まいった その1

 

 

 

大学から自宅のアパートに戻った良輝は忌々しげにカバンをソファに放り出すと、

冷蔵庫からオレンジジュースを取り出した。本当は冷たいビールでノドを潤したい

ところではあるが、この先に外出の予定がある若者は、やむなく健康的なジュース

で乾きを宥めている。

 

「畜生、純子の奴め、まったくムカつく女だよな! 」

 

空に成ったコップを台所の流しに置いてざっと水で濯いだ良輝は、今日の研究室で

の実験の場の事を思い出して腹を立てている。坂本良輝は今年21才に成る工学部

の大学生で、専攻したのは機械工学科の内燃機関研究室だった。昔からレーシング

カーに興味を持っていた若者は趣味の延長的な感覚で大学の門をくぐり、首尾よく

自動車のエンジン研究が主体の西崎準教授のゼミに参加する事が出来たのだ。

 

しかし、順風満帆に思えた学生生活の中で唯一の問題点は、おなじゼミに所属する

千草純子の存在だった。最近は機械工学系でも珍しくは無くなった女子学生の純子

は、黙っていればハッとするほどの美人なのだが、少しでも彼女の中身を垣間見た

友人等は、一様に純子の事を美女の皮を被ったオヤジと評している。明晰な頭脳に

冷静な判断力、そして豊かな発想の持ち主である事は万民が認める才女の純子は、

余りにも切れ過ぎる知性を生かした毒舌ぶりをゼミの中でも如何なく発揮していた。

 

半年程前に行われたゼミの歓迎コンパの席で、その楚々とした外見に惑わされた古

手の院生が露骨に彼女にモーションを掛けて、冷たくあしらわれると今度は一転し

て絡みはじめた時に、純子は無礼な院生の襟首を掴むと本気のグーで殴り飛ばした

のだ。雑然としていた酒宴が一瞬にして張り詰めた静寂に包まれる中で、純子は何

ごとも無かったかの様に微笑み、ついでに目の前にあったチューハイを美味しそう

に飲み干して見せている。

 

当時は純子の正体を知らなかった事から、先輩だった院生がしつこく絡む姿を見て

、そろそろ可哀想な女性に助け舟を出そうかと片膝付いて立ち上がる準備をしてい

た良輝は、最初は彼女の気風の良さに喝采を送ったものだ。しかし、日常的に同じ

ゼミで顔を合わせる様になると、その強情さにうんざりさせられる事に成る。別に

男尊女卑論を支持するわけでが無いが、なまじ頭が良い事から彼女の言葉はグサっ

と心に突き刺さる事が多い。

 

しかもたいていの場合は純子の言葉の方が正しい事が、良輝にとってはシャクの種

だった。内燃機関に対する学問を専門に扱うゼミを好んで選んだ良輝だから、それ

なりに書物も読み実験や研究は重ねて来たつもりである。だからこそ、間違いや思

い違いを彼女にあっさりと指摘されると、感服するよりもこんちくしょうめとの憤

りの方が大きい。もちろん、たいてい彼女の言い分の方が正しいのだが、それを素

直に認めるのが悔しくて良輝は不様を承知でへ理屈を言い返す。

 

すると純子は彼が己の非を内心で認めつつ言い返しているのを見透かした様に勝ち

誇った笑みをみせて、いつも嬉しそうに良輝の言い分を完膚なきまでに論破するの

だ。はなから勝ち目の無い言い合いで言い負かされた若者は、今日もまたまたゼミ

の研究報告の場で、純子のペシャンコにへこまされている。西崎準教授が生徒の為

に製作したV6のエンジンの図面に最適な過給器を配置するのが課題であったのだ

が、自信満々で己の素案を説明した良輝は、質疑応答の場で純子から予想外のシス

テムの欠点を指摘されていた。思いも寄らぬ点を突かれて戸惑いながらも、良輝は

プライドに掛けて彼女の指摘に反論するが、残念な事に今回もまたまた軍配は純子

の方に上げられてしまった。

 

「くそ〜〜〜、またあの女にコケにされたぜ。まったく腹が立つ! 」

 

