その12

 

 

 

「こんにちわ、お邪魔します」

「いらっしゃいませ」

予定の時間通りに自宅に現れた真利江と玄関で挨拶を交わした佐和子は、隣家の人妻

とまともに目をあわせる事が出来ずに俯いた。

「お義父さまは奥の間でお待ちかねです」

佐和子を愛人と化した武市は、もう彼女の憚る事も無くもうひとりの古くからの愛人

である隣家の人妻を堂々と呼び寄せていた。彼女との会話が何となく気が引ける佐和

子だから、挨拶を済ませると目を伏せて真利江が立ち去るのを黙って待っていた。し

かし彼女は立ち止まり、深々と頭を下げたのだ。

 

「ごめんなさいね、私のせいで、あなたまで巻き込んでしまって。お詫びのしようも

 無いわ、ただ、ごめんなさいって、謝る事しか出来ない」

意外な台詞を耳にして顔を上げた佐和子は目を丸くする。

「私と御隠居さんが、こんな関係になっていなければ、あなたも無事だったかと思う

 と、ほんとうに申し訳なくて… 」

舅と自分の関係に真利江が責任を感じていることを知り、佐和子は面喰らった。言わ

れて見れば事の発端は確かに彼女が真利江と舅の関係に気付いた事だったが、それか

ら後の成り行きは佐和子の自業自得であり、その責任を隣家の人妻に押し付けるのは

、それこそ理不尽と言うものだ。

 

「いえ、あの、どうか気にしないで下さい。たとえ、真利江さんとの事が無くても、

 いずれあの調子ならば私も… 」

頬を赤らめながら佐和子は首を横に振る。凌辱者の息子の嫁が、自分に怒りを抱いて

いない事に安堵したのか? 真利江は深く安堵の溜息を吐く。

「主人が不能なんです」

「えっ? あっ、あの… 」

いきなり話題が切り替わった事に付いて行けず、佐和子は当惑した。

「もう御存じでしょうが、私の処女は御隠居さまに奪われました」

「はあ… 」

またまた話が飛んだから、佐和子の当惑は深まるばかりだ。

 

「まだ高校生の頃に、両親が町内会の旅行で家を一晩空けたことがあったの。御隠居

 さんは都合が合って旅行に行かなかったから、ウチの両親は御隠居さんに私の事を

 頼んで嬉しそうに旅行に出掛けたのよ。その夜… 」

過去の出来頃を思い出す様に顔を上げて目を細めた真利江は昔語りを続ける。

「日本酒の一升瓶をぶら下げた御隠居が夜に訪ねてみえたのよ。子供の頃からの顔見

 知りだし、両親からも何かあったら御隠居さんに相談するように言われていたから

 、無警戒で家に上がってもらったの」

今の佐和子には、好々爺とした舅が悪だくみを胸に秘めて隣家に押し掛ける姿は容易

に想像が付く。

 

「正直言って、ひとりで一晩、家で過ごすのは初めてだったので、とっても心細かっ

 たから御隠居様、あの頃はまだ武市さんて呼んでいたけれど… 彼が来てくれた時

 には嬉しかった。だから勧められるままに生まれて初めて日本酒を飲んで酔っぱら

 っても、不安なんて全然無かったの」

迂闊な昔の自分を思い出して真利江は苦笑いを浮かべた。

「気が付いたら裸で布団に寝かされていて、股の間には御隠居さまが顔を突っ込まれ

 ていたわ。でも私はひどく酔っていたもので、なにも出来ぬまま強引に女にされた

 のよ」

頬を赤らめ目を伏せて真利江は溜息を漏らした。

 

「なにしろ、最初がアレでしょう? その上、御隠居さまは絶倫で、処女を奪われた

 次の日から、毎日あの大きなので犯されたのよ。学校の帰りに自分の家では無くて

 、このお屋敷に寄って制服のまま犯された毎日だった。他を知らずに御隠居様だけ

 を相手にして来たから男の持ち物はみんなあんなに大きいと思い込んでしまったの

 よ。だから、後に成って恋人が出来て抱かれた時には、その貧相さに驚いちゃった

 。気持ちはどんなに彼氏が好きでも、もう御隠居じゃ無きゃ満足できない身体にさ

 れちゃったのよねぇ… 」

 

俯き自嘲の笑みを浮かべる真利江の言葉に、多少の共感を覚えて佐和子は震え上がる

。ここ数日だけの肉の交わりなのに、彼女も舅とのセックスに溺れつつあるのだから

、十年以上も武市の愛人を務めてくれば、もう他の生半可な牡の一物では満足を得ら

れるとは思えない。

「こんな私でも是非にって望んでくれたのが今の主人なんだけれど、もともとセック

 スは弱かった彼は、最近役場での役職も上がって仕事のプレッシャーが大きく成っ

 たせいなのか、ここ1年くらいは不能なのよ」

なんと反応して良いのか困った佐和子を、隣家の人妻はじっと見つめる。

 

「だから、あなたを巻き込んでしまった事は申し訳ないけれど、私には御隠居様が必

 要なの。御隠居様と別れるなんて考えられない、おねがい佐和子さん、私と御隠居

 様の関係には目を瞑ってちょうだい」

迫力に満ちた隣家の人妻の懇願だったから、佐和子は思わず首を縦に振り同意を示す。

「ああ、よかった… ありがとう佐和子さん。それじゃ、余り待たせると御隠居様の

 御機嫌を損なうから、もう行くわね」

呆気に取られる佐和子を残して、真利江はいそいそと小走りで廊下を駆けて行った。

 

(なによ、あれ? あんなに嬉しそうにはしゃがなくてもいいじゃない)

憂いが払拭された隣家の人妻の変わり身の早さに呆れながら、佐和子はセーラー服姿

の真利江が、今よりも若く脂ぎっていたであろう舅の計略にはまり、無理矢理に女に

された光景を想像して思わず生唾を呑み込んだ。彼女は夫の武彦と出会う前に少数で

はあるが男性経験があった。そんな佐和子ですら、最初に舅の巨根を相手にした時に

は女陰が裂けるのでは無いかと危惧したものだ。

 

その魁偉な雄物で処女を散らされた真利江の不運に、彼女は心から同情するが、破瓜

以降10年も、あの狂おしい快美を味わって来た隣家の人妻にたいする憧憬の念も強

い。真利江と同じく自分も夫を持つ身でありながら、それでも自分よりも遥かに長く

舅に馴染んで来た隣家の人妻に対して、この時に初めて佐和子は強い嫉妬の念を抱い

ていた。

 

 


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