その5

 

 

 

大して広くも無い部屋の片隅にはスチール製の事務机が置かれていて、壁際の机

の上には旧式なブラウン管モニター型のコンピューターが鎮座している。舞子の

手にはいつの間に取り出したのか? 一枚のカードが握られていた。彼女はコン

ピューターでは無く、ブラウン管モニターの脇に偽装されていたスリットにカー

ドを差し込む。すると、部屋の奥にあった両開き型のドアが、するすると音も無

く自動で左右に開かれたではないか! 驚く佑二を横目に舞子は開かれた扉の向

かって歩き始めた。

「いらっしゃいませ、朱雀さま」

それまでの殺風景さとはうって変わって豪奢な内装の施された空間の正面には、

大理石で組まれたカウンターがあり、中には中年の品の良い男性が笑顔を見せて

佇んでいた。

「こんにちわ、マスター。またお世話になるわね」

「オーダー通りに104号室を準備しております」

規模こそ小さいが都内でも超一流のホテルのエントランスにも引けを取らぬ豪華

絢爛な内装に圧倒されて、佑二はあんぐりと口を開けたまま周囲を何度も見回し

た。なんの変哲も無い雑居ビルの上層階に、まさかこんなものが隠されていると

は思わない少年の驚きを、マスターと呼ばれた中年男性は面白そうに眺めている。

「今夜はまた、ずいぶんと御若いお伴の方ですね」

「ええ、でも私の知るかぎりでは最高のサディストなの」

ざっくばらんにとんでもない会話を交わす二人のことを佑二は呆れて交互に見つ

めた。

「それで104号室を御所望なのですね」

マスターは納得顔で頷いた。

「ええ、そう言う事。さあ、行きましょう、佑二」

部屋がどこか分かっている彼女は先に立ち、左手の奥に通じる廊下を目指して歩

き始めた。状況がイマイチ呑み込めぬ少年は、とりあえずマスターと呼ばれた男

に軽く会釈してから、舞子の後を追い掛ける。

「舞子さん、ここって? 何ですか? 」

「そうねぇ、ちょっとだけ高級な会員制のラブホテルと考えれば、まあ、間違い

 はないわね」

御上品とは言えないネオンを煌々とさせ、幹線道路沿いに乱立していると言うイ

メージが強いラブホテルと、この場所とのギャップに苦しみながら、彼は美女の

後ろに続いて歩いて行く。

 

「ここよ」

最初にこのフロアに入った時と同様に部屋の扉の前に立った舞子は、右側の壁に

あるインターホンの下のスリットにカードを差し込んだ。カチャっと言う音で施

錠が解かれた事を知った美女は、金鍍金も眩いドアノブを掴み飾りドアを押し開

く。

(うわぁ! こりゃ、また… )

美女に続いて部屋の中に足を踏み入れた佑二は、さっきとは別の意味で唖然とな

り思わず辺を見回した。部屋の左奥には猛獣が暴れても平気なように思えるがっ

しりとした檻が設えられているし、檻の脇の壁には黄金鍍金の十字架が埋め込ま

れていた。

その十字架が単なる悪趣味な装飾で無い証明は、両手と両足、そして首と腰の部

分に哀れな獲物を拘束するための皮製のベルトが用意されているのだ。しかも、

他の調度がピカピカに磨き上げられているのに、十字架から垂れ下がった皮ベル

トだけは、汗か他の体液か判別の難しい滲みが浮き出ていた。そこから右に首を

振れば、硝子張りで中が丸見えのトイレと風呂が目に飛び込んでくる。

風呂の洗い場やトイレの便器近くには幾つもの鉄の鎖が天井から垂れ下がり、風

呂のシャワーの脇にも黄金鍍金の十字架が設置されているのだ。また、部屋の中

央に置かれた巨大なベッドも尋常では無く、風呂と同じように天井から鎖が幾つ

も垂れていて、先端は皮のベルトが装着されている。

また、ベッドの四隅にからも銀色に輝く鎖が伸びていて、もしも獲物を大の字に

拘束したいと思えば、簡単に希望をかなえられる仕組みとなっていた。しかし、

もっとも佑二の目を引き付けたのは部屋の左側に鎮座している、一見すると産婦

人科で使われる診療台を模した拘束具だった。

大きく股を開いた姿勢で両方の脚を固定できる器具が診療台ともっとも異なる点

は、そこに寝そべった女性の両手両足、そして腰まで縛り付ける事が可能な皮ベ

ルトの存在だ。いったん股を開き拘束された女性は身動きひとつ取れぬまま、獣

に貪り喰われて凌辱の限りを尽くされる事に成るであろう。

「どう? 気に入って、佑二? 」

「吃驚しましたよ、本当にね」

もう一度辺を見回してから少年は呆れたように溜息を漏らした。

「うふふ、ここは会員制のラブホテルなの。ほら、その手の趣味を持つ紳士淑女

 達は、欲望を発散させるのが、とっても難しいじゃない。美香の実家の土蔵の

 地下みたいな設備を個人で整えるのは難しいし、万が一にも自宅や別荘にそん

 な設備をもっていることが世間に知れたら困る立場の人は意外に多いのよ」

眩い照明を照り返して金色に鈍く光る十字架を撫でながら、舞子は目を輝かせる。

「そんな紳士や淑女たちをターゲットにしたのが、この会員制の高級ラブホテル

 って言うわけ。噂では何人かのSM好きの好色な大金持ちが手を組んで運営し

 ているらしいけれど、そんなのどうでも良い事だわ。私達にはありがたい設備

 でしょ」

「それで朱雀なんて徒名で呼ばれているのですか? 」

受け付けで小耳に挟んだ会話の謎が解けたから、佑二は満足げに頷く。

「ええ、ここを利用するお客は、それなりに社会的な地位の高い人が多いので、

 全員が本名では無くて、ニックネームで呼び合うのよ。身分に関してはカード

 が証明してくれるから問題は無いみたい」

黄金鍍金の十字架を摩りながら、舞子は欲情を隠そうともしていない。

「でも、恵里子さんに関する問題を話し合うには、些か剣呑な場所じゃありませ

 んか?」

わざと恍ける佑二を見つめる美女の目が和み、真っ赤なルージュが艶かしい唇の

端がキュっと持ち上がる。

「だって、恵里子の件なんて、佑二の頭の中でとっくに作戦は出来ているのでし

 ょ? 別に私を話し合う事なんて何にもないじゃない。それよりも、アナタと

 美香の安泰の為に、多少なりとも骨を折るのだから、前もって少しばかりの御

 褒美を貰うのは当然だわ」

これから、この特殊な部屋で繰り広げられるハズの行為への期待から、瞳を爛々

と輝かせた美女はイヤリングに続いてネックレスを外すと、次いで薄い黄色のブ

ラウスのボタンも手早く外して行く。

(やれやれ、勘の鋭い美香にバレないようにしないと、何を言われるかわからな

 いからなぁ… )

ミニスカートを降ろしたあとでパンストを丸めながら脱ぐ美女を目の前にして、

佑二も覚悟を決めた。

 

 

 


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