その2

 

 

 

「あっ… あふぅぅ… あん、はぁぁぁぁぁぁ… 」

時折、艶かしい声を漏らす美人生徒会長の背中を数秒間、だまって見ていた洋一は、

ようやく彼女が人気の途絶えた生徒会の準備室で、机の角を使って自慰に耽っている

のだと理解した。

(なっ… なんで、会長が、こんな時間に生徒会の準備室でオナニーなんかしている

 んだ? これは夢か? それとも学校の裏にある稲荷の狐にでも化かされているの

 か? )

人は信じ難い光景を見せられると、しばらくは思考停止に陥るものだが、この時の洋

一はまさしく頭の中が真っ白に成っていた。後ろ向きだから、その美貌を今は見るこ

とが出来ないが、青龍学園高校の生徒会長を務める江波芳美は、洋一よりも1つ年上

の三年生であり、細い銀縁の眼鏡の奥の円らな瞳と、男子生徒に負けぬ長身のアンバ

ランスさが男子生徒に受けて、昨年秋に行なわれた生徒会長の選挙でも、圧倒的な得

票数を集めて会長の座に付いていた。

 

四分の一、仏蘭西人の血が流れていると噂された美女は、黙っていると余りにも整っ

た顔だちから冷淡にも見られがちだが、実際に話しをするように成ると、その印象は

一転する。なにかのおりに、ふと漏らす穏やかな笑みは見るものの心を温かくする柔

和さに満ち溢れ、実際、生徒会の決定した会則の遵守を生徒達に求めはするが、その

対応は臨機応変で人情味に溢れていると、もっぱらの評判だ。眉目秀麗にして成績優

秀な彼女なので、我こそは彼氏にと名乗りを上げる男達は多かったけれども、今の所

、彼女の好意を勝ち取ったと言われるものはいなかった。

バスケット部のエースも、テニス部の部長も、軽音楽同好会のリードボーカルも、一

度は彼女に迫って撃沈された様だった。実は洋一が生徒会の書記へ立候補したのも、

彼女が生徒会長選挙へ出馬するとの噂を聞き付けたからで、間違っても自分が相手を

してもらえるとは思わぬものの、百万分の一の可能性に夢を持って、芳美の側にいた

いと考えたからだった。

運動神経が抜群では無いが、極端に運動音痴でも無く、同学年198人の生徒中、成

績は99番、身長はクラスで丁度、真ん中辺り、面相は良く言えば素朴、悪く言えば

野暮、そんな中庸を絵に書いた様な洋一だが、彼の目論見は、まんまと当たり、芳美

は生徒会長に、そして洋一は2人いる書記の内のひとりに選ばれていた。基本的には

生徒会の業務に関する会話しか交わさないが、それでも生徒会室の外で偶然に会えた

時には挨拶程度はするし、書記として名前を憶えてもらえた事は洋一を大いに満足さ

せていた。

 

彼から見れば完璧過ぎるほどに完璧であり、しかも容姿端麗なひとつ年上の美女が、

放課後のひとけの途絶えた生徒会の準備室で自慰の耽っている光景は、けして簡単に

納得できるものでは無い。だが、彼が白日夢の世界に迷い込んだので無い限り、やは

り目の前では背を向けた美人生徒会長が、ふしだらな行為に没頭していた。あまりに

現実離れした光景から視線を逸らす事が出来ない洋一は手に汗したので、握っていた

ドアノブが滑って小さな金属音を立ててしまった。

(あっ、不味い! )

慌ててドアを閉めようとしたが、これまた掌の汗のせいで今度はドアノブを握り損ね

た洋一は、振り返り真直ぐに彼を見つめる芳美とモロに目が合ってしまった。

 

