「ふぁぁぁぁぁぁ… さすがに少しハードだったかな? 」 昨夜、多少の時間差はあったが二人の若妻との情交を楽しんだ正信は、ひとつ欠伸を しながら階下に通じる階段を降りて行く。最後の相手と成った沙苗は戒めを解かれる とすぐに昏睡して、まだベッドの上で昏々と眠ったまま起きる気配はなかった。満足 のゆくまで淫媚な性行為を楽しみエネルギーを消耗した若者は空腹に耐えかた事から 、洗面所に足を向けると顔を洗い、備え付けの使い捨ての髭剃りを拝借して髭を剃り 、手早く身支度を整えてから勇んでエキストラ・ルームを後にする。 「えっと、午前10時か? まいったな、朝メシはとっくに終わっているだろうし、 昼飯には、まだちょっと早いか、なにか腹に入れるモノがあれば良いけれど… 」 昨晩、夕食を振舞われた広間に足を踏み入れた若者は、自分の心配が杞憂に終わった ことを知る。テーブルの上には色々な具材のサンドウィッチが大量に用意されていた のだ。 「こいつはありがたい! うう、腹ペコだからな」 部屋の隅のカウンターに置かれたコーヒーメーカーから、芳醇な珈琲の香りが漂い空 きっ腹を余計に刺激する中で、正信は浮き浮きとテーブルに駆け寄った。用意してあ ったフィンガーボールの手洗いの水も無視して、両手で2つのサンドイッチを取った 正信は、お行儀悪くも立ったままで、右手のハムチーズサンドにかぶりつく。
「くぅ〜〜〜、うまい! おいしい! 最高だ」 夫婦交換パーティに参加しているのだから、建前上は彼も妻を持つ身であるのだが、 昨晩思いきり体内の備蓄燃料を消費したことで飢えていた若者は、人気の無い広間と 言うこともあり油断して地を曝け出していた。立て続けて3つのサンドイッチを平ら げた正信は、ようやく人心地ついた様子で、次はどの種類の具材を食べようかと大皿 を慎重に吟味する。 「うん、ハムチーズサンドも良いが、玉子レタスサンドも美味しかった、チキンサン ドも捨て難いし… あっ、向うの皿にはホットドックも有るのか、こりゃ、悩みと ころだ」 「サンドウイッチだけでは無く、あちらのテーブルにはサラダもあるし、スクランブ ルエッグとウインナーも用意しておいたよ」 「いや、スクランブルエッグも好物だけれども、ここのサンドイッチは絶品だから、 まずはサンドウィッチから攻めて… 」 自分ひとりしかいないと信じていた大広間で、何故か会話が成立したことに気付いた 正信は仰天して、声の主の方を振り返る。 「やあ、沢山くん、いや、本当は横田くんだったかな? 」 このパーティの主催者である緒方が、湯気の立ちのぼるコーヒーカップを差し出しな がら正信の本名で呼び掛けて来た。
「あの、その、もう御存じなんですね? 」 偽名でパーティにもぐり込んだ後ろめたさもあり、正信は頭を掻いて苦笑いを浮かべ た。 「ああ、なにしろ、このパーティの主催者だから、君と美紗子さんの紹介者である滝 川真弓子さんから、私だけは本当の事情を知らされているのさ」 若者にコーヒーカップを手渡した緒方は、物静かに成り行きを説明した。 「それにしても、大したものだ。入会早々に2人の人妻を手玉にとるとはね… いや 、誤解しないでくれたまえ、掛け値無しで感心しているし面白く思っているんだよ」 手渡された熱いコーヒーを口にする正信を前に、初老の男は穏やかな笑みを浮かべた。 「すみません、新参者のくせに舞い上がって、調子に乗ってしまいました」 謙虚に詫びる若者が好ましいのか? 緒方は大袈裟に両手を胸の前に持ち上げて掌を 見せて左右に振る。 「いやいや、本当にタフな新人さんを迎えることが出来て喜んでいるのさ。どんなに 刺激的な会でも、どうしてもマンネリに落ち込むから新人さんは大歓迎なのだが、 だからと言って、誰でもかまわずに会員にすれば秘密を守るのが難しくなる」 緒方は振り返ると今度は自分の為に、もう一度カウンターに赴きコーヒーメーカーへ と手を延ばす。
「だから基本的に我々の会は、現在の会員からの紹介者だけしか新規のメンバーを入 れないようにしているのさ。今日、参加しているのは上手く日程が合った6組に君 と美紗子さんを加えた7組だが、今回は来られなかったのは、あと1組だけで、全 部合わせても8組と言う、きわめて閉鎖的で小さなサークルなんだ」 コーヒーの香を楽しみながら、緒方は親切にスワップ・サークルのことを説明してく れた。 「あの、ちょっと気掛かりなことがあるのですが… 」 「なんだい? よい機会だから何でも聞いてくれたまえ」 食べかけのハムチーズサンドを持ったまま、正信はこれまで不審に思っていたことを 問い質す。 「あの、こんなに楽しいサークルなのに、参加費用も、入会金、年会費も無いって、 どう言うことなんでしょうか? ぜんぶタダで、こんな立派な別荘にお招き下さり 、しかも昨晩の夕食も豪華でした。今朝は今朝で勝手に降りて来てしまい、こんな 風にバクバクとサンドウィッチを平らげておいて言うのも何なのですが… 」 余りにも美味しすぎる話なので、つい何かとんでもない裏があるのでは無いかと勘繰 った若者を、緒方は微笑みながら見つめた。 「ああ、そんな事かい? 実は、この別荘も私の持ち物だし、サークルの主催者とス ポンサーを兼任しているのさ」 緒方は自分で入れたコーヒーを口にしてから説明を続ける。
「そもそも、このスワップ・サークルは、私の妻の提案で設立されたんだ。年甲斐も 無く若い女房をもらったのだが、この妻は思った以上に発展家で、女子大に通って いた頃には合コン・サークルを主催して、あちらこちらの有名大学の男子学生たち と学園生活を目一杯にエンジョイしていたそうなんだ」 驚くような話を平気な顔で訥々と語る緒方の顔を、若者は呆気に取られて見つめてい た。 「恥ずかしながら私のひと目惚れで一回り以上も若い妻を口説き落としたのだが、年 齢差は如何ともし難く、自由奔放な妻を完全に満足させることは到底、無理だった 。そんな時に、妻の方から、かつて自分が主催していた合コン・サークルのメンバ ーの中で、すでに結婚していて、しかも秘密を守れる者達だけを集めて、夫婦交換 を楽しむ企画を持ち出されたのさ」 穏やかに微笑みながら、緒方はコーヒーカップに口を付ける。 「最初は戸惑いもあったけれども、私も生来の好き者だから、すぐに楽しむ事が出来 るように成った。これでもソコソコな資産家だから、この程度の会の運営費用など気 にはならない。なにより今では妻よりも私の方が、このサークルの運営に生き甲斐す ら感じている始末だからね」
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