上着を脱いでハンガーに吊るした若者は、怒りを胸中で滾らせつつ部屋のテレビに

歩み寄る。中学時代から自動車レースに興味を持った良輝は高校時代に専門書を読

みあさり、少なくとも同年代の連中よりは自動車のエンジンに関して知識を持って

いるという自信はあった。しかし、純子を前にすると、その余り根拠の無かった自

信が大いに揺らぐのだ。こうして自宅の部屋に戻り落ち着いて考えれば、彼女の言

い分に利があるのは分かるのだが、他の生徒達の前で伶俐な目で見つめられて理詰

めで追い込まれると、つい無理な反発をして、かえって墓穴を掘ってしまう事が多

かった。

 

今日も過給器の取り付け位置や方法で散々にやりこめられた若者は、得意な分野で

の惨敗に憤慨している。それだけならば、まだ救いがあるのだが、逆襲を期して今

度は順番が回って来た純子の課題の発表を食い入る様に見つめて欠点を探した若者

は、またまた痛烈な一撃を喰らっている。ターボの取り付け位置ばかりか、補器類

の納まりの良さまでも入念に考えられたレイアウトの純子の案には非の打所が見当

たらない。

 

生徒等の素案の説明をひととおり受けた準教授は、やはり純子のプランに最高点を

与えている。独創性と言う点においては、彼女よりも自分の方が面白いと評してく

れた西崎準教授の取りなしも、敗北感に打ちのめされた良輝には大した救いには成

ってはいない。なによりも得意だと思っていた分野で、生意気な女に再三に渡り煮

え湯を飲まされて来た若者は、苛立つ思いを解消する為にラックに置いてあったレ

ンタルビデオ屋の袋を取り上げる。中から1枚のディスクを取り出すと、部屋の済

にあった座椅子をテレビの前に持って来た若者は、デッキの中に借りて来てあった

アダルトDVDをセットする。

 

「畜生、純子の奴め… 」

 

彼はテレビの前に鎮座して画面に現れたAV女優を睨みつつ、ズボンのベルトを緩

めて行く。看護婦のコスプレをしたAV女優は、その面影がどことなく純子に似て

いる様におも思えたので、最近の若者にとっては定番のオカズに成っていた。常に

彼のことをせせら笑い、見下している様に思える才女に何となく雰囲気の似たAV

女優をネタにして自慰に耽るのは情けないとは思っているが、それでも今日の様に

完全にやりこめられてしまった日には、鬱憤を晴らす良い材料に成っていた。

 

『ああ… センセイ、佳子を好きにして下さい、佳子はセンセイが大好きです』

 

清純さが売りの女優だから、棒読みに近い台詞もかえって初々しく見える。それは

彼女の相手役の男優も感じているのだろう。顔色が悪い長髪の男は小道具の伊達眼

鏡と白衣があっても、ぜったいに医者には見えなが、物語の設定上は彼は医師役で

ある事から、男は看護婦に扮した佳子を抱き締めてキスをする。だが、白衣の上か

ら縄をうたれている女優は後ろ手に拘束されていて彼にしがみつく事は出来ない。

 

これは良輝の性癖なのだが、彼が借りてくるビデオはもっぱらSMの企画モノが多

い。人に語るには恥ずかしい加虐趣味を秘密裏に満足させてくれるアダルトDVD

のSMモノを、彼はこよなく愛してお世話にも成っている。中学時代に悪友から借

りたSM写真集との衝撃的な出合いが良輝をアブノーマルな性行為の世界へと導い

てくれた。

 

以来、哀れな女性に縄を掛けて、いやがるのを無視して責め苛む自分の姿を夢に見

ながら、彼は色々と妄想を膨らませている。もっとも実生活においては、彼が性癖

を赤裸々に明かす事は無い。童貞すら風俗で捨てたくらいの機械馬鹿に惚れてくれ

る奇特な女性は、まだ現れてはくれないし、もしも異性と良い間柄になっても、関

係の悪化を恐れるが余りに縛らせて欲しいなどとは到底口に出来ないだろう。若さ

故の純粋さも残す良輝は、だから寂しくアダルトビデオの力を借りて己の歪んだ欲

情を処理している。そんな日々の中で、あの忌々しい千草純子に雰囲気の似たAV

女優を見つけたものだから、最近はもっぱらこの女優のオカズに使っていた。 

 

 

 


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