(居ないって、事はないよね? しょうがない) 金色の輝く仰々しいドアノブを捻り鍵が掛かっていないことを確かめた芳弘は、 そっと重厚な扉を開いて中に足を踏み入れた。 (うわ、すごい、まるでお城みたいだ) 一流のホテルの最上階のスイートルームの意味や意義を知らぬ少年にとって、贅 を尽くしたように見える室内の調度類は圧倒的で、彼は入り口付近で立ち止まる と、間抜けに口をあんぐりと開いたまま、しきりに辺を見回すばかりだ。 「来たのか? 芳弘? 」 「あっ、はい」 次の間から純白のタキシードを身に纏った前澤がシャンパングラスを片手に現れ たので、ようやく芳弘は押し寄せて来る贅沢の呪縛から解放された。 「そんなところでつっ立っていないで、こっちに来いよ」 タキシドーがまったくと言っても良い程に似合わぬデブの科学教師の手招きに応 じて、スイトルームのリビングに足を踏み入れた少年は、そこでも贅沢を尽くし た調度品に気押されて、備え付けのソファに腰掛けるのも、おっかなびっくりだ った。 「あの、その、本日はお日柄もよく… 」 「よせよ、そんな他人行儀な口上は、それでなくても今日は、こんな似合わぬな りで今みたいな台詞を散々聞かされるんだぞ」 少年が両親から叩き込まれた結婚を祝う定番の祝詞を不機嫌そうに遮りサド教師 は溜息を漏らす。どうやらタキシードがまったく似合って無いことは前澤にも自 覚はある様だから、招かれた芳弘も自然と笑みが溢れる。 「あの、智代先生は? 」
スイートルームに他の人の気配が無いから、少年は首を傾げてサドの新郎に問い かけた。 「なんだ? 見てみたいのか? 智代のウエディングドレス姿を? 」 「はい、興味があります、きっと綺麗なんでしょうね」 素直の頷く少年に向かって前澤は曰くありげな笑みを見せた。 「残念だが、花嫁は目下、式の準備で大忙しさ。俺みたいに、こんなお仕着せの タキシードを着込めば、それでOKって言うわけには行かないからな。今頃は 1階の式場の近くの控え室で、やれ化粧だ、やれ着替えだと、てんてこ舞いだ ろうさ。それよりも… 」 切れ長と言えば聞こえも良いが、単に糸のように細い目に剣呑な光を宿したサド 教師の口からとんでもない台詞が溢れ出す。 「この部屋の番号と場所をよく憶えておけよ、披露宴は3時には終わる、二次会 もさっさと切り上げる予定だから、そうだな8時には俺と智代は、このスイー トに戻ってくるだろう。だからお前も一旦は自宅に戻るだろうが、8時過ぎに はこの部屋に戻って来るんだぞ」 「えっ、だって、今夜は、その、初夜ですよね? 」 余りにも常識を逸脱した前澤の言葉に、芳弘は唖然と成り思わず問い質す。 「そうさ、新婚初夜さ、お前、ウエディングドレス姿の智代と犯りたくは無いか ? 俺は二人掛かりで花嫁姿の売女を犯ってみたいのさ。もちろん智代には話 してあるぞ、お前が新婚初夜に混じるって聞いた時の智代の顔ったら… くく くくく… 」 衝撃の命令を聞かされた女教師の当惑はよく分かるから、芳弘は思わず腰が引け た。
「最初は嫌だって断ったよ、あの売女、でも、俺がなぁ、『そうかい、それじゃ 諦めるよ、でもな、新婚初夜にウエディングドレス姿で2本のチ◯ポに仕える チャンスは、これが最初で最後なんだぞ、しかも相手が新郎の俺と、自分の担 任の生徒の芳弘って言う組み合わせなんだからな。どんな凄い初夜になるかと 思ったが、お前が嫌ならば諦めるさ』って言って、あっさりと引き下がったん だ」 手にしたシャンパンで咽の乾きを潤したサド教師は、邪悪な笑みを浮かべる。 「あの淫売が考えを改めるのに1分とはかからなかったぞ。俺の前で土下座して 、自分が間違っていました、奴隷女の分際で御主人様の言い付けを断るなんて 、申し訳ございません。どうかヨシヒロ様と御主人様で、卑しい便器女の肉穴 を存分に御賞味下さいって、頼み込んで来たんだ」 その時の情景が手の取るように想像がつくから、芳弘の股間は強張り始める。 「まあ、夜は夜でお楽しみなんだが、今、お前を呼び出したのは別に頼みがある からだ」 これまでに何度も前澤の鬼畜さを目の当たりにして来たから、もう大概のことで は驚かぬ自信を持っていた少年だが、まだ自分が甘かった事をサド教師の次の言 葉と行動で思い知らされる。前澤は部屋の内装に合わせてクリーム色に塗られた クロゼットの扉を開くと、中から、この部屋には似合わぬ小ぶりで貧相なボスト ンバッグを取り出した。耳障りな音を立ててチャックを開いたキモオタ教師は、 愉快そうな笑みを絶やす事なく中身を取り出した。
「ほい、芳弘、受けとれ」 小さな固まりが宙を舞ったから、少年は慌てて腰を浮かせて手を伸ばし、未確認 飛翔物を捉まえた。 「あの、これ、何ですか? 」 掌にすっぽりと納まってしまう大きさの、青い楕円形の奇妙な物体の正体をはか りかねて芳弘は疑念の台詞を口にする 「わからねえか? こっちがコントローラーだよ」 振り向いて立ち上がった科学教師の手には、これまた掌の中に全部隠す事が可能 な白い長方形の物体が握られている。前澤は微笑みながら手を前に突き出して、 白いコントロール装置のスイッチを入れた。 「うわぁ! 」 掌の上に乗せていた青い楕円形の物体が急激に振動したから、少年は驚いて思わ ずテーブルの上に放り出した。ガガガガガ… と、鈍い音を立てて木目も鮮やか な高級テーブルの天板の上を、安っぽい硬質ゴム製の異物が振動しながら不規則 に動き回る有り様は少年を威圧するには十分な無気味さを備えている。 「こっ、これ、何ですか? 先生? 」 「ちょいと大きめのローターさ。ほら巷じゃ、これよりもひと回りも小さいのが ピンクローターとして売られているだろう? まあ、こいつは青いからブルー ローターと呼ぶのが正解かもな? 」 前澤の操作により、それまで無気味に跳ね回っていた青い楕円形の物体は、急に 動きを止めて無機物らしく沈黙する。
中途半端ですが、来週に続きます。
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