その14

 

 

 

 

こんな異物の蠢きに慣れていない美樹子は奥歯を噛み締めて、情けない声が漏れる

ことを防いでいるが、のべつまく無しに下っ腹に力を入れていられるはずも無い。

微振動に慣れて感覚が鈍化した頃合を見計らい、智也は絶妙なタイミングで振動を

強くさせるのだ。しかも、一気に強く震わせるのでは無く、あれ? と、思う間に

徐々に蠢きが力強さを増して行き、このままでは突っ伏して声を張り上げてしまう

と観念する一歩手前で責めを緩める智也のテクニックが、美しい年上の恋人を生殺

しにしている。

「智也、もう、だめ… このままじゃ… 」

蜜壷の中で暴れ回っていた桃色の大人の玩具が、ほんの少しの間、その動きを止め

たところを見計らい、美樹子は隣席でコントローラーを操る若者の方に身を傾け、

彼の耳もとで泣き言を漏らす。

しかし智也は返事をする変わりに、振動を徐々に強めて行くから、もう美樹子はた

まらない。彼の太股に置いた右手を握り締め、なんとか艶っぽい悲鳴を噛み殺す美

女の懊悩ぶりが嬉しくて、智也は講議もそっちのけで掌の中に掴んだコントローラ

ーを操った。

授業中に、こんな桃色遊戯に耽っていることがバレたら大騒ぎになるのは分かって

いるが、それでも智也は額に脂汗を滲ませ苦悶の表情を見せる美樹子に対して、加

虐心を揺さぶられていた。そして、度を過ぎた悪ふざけがピークに達した時に、彼

等に思わぬ言葉が投げかけられた。

「あの… 大丈夫ですか? なんだか、とても具合が悪いように見えますが… 」

頬を赤く染めて目も虚ろな美樹子に向かって、智也とは反対側の隣に腰掛けていた

女子学生が心配そうな顔で問いかけて来たのだ。

 

(やっ、やばい! やりすぎた! )

確かに智也の目から見ても美樹子は尋常では無いように見える。暖房は効いている

にせよ彼女の額には脂汗が光り、心無しか呼吸も荒い。咽の奥から沸き上がる嬌声

を堪える為に顔を真っ赤にして奥歯を噛み締めた美女の事を不審の思った女学生の

言葉が、悪戯の過ぎた智也を慌てさせた。

「あっ、ありがとう、ちょっと、風邪気味なの、でも、大丈夫だから」

親切な女学生の問い掛けが行なわれてすぐに、智也はピンクローターのスイッチを

切ったから、ようやく心の平穏を取り戻した美樹子は笑顔で応じて、この不審な状

況を取り繕った。それならば… と、隣の学生さんが再び教科書の目を戻した後に

、美樹子は怒りを込めて智也の向こう脛を蹴っ飛ばす。

だが、長時間に及ぶローター責めの結果、すっかりと脚が萎えていた美樹子の蹴り

は、彼女が思う百分の一程度の打撃力しか発揮せず、隣の智也は涼しい顔で受け流

してしまった。さすがに事の露見を危惧した智也は、これ以上のお楽しみは身の破

滅だと感じたのか? 彼女の蜜壷に納められたピンクローターは鳴りを潜めた。ほ

っと一息吐いた美樹子は親切な隣席の女子に微笑み会釈してから、余り興味は無い

1年生の授業をボンヤリと聞き続けた。

(あと5分で授業も終わりだ… 智也の奴め、終わったら、どうしてくれようか? )

生まれて初めてピンクローターを膣の中に押し込められたまま授業を受けた美樹子

は、隣で涼し気な顔で講議を拝聴している若者を横目で睨んだ。その時… 

 

(あっ! ばか、この、またかよ! くぅぅぅぅ… )