「あっ… あの、僕、なんにも見ていません、ほんとうに、何にも… 」

その発言自体が、彼がこの密室で行なわれていた年上の美女の破廉恥な行為を目撃し

たと物語っているが、動転した洋一は慌てふためき懸命に白々しい言い訳を口にする

。そんな生徒会書記の若者に対して、銀縁の眼鏡を通して芳美の鋭い視線が向けられ

ていた。

「そう、見たのね? 私のオナニーを… 」

「いえ、だから見ていません。なんにも、見ていなんです。見ていたとしても、誰に

も言いません。本当に言いません。黙っています。信じて下さい」

恥ずかしい自慰の場面を見られた芳美よりも、うっかりと忘れ物をして、ここに戻っ

てきた洋一のほうが狼狽していた。

「とうとう見られちゃったのね? オナニーしているところを… 」

「あの、えっと、その… 見えませんでした、ぜんぜん、見えていません。何をして

いるのかも分かりませんでした」

もはや支離滅裂な発言に成っているが、芳美の自慰姿を偶然に見かけてしまった若者

は、彼女から嫌われるのを恐れて、なんとかこの場を取り繕おうと一生懸命に弁明す

る。

 

「それで。こんな時間に君はどうして生徒会室に居るのかな? 塩沢くん? 」

彼女は別段、悪びれた様子も無く、また出歯亀を決め込んだ彼を非難する気配も無い

事から洋一は、なぜ自分がここに居るのか手短に説明した。

「ふ〜ん、つまり君は忘れ物をしたと申告して警備員さんから鍵を借りて、ここにい

 るのね? 」

「はい、そうです会長」

銀縁眼鏡の弦を右手の中指で押し上げた美女は、無表情なまま洋一を見つめる。二人

きりでこんな風に見つめ合った経験の無い若者は、どうしてよいものやら分からず黙

り込む。

「すると… 」

数秒の沈黙を破り芳美が口を開いたので、若者は少し驚き身を竦ませた。

「あまり愚図愚図していると、不審に思った警備員さんが様子を見に来てしまうわね

 。だから… 」

ここでもう一度、芳美は彼を見つめ直した。

「塩沢くんは、忘れ物を持って警備員さんの控え室に鍵を返しに行きなさい」

「はい、わかりました、会長」

二人っきりの重苦しい雰囲気から解放されるのを喜び、洋一は身を翻す。

「待ちなさい、塩沢くん」

呼び掛けると共に、いきなり腕を掴まれた若者は、仰天してその場に固まる。

「鍵を返して正門を出たら、そのまま塀伝いに進んで裏門まで廻り込んでちょうだい

 。そこで待っているから、必ず来るのよ」

「うっ… 裏門ですか? はい、分かりました」

彼が頷くと芳美は初めて笑みを見せた。

 

「すっぽかさないでね、ちゃんと待っているから、なるべく早く来てちょうだい」

そう言い残した芳美は自分の鞄を手に取ると、ひとあし先に生徒会室を出て行った。

洋一とは異なり、裏門からそっと出るには都合が良い本校舎の奥の階段へ向かう美人

生徒会長の後ろ姿を廊下で見送りながら、彼は改めて生徒会室のドアを施錠した。

(夢じゃ無いよね… )

鍵を警備員に返した洋一は通用門をくぐり表通りに出るまでに、何度も自分の頬を抓

ってみたが、その都度、顔面に鋭い痛みが走ることから、これまでの一連の出来事が

夢や幻では無いことを自覚する。

(まっているって、言っていたけれど… えっ! こんな時間に芳美さんをひとりっ

 きりで待たせたらマズイ! )

彼は教科書とノートを小脇に抱えて、学校の塀に沿って駆け出した。塀が途切れた角

を曲がり突っ走ると、人気のない街灯の光りの下で佇む憧れの生徒会長の姿を見つけ

て、思わず安堵の溜息を漏らす。慌てて駆けて来た若者が辿り着くと、芳美は微笑み

頷いた。

「思っていたよりも、ずっと早かったわね。ありがとう、塩沢くん」

「はあはあ… いえ、はあ… はあ… お待たせして、はあ… すみません」

、まだ息が荒い後輩の様子を少しの間、眺めていた彼女は洋一の呼吸が少し楽になっ

たのを見極めてから彼の手を握った。

 

 

 

 

 


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