その6

 

 

 

 

楽しい放課後の事を思うと、その日の授業ではやけに時間が過ぎるのが遅く感じられ

た。2時限目の数学の授業で芳美から模範的な解答を与えられていた若者は、何の問

題も無く難関の宿題を切り抜けた。これで悲惨な週末を免れたと安堵した洋一だった

が、それから放課後に至るまでの時間が、いつもの2倍も3倍も長く感じたことには

閉口した。

(まだ地学の授業が始まって15分しか経っていないのか? この後、古文の授業も

 あるんだよねぇ… まったく、嫌になっちまう)

昼食を終えた直後の授業であり、いつもならば初老の教諭の言葉が子守唄に聞こえて

、ついウトウトしてしまう洋一なのだが、今日に限っては5分、いや3分に一度は黒

板の脇の大きな壁掛け時計の目が行き、その為に余計に授業時間が篦棒に長く感じら

れていた。時が過ぎるのがこんなにも遅く感じたことは、これまで無かった洋一は、

イライラしながら時計の長針を睨み付ける。ようやく地学が終わり、あとは古文を残

すだけとなった休み時間に、雅也が彼の元に歩み寄って来た。

 

「なあ、洋一、今日、帰りに駅前のゲーセンよらねぇ? クレーンゲームの景品が昨

日、かなり入れ変わったって満雄が言ってたぞ」

彼が自他共に認めるクレーンゲーム・フリークなことから、雅也は彼が断るハズが無

いと思って誘い掛けて来たのだ。

「悪い、今日は臨時の生徒会の会合みたいなんだ。だから一緒には帰れない」

「あっ、そうか、それでさっき、生徒会長がわざわざ、下っ端書記のお前のところま

 で訪ねて来たんだな。わかった、そんじゃ満雄達と寄って、新しいアイテムは根こ

 そぎいただくとするよ」

勝手に勘違いしてくれた雅也だが、彼の認識の過りをわざわざ訂正する必要は無いの

 で、洋一は悔しそうなふりをして友人を睨む芝居をする。

「少しぐらいは残しておけよ」

「いやだねぇ〜 お前は、あの美人の生徒会長と、ヨロシクやれば良いじゃんか。駅

 前のゲーセンのクレーンゲームのニューアイテムは、俺と満雄と哲治で総捕りだぁ

 ぁ! 」

思わずドキっとする様な台詞を残して、雅也は自分の席に戻って行く。それが悔し紛

れの冗談だと分かってはいても、自分と芳美の仲を揶揄した雅也の捨て台詞に彼は冷

や汗を流した。

 

(浮かれるなよ、洋一、ここは慎重に行動しないと駄目だ。僕は平凡で誰にも目を付

 けられていないけれど、芳美さんは美人だし、何と言っても生徒会長なんだから、

 いろいろな奴等に注目されているもんな)

友人の冗談が良い警告と成り、洋一は面持ちを引き締めた。梅雨時に窓を這うナメク

ジの方が、まだ早いのでは無いか? と、思うほどに、この日最後の授業と成る古文

では、時間が過ぎるのが遅かった。それでも洋一は忍耐強く時計を睨み、ジリジリと

しながら終了のチャイムを待った。

「ふぅ、時間か… 来週は期末テストの範囲と傾向を説明するから、欠席しないよう

 にな」

終了のチャイムの3分前に、中年の古文の教師は授業を切り上げた。後はホームルー

ムを残すだけと成ったから、洋一は思わず深く溜息を漏らす。

 

(もう少しだ… もう少しで、また芳美さんと… )

昨晩の行為が余りのも刺激的過ぎたので、洋一の期待は大きく膨らむばかりだ。担任

の教師が明日以降の注意事項を伝達した後にホームルームも終わり、若者はようやく

牢獄の様な教室から解放される時が来た。だが、ここに至り、ようやく洋一は自分の

行動に慎重さが求められる事を悟っていた。このまま駆け足で本校舎の4階の生徒会

室に飛んで行きたいのは山々だが、万が一、他の生徒会の役員連中に迂闊な姿を見ら

れたら、今日は生徒会の会合が無いのに、なぜ書記の洋一が生徒会室に急ぐのか? 

