先生と生徒 15

 

 

 

 

「たっ! 逮捕されたの? 狭山くんが? 」

「うん、そうだよ。狭山くんだけじゃ無くて、彼の子分の小竹くんと石本くん

 も警察に捕まっちゃったみたいなんだ」

仲の良い友人からの情報を教室で聞いた時に、聡は足元が崩れて奈落の底に転

がり落ちるような気分を味わっている。朝、登校して来た時からクラスの中の

ざわめきは大きく、この手の情報に疎い聡は、比較的に仲の良い級友を捕まえ

て、ようやく彼等生徒を震撼させたトップニュースを聞き込んでいた。

友人の話によれば、事の露見は繁華街のクラブに対する麻薬の不法売買の一斉

取り締まりの結果らしい。たまたま一昨日の夜に、警察による手入れが行われ

たクラブで狭山等3人が遊んでいて、しかも狭山は持ち物検査の結果、覚醒剤

の不法所持が露見したそうなのだ。

未成年者であるから新聞等の報道もされてはいないが、この手の話は何処から

か必ず漏れて来て、噂話しは瞬く間に千里を駆け抜けるものだ。事がチンケな

恐喝や万引き等であれば、無期限停学や退学等の処分で済むだろうけれども、

覚醒剤の所持や使用となれば、話の重大さは次元が変わって来る。もしも、い

まクラスメイトの中を駆け巡っている噂が真実であれば、狭山等不良グループ

が今日明日に学業の復帰するとは思えない。

「狭山くん達は3人とも尿検査されて、覚醒剤使用で陽性反応が出たらしいよ」

「それだけじゃ無くて、ほら、先月に駅前商店街のゲーム屋さんが荒らされた

 のも、どうやら狭山くんや石本くん達がやっちゃったみたいなんだ」

「あれ? 僕は石本くんと小竹くんが2人で自動販売機荒らしをやっていたっ

 て聞いたけれど… 違うのかな? 」

「うん、それ聞いた事があるね。あと、石本くんの家から、盗んだバイクが何

 台も見つかったって… これは2組の奴が言っていたんだ」

比較的に偏差値の高い高校なだけに、狭山等不良グループは彼等の中では浮い

た存在だったから、クラスメイト等はさして同情する事も無く、興味本意で互

いが耳にした断片的な犯罪行為の情報を交換し合っている。だが、表面化して

はいなかったが、こと輪姦行為に限っては既に狭山等の一味に組みしていた聡

にとって、仲間が一網打尽に成った衝撃は大きい。

幸いな事に覚醒剤の売買や使用、それに各種の盗みにも、付き合いの浅かった

彼は巻き込まれてはいない。しかし、これまで学校の中で2人の女教師に対し

て飽く事なく性的な狼藉を繰り返して来た事実は消す事は出来ないであろう。

麻子や真里子を屈服させた陵辱の証拠写真の類いは、実は彼が狭山から預かっ

ていた。お前が持っていた方が安全だからと手渡された分厚い封筒には、そこ

らのエロ写真など蹴散らすような、二人の女教師の痴態が余すところ無く記録

されている。

いまと成っては、自分も加担してしまった性的犯罪行為の証拠と成り得る写真

だから、聡はどうやって処分すれば良いか悩み始めていた。彼と狭山等のグル

ープとの陰での密接な親交を知らぬクラスメイトの連中の囀りが煩い中で、ま

だ、朝のホームルームが始まるには少し早い時間にも関わらず、教室の前側の

引き戸が開かれて、担任教師の真里子が青ざめた顔で現れた。

「先生! 狭山くんが警察に捕まったって? 本当ですか? 」

クラスの中でもお調子者で知られる奴が挙手をして真里子に問いかける。

「その一件については、あとで臨時の全校朝礼の時に校長先生から詳しい説明

 があります」

いつもとは雰囲気が違い厳しい口調で答えた真里子の様子を見ると、他の生徒

は噂が真実であった事を確信してざわめきを増した。受け持ちの生徒が浮き足

立つ中で真里子は苛々した様子で教室を見回している。美貌の担任教師の視線

が自分で釘付けに成った事から、聡は驚き目を見張る。