授業時間も残り5分となったところで、ふたたび彼女の膣の中の小さな暴れん坊が

にわかに目を覚ましたのだ。しかも、今回は微振動は一気に通り越して、ほぼ最強

に近い揺れで蜜壷をかき混ぜるから美樹子はたまらない。目一杯に見開いた目を血

走らせた美女は思わず隣の智也にしがみついた。このままでは彼女の異変に周囲が

気付くかも知れないと思われた矢先に、教壇の講師がパタリと自分の教科書を閉じ

た。

「は〜い、それでは新年最初の授業はここまで、来週は近代文学史の2章の1から

 続きを講議します」

静寂さを保っていた教室が、講議の終了と共に一気にざわめくから、誰も美樹子の

異変に気付く者はいなかった。

「はい、おつかれさまでした」

ようやくスイッチがオフに成り、あれほどまでに美樹子を悩ませていた振動が消え

たことから、彼女は智也にしがみついたまま、ゆっくりと呼吸を整えて行く。親切

な隣席の女子学生が心配そうな顔のまま離れて行が、美樹子は作り笑いを浮かべて

会釈するより他に手立てが無い。

断続的であったと言っても90分にも及ぶピンクローターでの弄虐は彼女の下半身

を痺れさせていて、授業が終わってすぐには立ち上がる事も困難なのだ。さすがに

やりすぎを感じたのか? 鬼畜な愛人は彼女の呼吸が整うまでローターのスイッチ

をオフにしている。やがて教室から二人を除く全員の生徒が姿を消すが、それでも

美樹子はまだ彼にしがみついていなければ倒れてしまいそうに昂っている。

幸いなことに、次の講議では、この教室は使われない様であり、入れ代わりに新し

い生徒が入ってくる様子は見えない。さらに5分ほど智也に掴まり、時折、悩まし

い吐息と共に躯をぶるっと震わせた美樹子は、ようやく己を取り戻すと彼を睨んだ。

 

「あんた! 次の講議はあるの? あってもサボりなさい! 」

智也の返事も待たず、彼女は隣の若者を支えにして苦労しながら立ち上がる。

「あの? えっと… 何処に行くのですか? 」

「決まっているでしょ! 部室よ」

行き先を告げた美女の剣幕に恐れを成した智也は、調子に乗り過ぎた自分の迂闊さ

を悔いながら、彼女と共に教室を後にした。

「美樹子さん、あの… 3時限目の講議は無いのですか? 」

「さぼる! 誰かさんの悪戯のせいで、このままじゃ、講議を受けても単語のひと

 つも頭に入ってこないもん」

萎えた脚が復活したのか? 智也から身を離した美女は、今度は彼の手をしっかり

と握り率先して廊下を歩いて行く。幸いなことに空手部関係の顔見知りに合うこと

は無かったから、二人は教室がある3号館を出ると誰に呼び止められることも無く

運動部の部室がある6号館へ辿り着く。

新設の大学だったので一応は鉄筋コンクリート3階建ての部室棟だが、流石に昼前

と言うこともあり人の気配はほとんど無い。一部の不心得な学生達が溜まり場して

いた時期もあるが、周囲を体育会系の野蛮な奴らに囲まれる状況に辟易とした様で

、今ではそんな輩も姿を消していた。美樹子は黙したまま彼の手を引き2階の廊下

の突き当たりにあてがわれた空手部の部室の前に辿り着く。

「ほれ、鍵よ」

「あっ、はい」

不機嫌な美女から鍵を手渡された智也は、事がここに至った以上、逃げ隠れは出来

ぬと観念して部室の扉の施錠を解いた。彼女に背中を押されて部屋に入ると、窓も

カーテンも閉め切られた8帖ほどの大きさの部室の中の空気は澱み、饐えた臭いが

智也の鼻を突いた。考えて見れば、冬休みの前に、部員一同でおざなりな大掃除を

して以来、この部屋は閉め切られていたのだから、空気が澱んでいるのも当然だ。

そんな智也の邂逅は、背後で美樹子が扉の施錠を掛けなおした小さな金属音で断ち

切られる。

 

 

 

 


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