは馬 鹿げたホラ話としか思えない。だが、そんな真弓の固定観念も、夫の実家の村 で過ごした悪夢とも言える一夜のせいで、完全に打ち砕かれてしまっていた。 しかも、おそらく彼女の受難は、まだ終わりでは無いだろう。寝室としてあて がわれた部屋の蚊帳の中に濃密に焚き込められた桃源香が、真弓の躯を疼かせ る。
「お目覚めですか? 若奥様? 」 まるで何ごとも無かったかの様に、縁側に通じる障子を開いて女中の妙子が声 を掛けて来る。昨日とは違って、妙子は再び女中の立場に戻り口調も馬鹿丁寧 だ。 「あの… ここは? 」 「村長様のお宅ですよ。昨晩は若奥様もお疲れの様でしたから一晩泊めていた だきました。御心配なく、御実家の方も万事承知の上ですからね。若奥様は ゆっくりと村長様の御寵愛を賜って下さい」 蚊帳を捲って布団の近付いて来た妙子を見ても、もう真弓には文句を言うだけ の気力が無い。なにしろ村長とその父親に弄ばれた挙げ句にイキ狂い、そのま ま意識を失った美人妻は、またもや一晩中、この妖しくも忌わしいお香の中で 眠りに付いてしまっている。昨日に比べると躯の方が慣れたのか? 手足に痺 れは感じられなく成ってはいるが、それでも両手は鉛の様に重く、この身を動 かすのは酷く億劫だ。 「さあ、若奥様、お食事の前にお風呂にしましょう。昨晩、村長様の御寵愛を 賜ったまま、身を清める事もなくお休みに成られてしまいましたからね」 確かに妙子の言う通りだ。浴衣こそ新しいものが与えられてはいるが、村長に 犯された躯は一晩を経て饐えた様な臭いを放っている。汗を流す爽快さを思い 、真弓は促されるままに立ち上がると、夢の中にいる様な足取りで古い日本家 屋らしい縁側を妙子に手を引かれて風呂場へと向かった。もしも、美貌の若妻 にいつもの思考能力が戻っていれば、一も二もなく、この忌わしい屋敷から退 散した事であろう。 しかし、一晩中、あの妖し気な桃源香の中で過ごした彼女の頭はぼんやりと霞 みが掛かり、今は物事を論理的に判断するのは難しい。だから真弓がこの陵辱 の館から一目散に逃げ出すよりも、汗や男の体液で汚れた躯を清める事を選ん でも責める事は出来ない。また、彼女がそんな状態に陥っている事を経験上理 解している妙子も、それゆえに過度に警戒する事なく若く可愛らしい獲物を風 呂場へと案内している。 「お体を清めますね、若奥様」 大きな風呂場の椅子に腰掛けた真弓は、まだ意識がはっきりとしない風情だっ たので、彼女と同じく全裸と成った妙子はタオルにシャボンを泡立てて、美貌 の若妻の細い首筋を洗い始める。 「あっ… 」 女中の奉仕を受けた真弓は小さく喘ぎ瞳を潤ませた。あの桃源香をめいっぱい に吸い込んでいた若妻の性感は暴走していて、軽い接触であっても神経が逆撫 でされる様に甘美な快感が走り抜けた。 「あら? 感じていらっしゃるの? 無理もないですわよ。さあ、気を楽に持 って下さいね。まだまだ、これからが本番ですから」 とりいそぎタオルを用いて全裸の若妻の汚れを落した女中は、シャボンの泡を 濯ぎ落すと、そのまま真弓のたたわに実った胸元に指を這わせて行く。 「あっ… あふぅ… 」 夫の愛撫や、昨晩の男等の玩弄とも異なる、同性ならではの繊細な行為が真弓 の狂った性感を刺激する。ねっとりとしっつこい指嬲りの前では、奇妙なお香 のせいで暴走する快感を隠す事は出来ない。なんとか女中の魔の手から逃れよ うと裸身を捻ってみても、まだ上手く躯に力が入らない。 「若奥様、もがいても無駄ですわ。若奥様だって満更嫌なだけじゃ無いでしょ う? 隠しても無駄ですよ。だって私もそうだったのですから… うふ… うふふふふ… 」 細い指先で乳首を転がす様に弄ばれて、真弓は逃れようの無い甘い快感に溺れ 始める。たしかに妙子の言う通り、昨日からの乱行はけして辛いばかりの行為 では無く成っている。得体の知れない香のせいで狂った性感は、自分でも呆れ るほどに沸々と滾り続けていた。 「あっ… た、妙子さん… だめ、おねがい、もう… はぁぁぁぁ… 」 「ほんとうに若奥様のお肌は白くて綺麗だわ。これならば村の皆も争って若奥 様の前に列を作るでしょうね。ああ、ねたましい… 」 瞳の奥に嫉妬の炎を閃かせて、妙子は主人である若妻の乳首を、すこし憎しみ を込めて抓り上げた。 「きゃぁぁぁぁぁぁぁ… 」 風呂場の湯気のせいでしっとりと濡れた肌を曝した真弓は、女中の狼逆に抗う 術もなく情けない悲鳴を張り上げる。 「可愛い声で無くのね、まったく人妻のくせにカマトトぶって、村長様にも色 目を使う最低のアバズレだわ」 真弓にとっては酷い言い掛かりだが、嫉妬に狂った妙子は若いライバルの出現 が何とも面白く無い。あらかじめ用意していたベビーローションを指先に垂ら した女中は、胸元への玩弄で早くも夢うつつと成った美人妻の円やかな尻へと 魔の手を延ばす。 「あっ… だめ、そこは、いや、触らないで、汚いから… あっ… あうぅぅ ぅ… 」 物心付いてからは誰にも触らせた事が無い排泄器官への狼藉だから、さすがに 怪し気なお香で判断力が鈍っている真弓でも敏感に反応して身を捩る。
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