その7

 

 

 

 

「なんでも、します。言う事を聞きますから、もう、鞭は… 鞭だけは許してぇぇ

 ぇ… 」

「鞭は嫌いですか? 舞子さん?」

涙と涎で化粧の剥げかかった美女の顔を覗き込みながら、佑二は彼女の目の前で鞭

の先端を上下させた。

「鞭はだめ、頭がヘンになるの。これ以上、鞭打ちを続けられたら、わたし、本当

 に気が狂うかもしれない」

「へえ… それじゃ、たとえばこんな風にされたら? 」

それまでは、わざと力を込めずに刺激を与える事だけに主眼を置いて鞭を振るって

いた少年は、始めて、ほんの少しだけ強い打撃を赤く染まった肉芽に繰り出した。

「ひぃ… 」

なんども繰り返された暴虐の末の強打だったから、その衝撃は凄まじく、舞子は拘

束された診察台擬の上で裸身を大きく痙攣させた末に、そのまま悶絶してしまった。

 

 

大人二人ならば十分な広さの風呂の浴槽の縁に腰掛けた佑二の股間には、むち打ち

を喰らって魂まで痺れさせられた美女が顔を埋めている。ようやく拘束から解き放

たれた舞子は快感の余韻に酔い痴れながら、愛おしいサディストの雄物に対する口

での奉仕に勤しんでいた。

「どうだった? 鞭を使われた感想は? 」

微笑みを浮かべて問い質す年下のサディストの質問に、彼女は素直に返事をする。

「駄目です、あれは、危険すぎます。もしも、あのまま鞭打ちを続けられたら、舞

 子は本当に気が狂ってしまったかもしれません。あんな恥ずかしいところを打ち

 据えられたら、なにも考えられないのです」

経験の無い深い脳乱に見舞われた美女は、拘束された上で成された鞭打ちに本能的

な怯えを感じていた。あまりに峻烈な刺激の連続は、それが苦痛なのか快美なのか

の判断もあやふやに成り意識は散り散りに弾け飛ぶ。これまでに体験した事の無い

感覚に溺れた美女は、改めて女の性の強欲さに驚き、見知らぬ世界へ通じる扉をこ

じ開けてくれた佑二に感謝の念を抱きながら再び口での愛撫に取りかかった。

 

 

 

 

「お姉様、実はお姉様だけにお知らせしたい、とびっきりの大・大・大ニュースが

 あるんです」

待ち合わせの喫茶店に喜色満面の笑みを浮かべながら飛び込んで来た少女は、ウエ

イトレスが注文を承り席を離れるのを今や遅しと待ちかねた風情で、身体を前に倒

して小声で語りかけて来た。このところはIT企業の社長の御曹子とのデートや、

その御曹子とのもの足りぬセックスの埋め合わせた為に、土蔵の地下で美香と佑二

が繰り広げる肉遊戯に乱入したりと忙しかったことから、会いたいとの連絡を受け

ても放置しがちだった少女は、久々の舞子からの呼び出しに有頂天だ。そして案の

定、胸の中に秘密を仕舞い切れずにいるらしい。

「まあ、落ち着きなさいよ、恵里子ちゃん。お水でも飲んで、一息吐きなさい」

「でも、このお話を聞いたら、きっと舞子お姉様だって驚きますわよ」

目の前の少女にとっては仰天の新事実かも知れないが、前もって佑二から事の成り

行きを聞かされていた舞子は、息せき切って目撃談を語るレズの相手の興奮が可笑

しくて、笑いを堪えるのに苦労していた。

「あの2人、怪しいですわ。絶対になにかあると思います。だって、日曜日の昼間

 に誰も住んでいないお屋敷に、二人だけで居たなんて絶対に変ですわ」

「相手の男はどんな奴だった? 」

「それが、なんだか印象にも残らない平凡な… そうそう、デブでしたわよ。まあ

 、美香にはお似合いの冴えない男だったような気がします」

佑二の事を腐された時に舞子の眼差しに瞬間的に怒りが走るが、憎き従姉妹の秘密

を握ったことで有頂天の恵里子は気付く事なく話し続ける。

「お屋敷を出たあとの二人は、わざわざ別の方角に歩いて行ってしまいましたが、

 あれも良く考えれば偽装工作ですわ。ええ、絶対にあの二人、お屋敷の中で、う

 ふふふ… お姉様は、どう思われます? 」

「もちろん、あなたの考えている通りでしょうね。なにしろ、あのお屋敷の土蔵の

 地下にはねぇ… ほら、あんな設備が… 」

自分の意見を肯定して貰った歓びも束の間、お屋敷の中の土蔵の件をもちだされた

恵里子は怪訝そうな顔で年上の美女を見つめた。

「あの、土蔵って、なんの事ですの舞子お姉様」

「あら、恵里子は知らないの? まあ、子供に話すような事では無いわよね。でも

 美香ちゃんは知っていたに」

同じ年の従姉妹をライバル視して、なにかと食って掛かっては強烈なしっぺ返しを

喰らい続けて来た恵里子だから、彼女の知らないお屋敷の秘密を年上の舞子と美香

が共有している事実は許しがたいのであろう、それまでの上機嫌は吹き飛び、怒り

に震えて青ざめて行く。

「教えて下さいお姉様、あのお屋敷の土蔵の地下には、いったい何があるのですか? 」

「知りたい? 恵里子ちゃん? でも、あなたには、まだ早いんじゃないかしら? 」

心から愛おしく思う年上の美女から、よりによって不倶戴天の敵と見定めた美香よ

りも軽んじられたと感じた少女は身を乗り出して、つかみ掛からん風情で舞子に詰

め寄る。

「舞子お姉様、美香が知っていてワタクシには教えられない秘密って、なんの事な

 の? 二人で私を馬鹿にするなんて! ひどい! 」

気品溢れる年上の美女の前で、日頃は使い慣れぬお嬢様言葉を苦労して操っていた

恵里子だが、興奮の余り、ついつい台詞も乱雑化した。

「別に恵里子を仲間はずれにしたわけじゃ無いわよ。知っている人は知っている、

 知らない人は知らない、ただ、それだけの事なのに… 美香は知っていて、恵里

 子は知らないだけの事だわ」

敬愛してやまない年上の美女から子供扱いされたと思い込んだ恵里子の眦は吊り上

がり、ピンクのルージュで彩られた唇は屈辱の深さを現すように細かく震えている。

「いったい、あのお屋敷の土蔵に、何があるのですか? 教えて下さい、舞子お姉

 様! 」

「それが、こんな場所でお話するような事じゃ無くてよ、恵里子。もしもその気が

 あるならば、これからお屋敷に行って、自分の目で確かめるといいわ。もちろん

 私も一緒に行ってあげる。ねえ、どうする? 」

これまでの煽りの効果には確信があるが、それでも作戦の第一関門を迎えたことで

舞子は緊張を隠す為に微笑んだ。

「ええ、お姉様、ぜひお屋敷へ連れて行って下さい」

(さすが、佑二ね。会った事も無い小娘の心理なんて、あっさり読み切っちゃうん

 だもの)

黒幕の目論みがまんまとはまった事を心の中でほくそ笑みながら、舞子は素知らぬ

ふりを貫きあさはかな従姉妹を地獄の一丁目へと誘った。

 

 

 

 


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