その32

 

 

 

 

 

「障害物が無けりゃ、ローターを操作するリモコンの有効範囲は、およそ30

 メーターだ。だから式の最中だけじゃ無くて、披露宴でも使って問題はない

 だろう。どんなタイミングでスイッチを入れるかは、お前次第だ、全部任せ

 る。披露宴の雛壇の上で身悶えする花嫁って言うのも、そそるからな」

中程まで満たされたシャンパングラスの細い脚を摘み、ひょいと持ち上げて邪

悪な笑みを浮かべる花婿を、少年は怖気付きながら見つめた。ここまで段取り

が整えられている以上、もう芳弘には拒絶する選択肢は残されてはいない。い

や、拒むどころか、前澤の鬼畜なプランを聞かされるほどに、少年の心の片隅

で蠢く闇が小躍りしているのだ。

何度と無く肌を合わせた自分ではなしに、己を肉奴隷に堕した前澤のもとに嬉

々として嫁ぐ憧れの女教師の華飾の宴を汚し、場合に寄っては滅茶苦茶にする

ことも可能な状況は、芳弘の芽生えかけの加虐心を痛い位に刺激する。崇拝の

対象から肉奴隷へと転がり堕ちた美しい女教師の聖なる式の命運を手にした芳

弘は自分でも驚くほどに冷静に成り、やがて小さな笑みを浮かべるに至る。

そこに鏡があったならば、自分が前澤と同じ様な邪悪な微笑みを浮かべた事に

驚いたであろうが、心の中に巣食う闇を踊らせて、これから先の展開を想像す

る少年は、自分の凶悪な笑みの意味を深く考えることは無かった。

いきなり部屋の中にツィゴイネルワイゼンの陰鬱な旋律が流れたから、小さな

コントローラーを手にしたまま芳弘は驚き飛び上がる。すると、まったく似合

っていない白のタキシードの胸元から着メロが響く携帯を前澤がとりだす。

「はい、わかりました、はい… はい、すぐに降ります」

二言三事、みじかく言葉を交わした科学教師は、すぐに会話を切り上げて携帯

をたたむ。

「準備が整ったから俺にも降りてこいとさ。それじゃ、行こうぜ」

部屋の主人に促されて、コントローラを握ったまま芳弘は最高級のスイートル

ームを後にした。エレベーターに乗り込むと、前澤が軽く肩を叩き呼び掛ける。

「お前のことはホテルのフロア係りに頼んであるから、問題なくチャペルにも

 案内してもらえるはずだ」

科学教師はちらっと、コントローラーを握り隠す少年の手を見る。

 

「式が始まりゃ、あとは話す暇も無いかも知れん。後のことは全部お前に任せ

るから、せいぜい楽しんでくれ」

「たっ、楽しむなんて… 緊張で胸がバクバクしていますよ、先生」

これからの事を思うと緊張で青ざめる少年を見て、前澤は湿った含み笑いを漏

らす。

「くくくくく… 心配するなよ、お前ならば、絶対に上手くやるさ」

エレベーターが目指すフロアに到着すると、前澤は少年の二の腕の当たりをど

やしつけてから、上機嫌で先に降りて行く。正装の大人の男女の中では妙に目

立ったのであろう、前澤と別れた後に学生服姿でロビーの雑踏をうろついてい

た芳弘は、すぐにホテルのフロア係りの女性に呼び止められた。

サド科学教師の言葉通り、少年は誰に咎められることもなくホテルの中庭に出

て、フロア係りの女性の誘導に従い教会に入り口に辿り着く。既に式に参列す

る新郎新婦の親族は教会の中で、各々の相応しい場所に鎮座していた。中には

暇を持て余して脇の親族と小声で談笑する者もいたが、大概はお行儀良く前を

向き祭壇を眺めているから、教会の部屋の入り口付近に紛れ込んだ芳弘の事を

気にするものはいなかった。

常日頃は信徒への説教などには使われることも無く、ただ結婚式を執り行う為

だけに設えられた教会は思ったよりも手狭で、そして内装は華美だが、どこと

なく陳腐さも感じられた。ざっと見回せば、着席している親族は20人程度、

そして世話係と見られるホテル関係者が5〜6人、それとは他に祭壇には神父

と手伝いの者が数人、そしてひとりポツンと佇むタキシード姿の前澤、彼等は

みんな主役の登場を今か今かと待ち構えていた。

 

(あっ、由梨江さんだ… )