「西岡くん、ちょっと、一緒に来てちょうだい。臨時の全校朝礼の件で、生徒

 会役員を集めているのよ」

真里子の言葉に促されて、少年は驚いたままクラスを後にする。少し考えて見

れば、聡に用事があるならば校内放送で呼び出せば済む事なにに、わざわざ真

里子が教室にまで足を運んだ意味を、彼は深く考えてはいなかった。

「あれ? 職員室に行くんじゃ無いんですか? 」

本校舎2階の職員室の向かう階段を無視して、そのまま廊下を直進した女教師

に向かって聡は疑問の声を上げる。

「いいから、黙って付いて来て! さあ、時間が無いから急ぐわよ。事態がは

 っきりとしたら臨時の全校集会が始まってしまうの」

その全校の生徒を集めた臨時の朝礼の為に呼び出されたものと信じていた聡は

、この期に及んでようやく真里子の不可思議な行動に疑念を持った。しかし、

敢えて逆らう理由も無いことから、彼は美貌の国語教師によって、あの進路指

導室へと連れ込まれてしまった。

 

「あっ… 柳田先生… 」

部屋の中には事務机の向こう側の椅子に腰掛けた英語教師が、彼等二人の到着

を待ちわびていた。こちら側のパイプ椅子に座るように指示された少年は、二

人の美しい教師から厳しい視線を向けられて増々畏縮している。

「噂はもう聞いたわよね? 狭山くんは覚醒剤の使用と所持で警察に逮捕され

 たの。石本くんと小竹くんも一緒よ。それで朝から学校は大騒ぎだわ」

麻子の話によれば、一昨日の夜中の警察の手入れで捕まった狭山について、昨

日の夕方に警察から学校への連絡が行われた結果、ようやく今朝に成って教員

全員が、この前例の無い不祥事を知らされたそうなのだ。

「ねえ、西岡くん、やっぱり狭山くんが持って隠しているの? 」

明らかに焦りの見える真里子の問いかけに、聡は戸惑いを隠せない。

「隠すって、何をですか? 」

「とぼけないで! 写真よ、あの恥ずかしい写真の事に決まっているでしょう

 ? もしも警察の家宅捜索でも行われて… いいえ、覚醒剤を持っていたの

 だから、絶対に家宅捜索はあるわ! その時に、私や柳田先生の、あの時の

 、酷い写真が出てきちゃったら、私達はもう破滅よ」

ようやく真里子や麻子の恐慌の原因が分かった聡は、二人を宥める様に微笑み

を浮かべた。

「それならば心配はありません。あの証拠のポラロイド写真は全部僕が狭山く

 んから預かっているんです。石本くんや小竹くんじゃ信用が出来ないから、

 お前が持っていろって、狭山くんから手渡されました」

最大の悩みが瞬時に解消された事で、二人の美女はすぐには反応が出来ない。

やがて、麻子は大きく息を吐いて肩をがっくりと落し、真里子の方は部屋の壁

際に置かれていた3つ目のパイプ椅子に歩み寄ると、こちらも溜息を漏らしつ

つドッカと腰を降ろしてしまった。

「それ、確かな事なの? 全部、キミが預かっているの、その… 写真よ」

「はい、狭山くんの家は狭くて、彼は個室を持っていないんです。兄弟と一緒

 の部屋で生活しているから、あんな写真を仕舞っておく場所は無いって言っ

 てました」

仮にも自分の学校の教師を輪姦している写真であるから、家人に見られるわけ

にも行かず、狭山は聡が真面目な事を目に付けて、麻子や真里子を脅す為の性

行為の証拠写真のすべてを彼に預けていたのだ。

「とりあえず、セーフ… よね? 」

聡の言葉に真実の重みを感じて、夫を持つ身の麻子が苦笑いを浮かべた。

「どうやら、お互いにギリギリのところで救われたのかしら? 」

朝から厳しい顔つきをしていた真里子も、同僚の人妻教師の台詞に力無く頷き

同意を示す。どうやら彼女は警察の手にあの写真が渡る最悪の事態を避けられ

た事で放心状態にある様に見える。

 

 

 

 

 


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