その10

 

 

 

 

「ふぅ… いま思い出してもクラクラしちゃうわ。文化祭限定で、たった2日

 間の売春婦経験だったけれど、そうね、少なく見積もっても5〜60本のオ

 チ◯ポをしゃぶったり、入れられたりして、口もマ◯コもザーメンまみれに

 されたものよ。でも楽しかった… お金で女を買う様な最低な連中に、ギラ

 ギラした目で迫られて、次々に突っ込まれては射精されるんですもの。たい

 ていのセックスでは驚かなくなっていた私だけれども、あの時はすごく興奮

 したわね。女には誰でも娼婦の資質があるって言うけれど、私は特にそれが

 強いかも知れないわ。若い男の汗臭さが充満したクラブ活動の部室で男汁を

 際限なく注がれた娼婦としての体験が、たぶん今までで最高にイキ狂ったセ

 ックスね」

彼女は瞳をキラキラと輝かせて過去の淫猥な記憶を口にする。

「まったく知らない連中が私の前に行列を作ってチ◯ポを自分で擦っているの

 。みんな、私の躯をもとめて欲情を剥き出しにいていたわね。つぎつぎと色

 々なチ◯ポをつっ込まれているうちに、もう何がなんだかわからなく成って

 しまったわ」

初めて肌を合わせて以来、彼女の語る淫蕩な過去は強烈な刺激を若者に齎す様

に成っている。この時も美弥子の言葉が途切れると、彼は勢い付いて年上の美

女の肢体にのしかかって、一気に貫いてしまったものだった。年上の愛人も自

分の体験談が信雄を奮い立たせる事を知っているから、望まれるままに何一つ

隠す事もなく赤裸々に過去を語ってくれている。過去の甘美な肉交の記憶を反

芻してだらしなく頬を緩めた若者の耳に、いきなりチャイムの音が飛び込んで

来た。

(あれ? 誰だろうか? 美弥子さんのハズは無いし… )

確か今夜の彼女は現場が離れていることから、地方の宿に泊まりと聞いている

。だいたい夕方の5時では娘の朋子が学校から戻って来てしまっている時間な

ので、年上の愛人は訪ねて来るタイミングでは無い。丁度ヤカンの口からは白

い湯気が勢い良く噴き出し始めたから、ガスの栓を閉じてから信雄は来訪者に

向かって返答する。

「はい、どなたですか? 」

新聞屋への支払いは一昨日済ませたばかりだし、家にいきなり訪ねて来る様な

親しい友人には心当たりも無い。ひょっとして田舎から何か差し入れの宅急便

でも届いたのであろうかと首を捻りながら彼は扉に向かう。ちらりと時計を見

て、夕方の5時を少し回った時刻である事を確認した若者は、一人暮らしの気

楽さもあり、安易にドアを開け放つ。すると、そこには可愛い女の子が立って

いた。

「あれ、トモちゃん、どうしたんだい? 」

年上の愛人の娘である朋子は、彼の問いかけを無視して、憮然とした面持ちで

部屋に上がり込んで来る。彼女が高校を受験する際に、少しのあいだ勉強を見

て上げた事もある関係だから、少女が部屋を訪れるのはこれが初めてでは無い

。しかし、いつもは朗らかな彼女が、眉を顰めて無言で隣室に乗り込んで来た

事から、信雄の胸に不安が広がる。

「やっ… やあ、いらっしゃい、丁度お湯を沸かしたところだから、コーヒー

 でもどうだい? トモちゃん」

後ろ暗い思いがある若者は、必要以上に低姿勢で闖入して来た少女をもてなす

「ありがとう、センセイ! 」

台詞は感謝の意を現しているが、その口調は刺々しいので、信雄は増々畏縮し

ながらコーヒーの支度を整えて行く。

「えっと、たしか、砂糖は3つで、クリームもたっぷりだよね、トモちゃんは

 … 」

ドキドキしながら彼女の前に客様のカップを差し出した信雄は、さて、どうし

て話の取っ掛かりを掴もうか悩んでしまう。どう見ても友好的な訪問とは思え

ない朋子からは、ゆらゆらと怒りのオーラが滲み出て見えた。何となくいたた

まれずに、一旦は台所に避難した若者であったが、いつまでも狭いシンクの前

でグズグズするのも変だから、愛用のカップにコーヒーを満たすと、ようやく

踏ん切りを付けて居間に戻る。

「ひさしぶりだね、トモちゃん。どうだい、学校の方は? 」

いきなりの少女の訪問に面喰らい、話の接ぎ穂を求めて彼は高校について問い

かけた。

「べつに… 普通よ」

取り付くしまの無い少女の横顔を眺めているうちに、不意に彼は一昨日の美弥

子との会話を思い出す。

「あのまま、あそこに拉致られ続けていたら、私は間違い無く商売女に成って

 いたの思うの。でも、当たり前なんだけれども、避妊なんてぜんぜんしてい

 なかったから、妊娠しちゃったのよね。経験を重ねた中年のオヤジならば、

 ハラボテ女でも面白がって犯り続けるだろうけれど、ほら、なにしろ相手は

 不良と言っても高校生でしょう? お腹の膨らみが目立ってくると、一気に

 興醒めした見たいなのよ。それに、赤ん坊が生まれたらどうしようか、困っ

 たみたいで、結局しばらくして拉致部屋から放り出されちゃったわ」

「そっ… それで、どう成ったんですか? 」

急転直下の展開に、信雄は驚き問い質す。

「最初からおろすつもりは無かったから、唯一私に優しかった母方の祖母を頼

 る事にしたの。おばあちゃんは随分と驚いていたけれど、結局許してくれて

 、それからは祖母の家で暮らして出産したわけよ。それが朋子なの。だから

 、あの子には悪いけれども、父親が誰かなんて? 全然見当も付かなかった

 のよねぇ… 」

菩薩を思わせる微笑みを浮かべて、美弥子は過去を振り返る。

「あの子が生まれてから、私は朋子を幸せにしてやる義務があると思って、男

 断ちを決心したの。それがあの子に父親をあげられなかった私のせめてもの

 罪滅ぼしなのよね。それに、いざ産んでみたら、もう可愛くて可愛くて、別

 に男無しでもあんまり気に成らなくなっていたわ。祖母が他界するまでは手

 を借りられたし、亡くなった後にも生活に困らない様にダンプの運ちゃんで

 稼いで来たのよ」

男に狂った牝から束の間、母親の顔を取り戻した美弥子は目を細めて娘を思う

「父親はいなかったけれども、あの子、母親の私から見ても本当に良い子に育

 ってくれたわ。素直で朗らかで、とても私の娘とは思えないくらいに良い子

 なの。うふ… 親馬鹿かしらね。だから、つい最近まで、あの子さえ居てく

 れたら他には何もいらないって思っていたのだけれど… やっぱり私は女だ

 った。一度、思い出したら、もう歯止めが効かないもの」

熱い吐息を漏らして、胸板に頬擦りしてくる年上の美女は、不意に頭を上げて

真面目な顔で信雄を見つめる。

「ねえ、ノブちゃん。あなた、朋子の事、どう思う? 」

「どっ… どうって? とても良い子ですね。朗らかで、気持ちが優しい可愛

 い子だと思いますよ」

いきなりの問いかけに驚いた信雄は、思った通りに事を口にする。

 

 

 

 


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