その3

 

 

 

「実は、一樹が学校でいじめられているみたいなの」

「えっ! 一樹くんがいじめの被害者ですか? 」

さも意外だと驚くフリをしながらも、良文は内心ではあり得ると納得する。隣家の

憧れの美人妻の子供だから彼も一樹の事は多少は気に止めていて、マンションの廊

下やエレベーターで偶然に出会した時には、多少の邪な下心を隠して何度か朗らか

に話し掛けた事があった。しかし、人見知りが激しいらしく返事も小声で、すぐに

会話をうちきり俯く後輩のだったので、あの態度を学校でも押し通せばいじめの対

象とされる事もあるだろう。

 

(悪い奴だとは思わないけれども、ま〜、あの根暗さじゃ、そりゃ〜、いじめっ子

 の標的に成るかもねぇ… )

良文の存念も他所に、美しい若妻の相談は続いた。

「ちょっと前、そう春先くらいだったかしら? 家に戻って来た一樹のほっぺたが

 赤く晴れていたのよ。どうしたのって聞いても曖昧な答えしかしてくれなくて…

 それからは注意して、あの子の事を見ていたら、手や足に奇妙な痣を作って帰っ

 てくることもあるの」

「ああ、なるほど、それって心配ですよね。しかも、その痣が遊びの中でのアクシ

 デントのせいなのか? それともいじめられたのか? 外からじゃ中々分からな

 いですよ」

 

俯き加減で憂いを秘めた顔をして睫を揺らす人妻の色香に惑いながら、彼女の美貌

に心を奪われた良文は上の空で受け答えする。

「子供には内緒でとお願いして学校の担任の先生に聞いてみたんだけれども、『ウ

 チのクラスにイジメなんて絶対にあり得ない! 』って、逆に叱られちゃった」

「先生なんてみんな何も分かっていないですよ。僕のクラスでも女子の間で、なん

 か陰険な事をやっている連中がいますが、担任の先生は何にも気が付いていませ

 んからね。授業の準備や他の仕事がいそがしくて、生徒に関する観察や洞察なん

 ていい加減なものです」

 

自分のクラスにもいじめの影が見隠れしているから、良文の言葉には説得力がある。

「もしも一樹がいじめに合っているかもと思うと心配で… 学校の先生はアテにな

 らないし、それで中等部で余り関係は無い良文クンに、思い余って相談している

 の。自分勝手な言い種で御免なさいね」

美貌を曇らせて憂いを見せる美人妻の色香に惑い、良文は彼女のひとり息子のいじ

めの問題を解決する為にひと肌脱ぐ決意を瞬時に固めた。

 

「ちょっとだけ時間を下さい、初等部と中等部の校舎は隣り合わせで、渡り廊下で

 繋がっていますから、昼休みや放課後に初等部の方に行って見て、しばらく影か

 ら一樹くんの様子を窺ってみますよ。もしも本当にいじめられている様なら、先

 生に報告するなり、現場を押さえて注意するなり手を打ちます」

心強い少年の言葉に、若妻は喜び笑顔を取り戻す。

(やっぱり笑っている真弓子さんの方がいいや。よ〜し、真弓子さんを悩ませる苛

 めっ子を排除しないといけないな)

 

安堵の表情で微笑みを浮かべる美人妻から頼られた事を嬉しく思い、良文は隣家の

ひとり息子の救済の為に骨を折る決意を固めた。母親としての心配事が一段落した

後、真弓子は朗らかさを取り戻して、二人の会話にも弾みが付く。聞くとは無しに

彼女が旦那さんと大学時代に知り合い、そこでちょっとしたミスが発生して卒業前

に一樹を授かり、大学在学中に結婚と出産を経験した事が明かされて、良文は大い

に驚かされた。

 

(そうか、十九歳で一樹くんを産んだならば、えっと、5、6、7〜、今、真弓子

 さんは二十八歳か九歳ってワケだ。でも若く見えるなぁ… )

14才の自分から見れば遥かに年上の真弓子だが、クラスの友人達が夢中に成るア

イドル連中とは異なり、しっとりとした大人の色香を漂わせる隣家の美貌の若妻と

、こんなにも親しく話す事が出来て、少年は内心では彼女のひとり息子を虐めてい

る連中に感謝すらしていた。この素晴らしい一時を少しでも長引かせたい良文は、

美しい若妻を退屈させぬ様に自分の学校での体験に脚色と誇張を加えて面白おかし

く披露した。

 

「あはははは… そんな事があるの? ああ、おかしい」

息子のいじめの問題を隣家の少年に預けた美人妻は、いつもの朗らかさを取り戻し

て良文の馬鹿話で軽やかな笑い声を上げていた。やがて、ちらりとリビングの時計

を見た真弓子は、すこし真剣な目をして良文を見つめる。

(ちぇ、そろそろ潮時かな? 余り長居をして嫌われたら元も子も無いや)

美しい人妻の視線から気配を読んだ少年は辞意を告げる為にソファから腰を浮かせ

る。

「あの、長い間お邪魔しました。一樹くんの事は任せて下さい。それじゃ、そろそ

 ろ… 」

「えっ? 帰っちゃうの? 駄目駄目、まだ駄目よ」

 

立ち上がろうとした少年の手を真弓子は捕まえると、再びソフェに腰掛ける様に本

気で促した。初めて美人妻の手が自分に触れた事から、良文はそれだけで頭にカッ

と血が昇った事を実感した。

(ヤバイ、顔が赤く成っているんじゃないか? 恰好悪いぞ! )

暇乞いするつもりが強引にソファに連れ戻されて、顔を赤らめながら少年は当惑を

深める。しかし、そんなのは序の口で、真弓子は彼の傍らに歩み寄ると、親しげに

ソファの隣に座り込んだ。少しだけ体重を預けて来た美人妻の行動に驚き、良文は

言葉を発する事さえ出来ない。憧れの人妻を傍らに侍らせた事からガチガチに緊張

した少年が面白いのか? 満面に笑みをたたえた真弓子がジッと良文を見つめる。

 

「ねえ、良文クン。彼女なんているのかな? 頭の良いキミだから、憧れている女

 の子はいっぱいいるものね」

「いえ、そんな、まさか… 彼女なんていません。これまで女の子と一対一で付き

 合った事なんか、まったく無いです」

香しい吐息が頬をくすぐる距離で話し掛けられた少年は、まさかの展開に面喰らい

混乱の極地にいる。憧れて止まない隣家の美貌の人妻の部屋に押し掛けて、こんな

に近いところで会話をする事に成るとは、まったく想定外の状況なのだ。少し気の

利いた若者であれば、露骨な人妻の誘惑に嬉々として応じて、もう彼女を押し倒し

ているだろう。しかし、経験絶無のチェリー・ボーイの悲しさで、良文は身じろぎ

する事も出来ずに固まっている。

 

「ホント? こんなに可愛いのに、ホントウに彼女はいないの? キミのまわりの

 女の子達って全然見る目が無いようね」

耳もとで可愛いと囁かれた事で興奮が頂点に達した少年は、顔を真っ赤にして縦に

何度も首を振る。するといきなり視界いっぱいに真弓子の美しい顔が広がり、次に

唇になにかとてつもなく柔らかなモノが触れたのだ。

(えっ、ちゅ〜〜〜? 僕、キスしているのか? )

いきなり唇を塞がれて呼吸が困難に成ったが、それでも良文は何も考える事が出来

ず、ソファの上で身を固くするばかりだ。無限に感じられたが、実はほんの一瞬の

出来事の後に真弓子は隣家の少年から静かに離れた。

 

 

 

 


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