その8

 

 

 

「私に勝ったらって… それじや智也には一生、告白するチャンスは無いじゃん」

真直ぐな反撃にとまどい、思わず美樹子は茶々を入れる。

「ええ、その通りです、だから諦めました」

またもや思わぬ台詞を耳にして、美樹子は大いに焦り慌てる。

「まて、ちょっと、まて、そんなに簡単に諦めてどうする? 確かに難しい勝負だ

 けれども、絶対に勝てないなんて事はない、それに、そうと分かっていれば、私

 だって、ちゃんと手加減だってするし、負けるし、だから、諦めるなんて、短絡

 だ! 短慮だ! 無分別だ! 軟弱だ! 」

彼の言葉を取り違えて、しどろもどろに成る年上の美女を、智也は嬉しそうに見つ

めた。

「違いますよ、勝った上で告白するのを諦めたんです。勝たなくても、こうやって

 、コクってしまおうと思ったんですよ、美樹子先輩」

先に告白されたのが少し悔しい智也は、顔を真っ赤にさせて睨む美女を抱き寄せる

と、今度は智也の方からキスを仕掛けた。そして、お互いに舌を絡め合う濃密なキ

スの最中に、智也は彼女の右手の手首を捕まえると、己の強張った股間に誘導した。

「ほら、先輩の事を思うと、ここも、こんなに成っています」

熱烈なキスの後で智也が微笑みながら、ふしだらな台詞を吐く。

「お前、おもっていたより、Hだな? 智也」

「あれ? 先輩はどうなんですか? 」

耳もとで囁く智也の問いかけに応えて、美樹子は右手で捉まえた彼の股間の強張り

を優しく揉みほぐす。

「私もHだぞ、覚悟しろよ智也」

「望む所です、美樹子さん」

再び触れるようなキスを何度か繰り返した後に、美樹子は新たに恋人となった若者

の腕の中からスルリとすり抜けた。どうしたのかと訝る智也の前で、彼女はゆっく

りと着衣を脱いで行く。

 

「言っておくけれど、私、処女じゃ無いからね」

「それは良かった。俺は童貞ですから、ちゃんと導いてください」

あっさりと自分が童貞であることを認め、さらさら恥じる様子も見せぬ若者を目の

前にして、美樹子は驚きたじろいだ。

「いや、導けって言われると、ちょっと… 」

「あれ、だって処女じゃ無いってことは経験があるんですよね? それならばリー

 ドするのは難しくないでしょ? 」

男との経験があると啖呵を切った美樹子だが、いつもの彼女とは違って何か妙に歯

切れが悪い。

「あのね、たしかに経験はあると言えばあるのだけれども、相手はたったのひとり

 で、しかもセックスしたのも1回だけ… いや、正確には0.5回、まってね、0

 .3回かしら?」

奇妙な美女の言い種に、相対する智也も首を傾げた。

「0.3とか0.5回とか、イマイチ意味不明なんですが… 」

若者の疑問も道理だから、美樹子は自分の処女喪失の時の状況を語る羽目に陥った。

「あのね、相手は高校時代に憧れていた先輩で、やっぱりアタシの方からコクった

 ら上手く行って、それで成る様に成ったんだけれど… 」

真っ赤な顔で過去を語る美樹子が可愛くて、智也は思わず微笑んだ。

「でも、いざ、ベッドでって時に成って、その、えっと、ナニがナニにナニした時

に… 」

言葉が段々と意味不明に成って来たから、思わず智也は自分の推測を語った。

「それって、先輩の膣に相手の男のペニスが入ってきた時ってことですよね? 」

これまた赤裸々すぎる問いかけに対して、美樹子は無言で頷く。

「先輩が、あの… オチンチンを入れて来たときに、あんまり痛くて、それで、ち

ょっと待てって言ったのに、先輩はやめてくれなくて、それで… 」

そこまで語った美樹子は俯いてしまい言葉が途切れた。

 

「それで、その後はどう成ったのですか? 」

痺れを切らした智也が問うと、年上の格闘技オタクの美女は観念して口を開く。

「いたい、やめろって言っても、やめてくれなかったから、その… つい反射的に

 肘撃ちしちゃったの」

「つまり美樹子先輩は、初体験の最中に相手の男にエルボーを喰らわせてしまった

 のですか? ふ〜〜〜。そりゃあ、悲惨だ! 」

呆れた智也がひとつ大きく溜息を漏らすから、美樹子は慌てて顔を上げる。

「だって、あの馬鹿野郎ったら、すごく乱暴な上に焦りやがって、抱き着いて来て

 押し倒したら、すぐに突っ込もうとしたんだモン! こっちの都合なんて、全然

 考えてくれない阿呆だったんだよ」

無惨な処女喪失(?)の体験を吐露した美樹子は、恨めしそうに智也を睨む。

「それで、その憧れの先輩の何処に肘を喰らわせたんですか? 胸板? 二の腕? 」

「えっと、その… 顔、向かって左の頬」

プロの格闘家達の間で行なわれる総合格闘技においても、まかり間違うと命に関わ

る怪我を負う可能性が高いことから顔面に対する肘撃ちを禁じている団体もあるく

らいなのに、これからHしようと挑み掛かった女の子から、痛烈な一撃を喰らった

ら、おそらく一生のトラウマになるだろうと、智也はつくづく相手の男に同情した。

 

「あっ、ねえ、引いた? お願い、引かないで。智也には絶対、そんなことしない

 って約束するから、どんなに痛くても、耐えるから、おねがい、そんな顔しない

 でよ」

慌てふためく年上の美女の前で智也は腕を組み、わざとらしく考える仕種をする。

「とりあえず、試してみましょうか? ねえ、美樹子先輩」

「うん、そうしよう」

どうにか智也の気持ちを繋ぎ止めたと信じた美樹子は、彼の気が変わらぬうちにと

、急いで服を脱いで行く。また、智也の方も、彼女から滑稽な処女喪失の打ち明け

話を聞かされたことで、童貞にも関わらず自分でも訝るほどに落ち着いていた。潔

くショーツまで脱ぎ捨てて、若者の脱衣を待っていた美樹子のことを、彼は再び抱

き寄せた。熱烈なキスの後で、彼女かた少し離れた智也は、床に落ちていた一枚の

タオルを拾い上げる。

「さあ、美樹子さん、後ろを向いて、両手を背中で交差させて下さい」

「えっ、なに? なんなの、智也? 」

彼に促されるまま背を向けた美女の手首に、拾ったタオルを巻き付けた智也は、あ

れよあれよと言う間に後ろ手に縛り上げてしまう。

 

「これで、間違ってもセックスの最中に肘打を喰らうことは無くなりました」

両手を背中で交差する形で拘束されたことで、少し胸を張った美樹子は、初めて少

し怯えたような顔を見せる。

 

 

 

 


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