と、不審に思われるであろう。また、クラスメイトの連中も、芳美がわざわざ一年生

の教室まで洋一を訪ねて来た日の放課後に、彼が生徒会室に駆け付けるのを、変だと

思う奴がいるかも知れない。そんなことを考えると、自由の身になったからと言って

不用意に生徒会室に急ぐのは早計だ。

 

逸る心を抑えつつ、洋一はいつもよりゆっくりと帰り支度を整える。親しい友人達は

、駅前のゲームセンターのクレーンゲームに入った新しい獲物の獲得に夢中なようで

、前もって同行を断っていた洋一を無視して、すでに教室から姿を消している。改め

て周囲を見回して、自分を注目している目が皆無なのを確かめてから、洋一は鞄を手

に持ち立ち上がる。

(焦るなよ、ここは普通に… そう、普段通りに行動するんだ)

下駄箱がある中央口とは反対側の廊下の突き当たりまでゆっくりと歩いた若者は、多

くの生徒が帰宅の為に下ってくる階段を昇り始めた。人の流れに逆らうことになるが

、下ってきた生徒達は洋一の事を気にとめる様子は無い。そのまま4階まで昇り切れ

ば、このフロアには常設の教室はひとクラスだけで、後は音楽室、理科室、視聴覚室

など、選択科目で使用される教室が多いので、はやくも人影はまったく見当たらない。

 

吹き抜けと成っている階段から下層でのざわめきは聞こえて来るが、階下に比べて静

かな廊下を彼は早足で歩いて行く。生徒会室の前まで辿り着いた洋一は改めて廊下の

左右を見回すが、人影も人の気配もまったく感じられない。誰にも見られていない安

心感から、彼は大きく深呼吸をして、おもむろにドアをノックした。返事は無いが、

彼の存在を示す事が出来たので、洋一はひと呼吸おいてから横開きの扉を開けた。

「塩沢です、はいり… 」

俯き加減で生徒会室に一歩、足を踏み入れた若者は、目の前に芳美の姿を見つけて、

挨拶が途中で途切れた。すると、彼女がいきなり抱き着いてくるから、洋一は慌てて

後ろ手で背後の扉を閉ざした。彼が背中に廻した手で、なんとか生徒会室の扉を施錠

しようと苦労する間に、芳美は彼の頬を両手で挟み込むように確保して、そのまま柔

らかな唇を押し付けて来た。

「ちょ、ちょっと、待って下さい、芳美先輩、鍵をかけなきゃ… 」

「いやよ、もう1秒だって待てない、何を愚図愚図していたのよ! 」

軽く触れるだけのキスでは無く、彼に抱き着いた年上の美女は口を小さく開き、舌を

差し伸べてくるではないか! 喉咽粘膜を這い回る軟体の感触は甘美で、洋一は存分

に濃密なキスを楽しんだ。しばらくは舌を絡め合い唾液を混ぜ合う濃厚なキスを堪能

した芳美は、息が苦しくなった事もあり、ようやく唇を離した。

「それで? 鍵はちゃんと掛けられたの? 」

「あっ、いえ、まだです」

彼女から身を離した洋一は振り返り、今度はちゃんと自分の目で確かめながら扉の施

錠をおこなった。これで安心とばかりに顔を上げた若者は、芳美が清掃道具をおさめ

たロッカーから、木製の柄の長いモップを取り出したのを見て驚いた。

「ちょっと、どいてちょうだい、洋一」

若者を押し退けた美女は横開きの扉に歩みより、モップを使って上手く突っかえ棒を

噛ましたのだ。

 

 

 

 


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