花嫁の妹と言うこともあり、憧れの女教師によく似た雰囲気の美女は参列者の

中でも比較的に前列に陣取っている。他の親族と同様に祭壇の方に顔を向けて

いるので、彼女には芳弘の存在は認識されていないだろう。

もしも芳弘が式に紛れ込んでいると由梨江にバレたら、妙に鋭い美女は何を勘

繰るかわからないので、彼は目立たぬ様に壁際で息をひそめる。やがて、ホテ

ルの関係者のひとりが祭壇の方に歩み寄り、脇に控えていたオルガン奏者に何

にごとかの合図を送る。

すると、さほど広くも無い教会の内部に綺麗なオルガンの音色が、びっくりす

るほどの音量で響き渡る。テレビのコマーシャルなどにより聞き慣れた結婚行

進曲が流れる中で、教会後方の内扉が左右に開かれ、見知らぬ初老の男に左の

手を預けたウエディングドレス姿の智代が現れた。

(うわぁ… 綺麗だなぁ)

任されている邪悪な大役を一時忘れて、芳弘はしずしずと祭壇に向かう憧れの

女教師の横顔に見蕩れた。おそらく父親であろう初老の男性に付き添われて純

白でシックなウエディングドレスを身に纏った美人女教師は、いつも学校で見

慣れているばかりか、最近では彼女のマンションの寝室で息が掛かるほど近く

で横顔を眺める機会に恵まれている芳弘を圧倒するほどに美しく、その清楚な

振るまいからは、夜のベッドで少年やサドの科学教師の肉の玩具と成り、生け

る精液便器として虐待の限りを尽くされるマゾ女と同一人物とは、とても思え

無かった。

智代が美しく可憐で、そして清純に見えれば見えるほど、少年の心の中にはド

ロドロとした黒い情念が真夏の青空を遮る暗雲のように膨らんで行く。嫁ぐ夫

に如何様にも染められますと言う決意を現す純白のドレスに包まれた女体は、

実は性奴隷と堕ちた挙げ句に、教え子に肛門を貫かれてよがり無く淫売に成り

下がっている。

やや俯き加減でヴァージンロードを歩む美女が、処女の道を歩く資格の無い淫

乱な肉穴女であることは、ここにいる招待客やホテルの関係者、そして教会の

面々の中で、芳弘と前澤、そして智代本人しか知らない事実だ。客観的に見れ

ば、たしかに花嫁姿の女教師は美しい。白さの眩しいドレスの影響もあるが、

一流ホテルの結婚式場係りのメイク担当者の手腕は素晴らしく、一見すると薄

化粧なのだが押さえるべきツボはきちんと押さえたメリハリの利いた化粧は、

まちがいなく智代を美の女神の化身にまで昇華させていた。

来賓客、そして親族一同は皆、一様に小さく溜息を漏らして、これから婚礼の

式に臨む花嫁の美しさに感動し、清楚で初々しい智代を祝福している。だが、

女教師としての凛とした昼の顔だけでは無く、変態的なセックスや複数でのプ

レイ、そして女性器ばかりか肛門までもセックスの道具として快楽を貪る彼女

の夜の顔を知る芳弘は、取り繕った清純さが序所に疎ましく成って来ていた。

 

お前は純白のウエディングドレスを着込む資格がある女なのか? 来賓客や親

族に笑顔を振りまく淫売め! 御主人様と崇めるオタク科学教師の股間にみず

から美貌を埋めて、その勃起を夢中になって頬張り唾液を滴らせながら女陰を

濡らす色情狂が、そんな素振りを些かも見せることなく、周囲に賛嘆の溜息を

吐くことを強いる清純さを擬態する魔性の女として振るまう姿に、芳弘は奇妙

な怒りを覚えている。もう少し人生の経験が長ければ、女教師に対する怒りは

嫉妬の裏返しな事に気付くであろうが、今の少年には、そんな男女の間の心の

機微など理解出来ない。

(恥知らずなビッチめ! お前の生涯で最大にして最高の式典の行方は、僕の

 手の中のコントローラーが大きく左右する事を、これから存分に思い知らせ

 てやるぞ。)

幸せそうな微笑みを浮かべて、ホテルの関係者の中に紛れ込んでいる芳弘の前

を、そうとは気付くことなく通り過ぎた美しい花嫁の後ろ姿を見つめる少年は

、瞳に暗黒の光を宿して、手にしたコントローラーの目盛りを半分ほどまで押

し上げた。

 

 

 

 


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