その53

 

 

 

 

「ああ、もう、たまんない、こんなの初めて、きゃぁぁぁぁぁ… 」

あまりわざとらしく騒ぐのも白々しいとは思ったが、こんの風に無理に喘いでいる

うちに、なんだか本当に気持ち良く成って来るから不思議なものだ。一方、妻とは

異なる嬌声を耳にした和人の興奮も膨れ上がり、後先のことを考える余裕も無くし

た隣家の旦那は、ぐいぐいと腰を前後させて若妻の爛れた蜜壷の感触を楽しんだ。

「あぅ、もう、イキそうよ、ねえ、だめ、ひゃぁぁぁぁ… 」

芝居と言っても何も知らぬ隣家の御主人を誘惑して、こうやって自分の家の寝室に

連れ込み尻を捧げている状況が、意外に早く真弓子を追い込んで行く。そんな美人

妻の媚態を目の当たりにしたのに加えて、締め付けを増した肉壷の感触に溺れた和

人は、ついに自分が早くも限界に達したことを悟る。

「おっ、おくさん! もう… 」

「ええ、いいわ、そのまま、中で、中でいってぇぇぇぇぇ… あひぃぃぃ… 」

拙い技術やもの足りぬ一物なのは興奮を呼ぶ状況設定が補ったので、真弓子はかろ

うじて和人の射精と共に軽いアクメに到達する。

 

 

「よし、今だ! それじゃ、ちょいと行ってくるぜ。後の事は段取り通りって事で

 いいな」

助手席の正信と後部座席の美紗子が笑顔で頷くのを確認した後、滝川は運転席のド

アを開き、勇躍、ワンボックス・カーを後にした。

「さて、ここからは滝川さんの旦那さんの腕の見せ所だな」

楽天的な正信に対して、美紗子はまだ安心はしていない。

「うまくやってくれると良いけれど… 」

車に残った2人の心配を他所に、義雄は浮き浮きしながらエレベーターに飛び乗っ

た。

 

 

わざと、がちゃがちゃと大きな音を立てて玄関の扉を開けた義雄は、大股で真直ぐ

に寝室を目指す。

「お〜い、真弓子、だめだ! ぜんぜん釣れないから、夜釣りは止めて帰ってきら

 ぞ。腹が減ったから、ちょいと軽くメシでも… 」

ノックも無しに寝室のドアを開けた義雄の目に飛び込んできたのは、驚愕の表情の

ままベットで固まる和人と、その脇で、隣家の亭主に気付かれぬように微笑みウイ

ンクする真弓子の姿だった。

「なんだ! てめえ! この野郎! 」

余りの面白さに、思わず大笑いしそうに成るのを堪えるために、精一杯の恐い顔で

怒鳴る義雄の迫力に怯えて、和人はぶるぶる震え上がる。

 

 

「するって〜と、何だ? お前さんは、俺の女房の方が、あんたを誘惑したって、

 言い張るのか? 」

着衣を身に付けた後にベッドルームに真弓子を残して場所をリビングに移した和人

は、目の前で睨む隣家の亭主に対して、しどろもどろになりながらも懸命に状況を

説明した。

「だが、女房の方は、お前の奥さんに頼まれて夕食を振る舞ったら、無理に酒を飲

 まされて、そのまま寝室に連れ込まれて強姦されたって言っているぞ」

「そんな… 違います、強姦だなんて! 」

余りにも理不尽な言い掛かりだから、和人は顔を真っ青にして反論した。

「それじぁ、ナニか? お前は、俺の家の寝室でまっ裸になって、女房と乳くりあ

 っていたのに、それは全部、真弓子のせいだって言うつもりなんだな! 」

ここまでは事前に正信と美紗子が描いたシナリオ通りに物語りが進んでいたから、

義雄は戸惑うこともなく強面で演技を続けていた。

「いや、あの、その、奥様との件は申し訳ありません、でも、強姦だなんて、そん

 な… 」

たとえどんなに理路整然と申し開きを述べようとも、元々、和人を陥れるための策

略なのだから、義雄は聞く耳を持つはずはない。しかも、土壇場に弱い隣家の旦那

は、釈明に関してもしどろもどろと成り、外で盗聴器を通じて状況を把握していた

正信は、自分達が仕掛けた謀略なのに気の毒でしょうがなかった。

 

「なあ、沢山さんよぅ、どっちが誘ったのか? それとも無理矢理に手篭めにした

 のか? そんなことは、もうどうだって良いさ。それが分かったからと言って、

 お前と俺の女房が、よりによって俺の家の寝室で寝ていた事実は動かない」

あらかじめ何度も正信相手にリハーサルを重ねて来た義雄だから、その言葉には澱

みも逡巡も無く、驚くほどにスラスラと芝居の台詞が流れ出す。

「それに、お前が噴いた精液は、もう女房のマンコに流れ込んじまったからな。あ

 んた、射精したザーメンを、もう一度、金玉袋の戻せるとでも言うのか? そん

 なこと、出来っこ無いよな? 」

無理難題を吹っかける義雄の厳つい顔を、和人はまともに見る事が出来ず俯いた。

「もうしわけありません、その… こんなつもりじゃ、無かったんです。本当に出

 来心なんです。どうか、赦して下さい」

リビングのソファに浅く腰掛けていた和人は、ガバっと上体を伏せてガラスのテー

ブルに両手を付くと深々と頭を下げた。余り追い詰めるのもナンだから、ここいら

が潮時と睨んだ義雄は、いよいよ隣家の気の毒な夫に本題を切り出した。

 

「悪いと思うなら、誠意を見せろよ! わかるだろう? 誠意だ! 」

「あの、お金ならば、今はそんなにありませんが、明日、銀行が開けば… 」

事前の計画通でも、誠意を要求すればお金に話題が及ぶと察していたから、義雄は

内心にニンマリしながら表情だけを無理に強張らせた。

「金? 金だと? お前、このおとしまえを金で付けるって言うのか? お前は俺

 の女房を金で買ったとでも言う気か? この野郎、ふざけるな! 」

激高を装おう義雄の芝居を真に受けて、和人は震え上がった。

「でも、お金じゃなければ、どうやって、おとしまえをつければ良いのでしょうか? 」

「おとしまえってヤツは、金になら金、物になら物、それじゃ、女房なら… 分か

 るだろう? 」

鈍い和人は義雄の簡単なナゾ掛けの答えがわからず、困惑の表情を浮かべて俯く。

「わかんねえ野郎だな、女房なら、女房ってことだよ。お前は俺の女房を寝取った

 、そのおとしまえとして、今度は俺にお前の女房と犯らせろよ」

「えええええ! いや、そんなの無理ですよ、絶対に無理です」

余りに飛躍した話だから、男と女の間の事に関してはボンクラな和人も即座に否定

する。

「だいたい、何と言って妻を説得しろって、おっしゃるんですか? 」

「まあ、そうだな。『なあ、お前、ちょいと隣の旦那と寝てくれよ、実は隣の奥さ

 んとセックスしているところを旦那に見つけられちゃってさ。そのおとしまえを

 付けるために、お前を差し出す約束をしなんだ』、なんて言ったら。普通は即座

 に離婚ものだな」

話の流れは今の所は理想的なので、義雄の舌もなめらかだ。

 

 

 

 

 


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